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第百六十一話『ショーダウン』

「……ミズネから行ったし、次はあたしでいいかしら。一ラウンド目と同じ順番ってことで」


「ああ、それでいいぞ。特にそこにこだわりもないしな」


 先にしたって後にしたってかかるプレッシャーの大きさは変わらない。俺の判断が正しかったのか、カードをめくってはじめてわかるのだから。その緊張はネリンにとっても同じなようで、山札に置かれている右手が微かに震えているのが見て分かった。


「……それじゃ、行くわよ」


「ああ。一思いにいっちまえ」


 ここまで来たらあとは祈るだけなんだから、と付け足すと、小さく苦笑しながらネリンは山札に視線を集中させる。そして、ゆっくりと、丁寧にカードを持ち上げて――


「……だああああっ、負けたーーーっ!」


 心底悔しそうな声を上げながらソファーにもたれかかり、居間の高い天井を仰いで見せた。そこに合ったカードの合計値は、なんと28。


「大接戦じゃないか……皆出目が高いんだな」



「ここまでくると最初のミスが本当に悔やまれるわね……。あそこで9を捨てなかったら間違いなく勝ってたわよ」


 驚いたようなミズネの声に、天を仰いだままネリンはため息をついてみせる。根っからの負けず嫌いなだけに、1差で負けたのはよほど効いているようだった。


「……ま、初見にしてはよくやった方だとは思うけどね。そこまでして負けたんだったら、悔しいけどまあ納得はできるわ」


 しかし、どこか晴れやかな声でネリンはそう付け加えた。あくまで上を向いたままの姿勢だったが、その口元は笑っている。


「そうか、それなら何よりだ。……それじゃあ、後は――」


「俺の結果を見るだけ、ってことだな」


 熾烈な駆け引きの結果も、迷った末の判断の正誤も、全てはここで決定される。俺の賭けとミズネの信念、そのどちらが運をもたらしたのか、そこが勝負の分かれ目だ。


「……やべえ、これめっちゃ緊張するな」


 山札に手をかけた瞬間、手がさっきのネリンのようにプルプルと小刻みに震えだす。頭上に掲げてるときはカード三枚でもなんとも思わなかったのに、今はこのカードたった一枚があり得ないくらいに重かった。


 俺の賭けとミズネの信念、そのどちらが今日の運を持ってきたかがこのカード次第で決まるわけだ。そんなことを考えれば、この一枚がこんなに重いのも当然か。


「……なあ、先に俺の二枚を公開しとかないか?」


 それを少しでも和らげるために、俺は二人にそう提案する。そうすれば、俺もカードを引いた瞬間に勝敗が分かるからだ。勝負のドローの後、ワンテンポのラグがあって勝敗が浸透するのもなんだかテンポが悪い気がした。


「ああ、構わないぞ」


「あたしも賛成。なんせそっちの方が面白いしね」


 そんな二人の答えを待って、俺は掲げていた二枚の手札をテーブルに置く。そこにあったのは、12と9のカード。この時点で、俺は10以上を引き当てなければ勝てないことが確定した。9が出切っているのもあって、かなり厳しい勝利条件だ。


「……やっぱり、そこまでは本当だったか」


「全てハッタリでは信憑性がないからな。最後の一枚にすべてをかけたが、そこを見抜かれたんだからお手上げだ」


 俺の視線に、ミズネははにかみ笑いを返す。そういう意味では、ショーダウン前の決断も含めて俺とミズネは一勝一敗ともいえるかもしれない。


「……だから、ここで真の勝者を決めるとしようぜ」


 そう言って、俺は山札に視線を戻す。ゆっくりと手を置いて、その震えを止めようと大きく息を吸う。真剣に遊んで、真面目に勝負したからこそ、この右手にかかる重圧は半端なものではなかった。


「それじゃあ……行くぞ‼」


 指三本でカードを挟み込み、ゆっくりと引き上げる。そして、三人の視線が集まる中、俺の最後の一枚がテーブルの上に置かれて――――――――


「……よし‼」


「だーーーっ、マジかよ……!」


 俺がうなだれるのと、ミズネから派手なガッツポーズが飛び出したのは同時だった。


 この勝負所で俺が引いたカードは3。三人通じて引きが上振れてたのもあって低い数字が残っていたのも事実だが、俺だけ少し二人に水をあけられるという何とも締まらない決着に終わった。


「いやー綺麗に決まったんだけどな……最後の最後で見放されたか……」


「最後まで分かんなかったわね……勝ち負けはついたけど、間違いなく名勝負だったわ」


 俺は下を、ミズネは上を向きながら、晴れやかな口調でこの勝負をそう評する。負けたのはもちろん悔しいが、それでもできることは全部やった。だから、俺は十分満足だ。


「……間違いなく、私たちにできる最高の勝負だったな。いい時間つぶしにもなったから、そろそろ夕食の時間と――」


「……ちょっと待って」


 そんな晴れやかな空気でこのゲームを締めくくろうとしたミズネを、ネリンの声が引き留める。それがどんな意味を持っているかなんて、聞くまでもなく明らかで――


「…………もう一回だけ、やらない?」


――この先のゲームのことは、詳しく語らないことにしよう。ただ、一つだけはっきりと分かったことがある。


「次は負けないから。……もっと、いいゲームにしましょ?」


――負けず嫌いのもう一回は、絶対に一回じゃ終わらないということだ。

というわけで、ついに負けず嫌いたちのゲームが決着しました!こういうゲームを書くのは初めてだったのですが、楽しんでいただけていたら嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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