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第百七十八話『友人の頼み』

「エルフの血?……ああ、そういえばキミには話していなかったね」


 必死の形相で訪ねた俺たちに対して、アリシアの答えは実にあっさりとしたものだった。


「そういえば……って、そんな気軽に言っていいものなの⁉︎」


「まぁねぇ。ボクが避けられているのが少しだけ残ったエルフの血だと言われても、しっくり来ないんだよ。少々人格に難があるのは自覚しているからね」


「そこは……あたしも否定はしないけど……」


 いやしないんかい、という野暮な突っ込みはとりあえず置いておくとして、俺はアリシアの表情を見つめた。


 呆れたように苦笑するその顔に、無理しているような色はない。簡単に言えば、いつも通りだ。マイペースなところがあるのは分かっていたが、それでも俺からすれば予想外だった。


「ボクからすれば、キミたちがその事実に行き着いたことの方が驚きだけどね。まさか調べ回った訳ではないだろう?」


「そんなことする訳ないわよ。……ただ、アンタによく似たエルフのことを知らずにはいられない状況に置かれちゃって」


「それはお気の毒……というべきなのかな?ボクみたいなのは一人で十分だと、自覚はあるからねぇ」


「同時期に存在してなかったことを、あたしは感謝せずにはいられないわ……」


 煙に巻くようなアリシアの話っぷりに、ネリンは思わずこめかみを押さえた。


 話せば話すほど、アリシアとキャンバリーがダブって見えてくるのが止まらない。これも血の繋がり、ってやつなのだろうか。


「こんな夜に駆け込んでくるぐらいだから、君たちにとってそれが重要なことであることくらいは想像ができるんだけどね。……事情、ボクに話してくれてもいいんだよ?」


「それは……どうした、もんかしらね……」


 優しげな光を宿したアリシアの視線に、ネリンは助けを求めるようにこちらを見てくる。……何で葛藤しているのかは、だいたい想像が着いた。


『全部解決してからアイツに話してやるわ』


 屋敷に初めて訪れた時、ネリンがそう言っていたのを思い出す。その顔が相当悪かったから印象に残っているのもあったが、まさかここまで来てそれが引っかかってるなんてな……意地っ張りここに極まれり、だ。


「いいんじゃねえの?ここからアリシアの力が必要になる可能性だってあるしな」


「そうね……そう、よね……」


 ネリンの中でも分かってはいたことだったのか、俺の言葉にうなだれながらネリンは淡々と屋敷の事情を話しだす。アリシアはそれに頷きながら、ゆっくりと話の顛末を聞いていたが……


「なるほど……あの幽霊屋敷が、まさかボクの先祖の家だったとは」


「……ってアンタ、知らなかったの⁉︎」


 興味深い、と目を輝かせたアリシアの姿に、ネリンは思わずそう突っ込んでいた。


「知らないさ。そうでなくちゃあそこを幽霊屋敷なんて呼ばないだろう?ボクは好奇心に関して嘘は吐かないさ」


 興味のない事はしない、とアリシアは当たり前のように告げる。……まぁ、たしかにアリシアが建前を言うような人物に思えないのも事実だった。


「と言う事は、キャンバリーのことについては何も知らないってことよね……?」


「そうなるね。なんならその名前すら初耳だ」


「……でしょうね……」


 そうだろうと思ってたわよ……とネリンは乾いた笑みを浮かべる。屋敷のことを知らないなら納得の話ではあったが、それでも俺たちの行動が空回りに終わったのも事実だ。


「これじゃあアンタの秘密悪戯に掘り返しただけじゃない……」


「秘密というほどのものはないけどねぇ。なんならキミ以外の同世代は大体知ってるんじゃないかな?」


「……え、そうなの……?」


「だから人が寄り付かなかったんだーって、母さんが嘆いていたところから推測しただけだけどね。さっきも言ったけど、ボク自身にその自覚はない訳だが」


「つまり、あたしだけが知らなかったってこと……?」


 自分を指差してそう問いかけるネリンは、いまだに驚愕を隠しきれていないようだ。そんな友人の姿に、アリシアはゆっくりと頷いてーー


「ああ。キミが情報に疎かっただけ、とも言えるね」


「……あたしが抱いた申し訳なさを返してくれる……?」


 ぐったりと肩を落とすネリンとは対照的に、アリシアは楽しそうに笑っている。この二人の会話の主導権は、どこまで行ってもアリシアにあるようだった。


「今まで伝えた通り、ボクはそのキャンバリーとやらのことを知らない。したがって、屋敷の謎についても力になる事は難しいだろう。非常に興味深い謎なのは確かだけどね」


「そうよね……。悪かったわね、こんな夜遅くに。それじゃ、あたしたちは調査に戻るからーー」


「だけど」


 くるりと踵を返そうとしたネリンを、アリシアの鋭い声が呼び止める。その声には、今までにない真剣味があった。


「ボクの母親ならば、きっと二人の力になってくれるだろう。今なら仕事を終えて後ろに引っ込んでいるだろうからね」


「アリシアのお母さん……そういえば、会うのは久しぶりね」


「まぁ、繊細な人だからね。……そこは、ボクがどうにか説得してみせるよ」


 ネリンの目を真っ直ぐ見つめて、アリシアは力強く宣言する。その後、少し照れ臭そうに目を細めるとーー


「ボクの数少ない友人の頼みだ。……ボクにできる事があるなら、全力で応えて見せようじゃないか」


 そう言って、ニッと笑ってみせたのだった。

真相に向けて話はさらに加速していきます!果たしてどんな結末が三人を待っているのか、次回以降もお楽しみに!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていってください!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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