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第百六十七話『屋敷を綺麗にする方法』

「模型探しが第一……ってことは、書斎とかは後回しでいいの?」


「ああ、後回しで全然構わない。それよりも優先度が格段に高いことだからな」


 唐突で断定的なミズネの提案に、ネリンは不思議そうに首を傾げる。しかしミズネの中ではもはや決定事項レベルなのか、ネリンに対する返しは凄まじく早かった。


「随分重く見てるんだな……屋敷の模型がそんなに重要なものだったのか?」


 確かに模型探しも今まで行動候補の一つではあったが、探索のついでくらいの立ち位置だったはずだ。それがいきなり優先事項に格上げとなると、何か事情があると考えるのが自然な話だった。


「ああ、そこは今から順を追って説明する。……二人とも、あの屋敷にあった二つの謎は覚えているよな?」


「もちろん、それくらいはね。……もっとも、屋敷が綺麗になるのはそのために組まれた術式が今でも機能してるからっていうのがヒロトの図鑑から判明してるけど」


 ミズネの問いかけに、ネリンは胸を張って補足までしつつそう答える。屋敷に行くまでもなく半分の謎が解けた時は楽勝ムードが漂っていたわけだが、簡単な話だと目されていたもう一つの謎が今となっては謎の天才エルフまで巻き込んだ難問に発展するのだから厄介な話だ。


「ネリンの言う通りだ。この屋敷が絶えず清潔に保たれていたのは、そのための術式が働いていたから……では、『そのための術式』とはどんなものだと思う?」


 ネリンの答えに満足げに頷きながら、ミズネは次の疑問を投げかけてくる。……しかし、今度は俺もネリンも咄嗟に答えることができなかった。


 言われてみればあの図鑑には術式が使用されているということしか記述がなかったわけで、それがどのような原理で行われているかに関しては全く言及がなかった。なくても特に困らない情報だろうと、その時は何も気にしなかったのだがーー


「……まさか」


 そこまで考えて、ふと気がついた。屋敷を清潔に保つための術式とは、何も直接綺麗にするだけがその手段ではないのだ。まるでゲームのセーブデータを読み込むかのように『綺麗だった頃の屋敷』の状態を保存し、定期的にその状態に戻すことさえできれば屋敷はずっと清潔なままだ。……そして、そのための手段はたまたま目の前にあるわけでーー


「おそらく、ヒロトのひらめきで大体正解だ。キャンバリーの作り上げた術式の効果で、定期的に屋敷が模型通りの状態に戻されていたのだろう」


 それを私たちは勝手に綺麗になっていると錯覚したわけだな、とミズネはさっぱり締め括る。今こうやって言われれば納得することもできるが、そのことを知らなければ絶対に辿り着けない仮説なのもまた事実だった。


「確かにそれは納得できるけど……でも、それが模型を急いで探さないといけないことにどう繋がってくるの?」


 俺がそんなことを考えていると、ネリンが一歩ミズネに歩み寄りながらそんな質問を投げかける。ミズネはそれを待っていたと言わんばかりに大きく頷くと、


「そこまで考えた上でーーそしてこの論文を読んだ上でわかることなのだが、私たちは一つ勘違いをしていたんだ。……それはきっと、かつての屋敷の主人も例外ではない」


「勘違い…?」


「ああ、それもかなり重大な、な。見落としていたと言ってもいいかもしれない」


 含みを持たせたその言葉に、俺は思わず首を傾げる。ミズネの中ではどうやら仮説が完成しているらしいが、その全貌は未だに俺には見えてこないようだった。


「順を追って説明していこうか。まず、私たちはこの屋敷を清潔に保っていた術式が模型を用いたそれであるとは気づいていなかった。だから定期的に清掃術式が使われていたものだと考え、それが今でも続いていると見ていたんだ。……だが、ここがそもそも間違いだった」


「屋敷が綺麗だったのは模型を用いた術式のおかげで、その模型の状態に屋敷がたびたびリセットされてたから、なのよね」


「そうだ。……つまり、あの屋敷は定期的にリセットがかけられるわけだ。長老も言っていただろう?『奴は百五十年でダメになるようなヤワな術式は組まない』とな」


「……てことは、今でも屋敷と模型とのつながりは生き続けてる……?」


 四百年動き続けている術式を遺跡で見た以上理解はできるが、それとはまた規模が違いすぎる。……というか、定期的に模型の状態が屋敷に反映される……?


「……それ、屋敷の持ち主はこの術式の本質を読み違えてたことにならねぇか?」


 あの日記を読む限り、屋敷の持ち主は街の破損を模型を修復することによって再生しようとしていた。だが、そんなことをわざわざする必要はないのだ。初めから完璧な街の模型を組んでおけば、後は定期的に街がその状態を模倣するのだから。それを知らなかったことが、ミズネの言っていた『勘違い』ということなのだろう。


「そういうことになるな。この術式は、一度組み上げてさえ仕舞えば止めない限り定期的に模倣を繰り返す。……だからこそ、私たちはまず真っ先に屋敷の模型を探し出さなければならないんだ」


 そこまで言い切って、ミズネは呼吸を一つ置く。そして、感嘆とも困惑ともなんとも言い難い表情を浮かべて、こう言った。


「私たちがどれだけ探索をしようと、その術式が起動した瞬間にそれらは全て水の泡だ。……そんなことを繰り返すのは、なかなかに気疲れすると思わないか?」

ということで、少しずつ点と点が繋がりだしてきました!やっと明らかになり始めた屋敷の全貌に対して三人がどう立ち向かっていくのか、ぜひお楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていってください!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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