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第百七十九話『腐れ縁こそ何よりの』

「……まさか、アリシアがエルフの血を引いてたなんてね……」


「少し待っていてくれ」と言い残して店の奥へと消えていったアリシアを見送ってから、ネリンはしみじみとそう呟いた。


「意外だったか……なんて、その顔を見りゃ聞くまでもないか」


「そりゃそうでしょ……。なんだかんだずっと腐れ縁なのよ?」


 俺の言葉に、ネリンは少し呆れたように肩をすくめてみせる。どうも怒っているようには見えなかったが、それでも何か引っ掛かる事はあるようだった。


「……ショックだったか?」


「いや、そんな事はないわよ。誰にだって秘密の一つや二つはある……アンタにも言った事だし」


 遺跡でもそうだったが、ネリンは他人の秘密に対して寛大だ。隠されていたことを怒りもしないし、必要がなければ無闇に掘り返そうともしない。今回ばかりは、成り行きで必要となってしまったのだが。


「……その割には、何か考えてるみたいだけどな」


 何も気にしていないなんて風を装っちゃいるが、普段通りのネリンじゃないのは確かだ。そこに踏み込むのが正しいのかは分からないが、今はどんなことでも聞いておきたかった。


「……ああ、バレてた?少しばかり考え事をしてたのよ」


「案外お前は分かりやすいからな……。んで、何を考えてたんだ?」


 苦笑するネリンにもう一歩歩み寄ると、どことなく気まずそうにネリンは下を向く。そして、いつもの威勢の良さからは想像ができない小さな声で、


「……あたし、エルフの里に行くのが夢って言ってたじゃない?あれ、アリシアにも伝えたことあるのよ」


 そう、どこか後悔するように呟いた。


「あー……。それは、確かにややこしい話だな」


 知らなかったから仕方ないとはいえ、確かにそれはアリシアからしたら緊張する話だっただろう。それに対してネリンが気まずい思いをするのも仕方がない気もした。


「知りようがなかった事だから、言わなきゃよかったなんて後悔もできないんだけどね。……あたしとしては、少し気まずいのよ」


「……そういうもんなのかね……」


 知らぬが仏なんて言葉もあるし、ネリンが無闇に申し訳なさを抱く必要もないとは思うのだが。なんだかんだ、ネリンもアリシアのことを大切に思っているのだろう。


「その時何を思ったのか、なんて聞いても無駄なのは分かってるけどね。どーしても、考えないのは難しいのよ」


「……それに関しては、答えが出てると思ってるけどな?」


「……へっ?」


 俺の言葉に、ネリンは弾かれたように視線をこちらに向けてくる。俺の言葉が意外だったようだが、俺からしたらこれはひどく簡単なことに思えた。


「お前の後悔を拭う術は分かんねえけど、アリシアがその言葉をどう思ってたかは明白だろ。……『特になんも思ってない』ってな」


「何にもって……どうしてそんなことが言い切れるのよ?」


「……いやだって、それを言った後も特に何も変わらず関係が続いてるじゃねえか」


 それ以上の答えがあるか?と。


 そう締めくくった俺に、ネリンはあっけに取られたような視線を向けた。


「……確かに、何にもなかったわ。アリシアは、いつだってあんな感じだった」


「だろ?腐れ縁っていう今の関係性が、アリシアが何も気にしてない一番の証拠だよ」


 簡単なことだ、と俺は肩をすくめてみせる。それをネリンはしばらく見つめていたが、やがてぷっと吹き出した。


「……どうした、急に笑い出して」


 腹を抱えて笑い出すネリンに、今度は俺が怪訝な目を向ける番だった。何か悪いものでも食べたかと、俺が夜ご飯のメニューを思い出そうとしているとーー


「……いや、あまりにも単純な答えすぎてね。ぐるぐると考えを回してたあたしが、なんだかバカらしくなっちゃって」


「……異世界出身ってことを明かした時の俺も、そんな感じだったよ」


 自分自身が複雑だと思ってることも、実は案外簡単だったりするものだ。それに気づいてないのが自分だけなんだから、尚更不思議なんだが。


「……そう、よね。アリシアが今もこんな風にいることが一番の証拠よね」


「そういうことだ。今だって、俺たちの力になろうとしてくれてる訳だからな」


 普段の印象からは想像もつかないくらい、さっきのアリシアは真剣な目をしていた。それが見られるのは、きっとネリンの頼み事だったからなのだろう。


「……お前が思ってるより、お前ら二人はよっぽどいい関係だよ」


「そう?……それを素直に認めるのも、なんか癪ではあるのよね……」


 俺の賞賛に、ネリンは複雑そうな表情をみせる。素直に友達だと認めればいいのに、本当に素直じゃないやつだ。


「……アリシア、ちゃんと説得できてるのかしらね」


 そんなことを話していると、結構な時間が経過していた。そろそろかなと、アリシアが消えていった方向を見つめていると。


「……やぁ、待たせたね。お茶の一つでも出しておけばよかったかな?」


 片手を上げながら、アリシアが奥から戻ってくる。その後ろには、細身の女性が立っていた。


「……その人が……?」


「ああ、ボクの母親さ。……きっと、キミたちに有益な情報を伝えてくれるはずだよ」


 アリシアがそう紹介すると、女性がペコリと頭を下げる。ーー俺たちが求めている答えは、少しずつ近づきつつあるようだった。

ネリンとアリシアの関係値は独特ですが、その間にある信頼をしっかり感じ取っていただけているといいなぁと思ってこのエピソードを書きました。このコンビはまだまだ再登場の機会があると思いますので、楽しみにしていただならばと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていってください!

ーーではまた明日、来年の午後六時にお会いしましょう!

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