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第百五十八話『主導権をこの手に』

「……言いたいことが、よくわからないのだが」


「簡単だよ。俺の手札のカード三枚の数字を教えてくれればいい。自然、そうすれば合計値も出るしな」


「いや、そうじゃなくてだな……」


「なんでそんなことをする義理があるんだ、ってことでしょ。あたしにもそれくらいは分かるわよ」


 まるで進展のない問答にしびれを切らしたのか、ネリンが口を挟んでくる。確かにそれを言われると苦しくはあるが、それについてはしっかりと回答を用意済みだ。


「義理がないってんならそれでもいいけど……その場合、俺は俺の手札が強いって判断するぞ?」


 教えたくないということは、それが知られたら不都合ということだ。つまり、俺に情報を渡さないことは俺を後押しすることにつながる――半ば、というか九割詭弁もいいとこだが、詭弁なりに筋が通っているのがこの理論のめんどくさいところだ。


「それは……確かに、否定できないが……」


「ここで迷ってたら時間切れになっちまうぞ?ここは教えるのが吉だろ。嘘にしても本当にしても、な」


 精一杯不敵な表情を作って、強気を保つことを意識しながらそう言い放つ。こういうのは不安を見せた瞬間に瓦解するものだからな。あくまでこれが大逆転の一手であると相手にも信じさせなければいけないのだ。


「……そう、だな。お前の手札にばかり時間をかけているわけにもいかない。賭けにはなるが、お前の手札を教えてやることにしよう」


「ちょ、ミズネ⁉」


 その決断に、ネリンが驚いたように声を上げる。ネリンからしたら想定外のようだが、どうやら第一関門は突破できたようだ。


「そうだな……情報は少しずつ開示していこう。時間切れが怖いが、一気に出してそこからまた何か引き出されてもいけないからな」


「それでいいよ。時間をかけてくれるならこっちとしてもありがてえからな」


 いかにも交換条件と言った感じだが、こっちとしてはかなりありがたい話だ。ネリンもミズネもそこそこ高い数値ではあるが、今の俺の数値が高い事に賭けなければどっちみち俺の勝ちはないのだから。


「了解した。……それではまず、ネリンの言った通り12のカードは持っているな。とんでもない引きの良さだという点は私も同意だよ」


「最初のチャンスをみすみす投げ捨てたのは後悔してもしきれねえけどな……」


 あの時は最後に付け加えられるようにしてこっちに言及されたのがよくなかった。それではどう考えても主導権を握られてしまうから、今回は俺の方から先制で仕掛けさせてもらったというわけだ。


「それでこうして戦術を変えてきているんだから十分価値のあるミスだったといえるだろうさ。それで、二枚目だが……9のカードだ」


「へえ、ここまで見るかぎり中々強いな」


 そう言いながら、俺は内心ガッツポーズ。今この瞬間、俺はしれっと第二関門を突破することに成功していた。


「……それで、最後のカードは?ネリンが見えてる上で強いって言うんだ、それよりは高くなるはずだよな?」


「……ッ」


 しかしその成功を悟られないように、俺は話を前へ前へと進める。フリーになっているネリンが変なことを考えないよう、しっかりと意識をさせておくことも忘れない。


 ネリンの合計数値は27。つまり、それよりも低い数値を言えばミズネの今までの宣言は信用性を失ってしまう。つまり、最低でもミズネは7以上のカードを宣言する必要があるのだ。……そして、その中に一つ、ミズネにとって明らかな地雷がある。そして、ミズネ自身はそれを知らない。知りようがないのだ。


「ここまで来ても、ヒロトの考えが分からないな……一体何が狙いなんだか」


「そうやって、迷わせることが目的なだけかもしれないぞ?」


「そうだとするなら、その作戦は既に成功しているさ」


 俺の軽口にミズネは軽く笑って返す。さすがのポーカーフェイスと言った感じで、その表情から何かを読み取ることはできなかった。……だが、俺の作戦はうまくいっている……はず、だ。そうだといいなと思う。


「ここまで来てしまえばもうもったいぶる必要もないだろう。それでは、最後の一枚を教えるとしようか」


「……ああ。頼む」


 必死に冷静を取り繕ってはいるが、内心俺はハラハラしっぱなしだ。即興で仕掛けたこの策が、果たしてどこまで通じるのか。その結果が、今ここから明らかになる――


「ヒロト、お前の引きは相当強い。……何せ、お前の手札には9が二枚あるわけだからな」


「……‼」


 失態を取り返して余りある運の良さだ、とミズネは付け加えた。……しかし、俺にその賛辞は聞こえない。……ただ、俺のあたまの中にはただ一つの単語が飛び交っていた。


「……9二枚に、12が一枚。合計三十ってことか。……確かに、かなり強い数字ではあるな」


 ミズネへの確認もかねて、俺は情報を復唱する。そして、俺はとっさにミズネに目をやって――


「ああ。……今日はヒロトの日、ということかもしれない」


 そう言いながら頷くのを見て、俺は今度こそ確信した。


「ああ、そうかもな。……ミズネの宣言が、本当のことならの話だけど」


「……な、に?」


――俺はどうやら、賭けに勝ったらしいということを。

とある確固たる証拠を持ってヒロトは駆けに勝ったことを確信したわけですが、手掛かりは今までのゲーム中に散らばっていたりします。次回は種明かしとなりますので、皆様も推理していただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、評価など気軽にしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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