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第百七十話『ただの模型』

「ミズネも、模型部屋を……?」


 なんというか、予想の斜め上を行く提案だった。夜までに資料をかき集めるとなると手分けするのが一番だし、ミズネはミズネで調べることもあるだろうと思っていたからだ。だが、当のミズネは既に意志を固めているようだった。


「ああ、一緒にだ。最初にここを訪れたヒロトの意見も交えたいからな」


「……つまり、そこに何かがあると」


「何かは間違いなくあるだろうな。……少し、確認したいこともある」


「確認って、何を……いや、やっぱ言わないでいい」


 含みを持たせたその物言いは気になるが、ミズネが話さないということは俺たちが理解できない話だろう。ミズネのおかげで何とか事態は前進しているものの、ミズネが居なかったら俺たちは今頃確実に詰んでいるのだから。探偵のやることを邪魔しないのが助手のせめてもの務めだしな。


「助かる。……まだ一つ、分からないことがあってな……」


「全部は模型部屋を見てから、ってことだな。そうと決まれば早く行こうぜ」


 それが確認できれば一番なのだが、と腕を組むミズネの前に立ち、俺は模型部屋までミズネを案内する。ドアを押し開けて中を確認すると、室内は初めてこの部屋を訪れた時と全く同じだった。


「分かっていたとはいえ、実際にリセットされてるのを見ると不思議な気分だな……」


「違和感はぬぐえないだろうな。現状維持をしてくれるという点では、ありがたい事ではあるのだが」


 壁に寄せられた本棚に、地面に散乱した様々な色の破片。そして、中心には作りかけの模型がある。あれが完成していれば、この街を大きな結界術が保護していたのだろうか。


「あれが模型か。……ヒロトは、アレを確認したか?」


「……いや、特に。鍵を握る物だっていうのは横の本棚を見ればわかったけど、何がどう鍵なのかが全く分からなかったからな」


 見れば見るほどそれはただの模型で、特に変わったところはない。よくできているなー、くらいの感想を抱くのが俺にはせいぜいだった。


 だがミズネなら、それから何かを見出すこともできるだろう。そんな期待を抱きながら、俺は模型へと歩み寄っていくミズネの後ろ姿を見つめていたが――


「…………本当に、ただの模型だ。何の変哲もない、何の加工もない」


「……へ?」


 暫くしてミズネが下した結論に、俺は耳を疑った。


「本当に、ただの模型なのか?魔術的な何かがあるわけでも無く?」


「ああ。……これは、相当質の悪い代物だな」


 どうやら本当に細かいだけらしかった模型を見て、ミズネは顔をしかめている。いくら見せかけだけのものだったからと言って、そんなに深刻な顔をしなくてもよいと思うのだが――


「……ヒロト。結界術については分かるか?」


「……ああ、さっき調べたぞ。『一つの核を中心として、結界の内側に様々な効果をもたらす魔術』……みたいな感じだろ?」


「大体あってる。裏を返せば、結界とは核が無くては作り出すことができないんだ」


「……そう、だな……?」


 いきなりなぞなぞのようなことを言い出したミズネに、俺は首をかしげながらも相槌を打つ。何かに気づいた時のミズネの言葉の意味が読み取りにくいのは最早慣れたものだが、今回は一段と言いたいことが読めないな……。


「そう、結界には核がいるんだ。屋敷に展開されている結界では、おそらく屋敷の模型がその役割を果たしている。……なら、この屋敷の持ち主が張ろうとしていた結界の核はどこだ?」


「どこって……この模型じゃダメなのか?」


「そうだな。私も、最初はそうだと思っていた」


 首をかしげる俺の答えに、ミズネは満足そうにうなずく。……だが、その直後すぐに緩やかに首を横に振った。


「だからこの模型を調べたのだが、この模型からは一切の魔力的な反応を感じない。……それでは、結界の核としての役割は果たせないんだ」


「……だから、何の変哲もない模型だったことに驚いてたのか……⁉」


 ミズネからすれば、『あるべきものがない』の典型と言ってもいい状況だったわけだ。それは確かに驚くべきことだろうし、直接確認したいとミズネが提案してきたのも納得だった。


「ということは、どこか別のところに結界の核があるとか……?この町全体に干渉するわけだし、この屋敷じゃない可能性もあるよな」


 もしそれを探さなければいけないとなればかなり面倒な話だ。今のところ探す必要性はないし、そうなることはこれからもないとは思うのだが――


「いや、私が考えているのは別の可能性だ。……それも、かなり信憑性が高い」


「別の可能性……?」


「ああ。……キャンバリー・エルセリアが、そうとうひねくれたエルフだったという可能性だがな」


「……それはまた、いかにもあり得そうな可能性だな」


 渋い顔をして、ミズネは自分の考えを示す。相槌を打ってミズネに先を促すと、ゆっくりとミズネは話し始めた。


 すなわち――


「『可能性と実例は示した。必要な情報も提供してあげるから、後は君たちの力だけで頑張ってね』―—キャンバリー・エルセリアがそんなことを言って見せていたのだとしたら、この量の資料が蓄積されているのも当然だと思わないか?」


 明確にミズネの声だったはずのセリフ。……そのはずなのに、不敵に笑うキャンバリーのシルエットがミズネになぜかダブって見えた。

通算7万PV、本当にありがとうございます!6万突破の時はタイミングを逃してしまったのですが、ここまで来られたのもこの物語と出会ってくださった皆様のおかげです!これからも頑張っていきますので、是非ともお付き合いください!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価などしていっていただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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