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第百五十九話『思考の落とし穴』

「……またずいぶんと話が飛んだな。つまり、ヒロトは私が嘘をついた、と?」


「まあ、そうなるな。悪いけど、俺はそう確信してる」


 俺の爆弾発言にも、ミズネはあくまで戸惑った表情を見せるのみだ。その隣でわかりやすく目を丸くしているネリンのおかげで十中八九俺の指摘が正しいとは思えるが、そんなことをしなくても俺にはミズネの嘘が百パーセント分かっていた。


……と言っても、それはあくまでミズネが唯一の即バレ地雷を踏んだからであって――


「俺の手札は9二枚って言ったろ?それが嘘だ。……その根拠は、お前は知りえないんだけどな」


 よくよくシャッフルをしたはずなのに、カードの神様というのはつくづく悪戯好きだと思う。その悪戯こそが、俺にとっての最大の突破口だ。


「私には知りえない?…………まさか」


「……お、気づいたっぽいな。それならわざわざ隠し立てする必要もないか」


 目を見開くミズネに向かって、俺は鷹揚に頷いて見せる。賢いミズネのことだ、ここまで情報を与えればさすがに気が付いてしまうだろうとは思っていた。……だから、それ含めて俺の予想通り、まだまだ順当に事は進んでいる。


「簡単な話でさ、今ミズネの手札には二枚9のカードがある。んでもってネリンがさっき捨てたカードは9だったから……あれ、計算が合わねえな?」


 トランプと同じで、同じカードは四枚しかない。そこを根拠にすれば、自然と矛盾は見つかるって寸法だ。つまり俺の視点からは既に三枚見えている9のカードを二回宣言しまうことが、ミズネにとって一番踏んではいけない最悪のルートだった。俺の言葉でそれに気づいたミズネがぱちぱちとしきりに瞬きを繰り返しているが、こればかりは知りようがない地雷だから仕方のない話なのだ。


「……でも、それがアンタのブラフって可能性もあるじゃない!わざわざ最低でも合計が19になるぞって保証するなんて、絶対裏があるわよ!」


 俺の指摘に真っ先に応じたのはミズネではなく、意外にも今まで考えこむようにしていたネリンだった。ブラフも何も、ネリンからは俺たち二人の手札が見えてるんだからそんなの明白じゃ――というところまで考えたところで、俺はふと気づいた。


「……ああ、そういう考え方もできるな。それをどう受け取るかはミズネに任せるよ」


――ネリンは、俺が生み出した状況をうまく利用しようと試みているのだと。


 ミズネの合計値はさっき俺に示した概算ほどではないが中々に高い。ネリンからすればそれも引きずり落とす対象なわけで、こうやって迷っているのはかなり好都合だ。さっきまで考えこんでいたのは、この状況をいかに自分に得が出るように立ち回るかの計画だった、と。


「そう、だな……これは、難しい」


 その揺さぶりはしっかりと効いたらしく、ミズネは迷っている様子を見せる。……よし、もう一押しだな。


「俺は一枚チェンジで行くぞ。頭から尻尾まで全部嘘じゃないにせよ、嘘が分かった以上そのままにしておくのは怖いからな」


 本音を言えば下から二枚を交換したいが、ルール上できないのだから仕方がない。それでも、俺が売った一手の影響は大きくなりそうだ。


「決断が速いな……。まったく、こちらはどうしたものか」


「そこはミズネ次第よ。アイツが本当を言ってるのか、それともこの二分弱のほとんどをブラフに使ってきたのか。……ミズネがどっちを信じるかで、結末は変わるわ」


 第一ラウンドにおいての俺の立場は、今度はミズネへと引き継がれる。今もミズネの脳内では、俺の言葉が嘘か本当かという熾烈な議論が行われている事だろう。どっちを信じるにしても根拠がないそれは、考えれば考えるほど深みにはまるということを俺は知っていた。そういう意味では、一度もその立場に立たされていないネリンがこの中では一番したたかなのかもしれない。


 その適応力に内心舌を巻いていると、容器の中にあった氷はいつの間にか解けきっている。結果として議論は不十分なまま、俺たちは最後の決断タイムへと突入する。


「……これは、信じるべきか……いや……?」


 俺自身はもう宣言したとおりにするだけなので、隣でうなっているミズネの方に耳を傾ける。俺の目論見通り……おまけにネリンの後押しもあって、相当思考は沼にはまっているようだ。


 嘘を見抜かれたというところまではミズネにも分かっているだろうが、それの根拠が本当なのかハッタリなのかがミズネにとっての問題だろう。信じるならば自分もなかなかにいい数値であることが期待できるが、ハッタリだった場合の損失は簡単に想像できる。それだからこそ、ここの判断は難しいのだ。


 どこまで行っても答えのない問題に対してミズネは長々と考え込んでいたが、やがて意を決したように顔を上げる。その目にはもう迷いはなく、ただ勝負への熱意があった。


「……待たせて悪かったな。それでは、最後の交換と行こう」


 ここまで来てしまえばやれることはもうない。あとは自分の判断が正しかったのか、その目で確かめるだけだ。


――ひょんなことから始まったゲームは、予想以上の熱気を伴って最終局面に突入した。

負けず嫌いの三人のおかげで(せいで……?)予想以上にゲームはヒートアップしたわけですが、それもついに最終局面です!熾烈な駆け引きの先に待つのはどんな結末か、皆様も是非楽しみにお待ちください!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていっていただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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