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第百四十五話『トライアンドエラー推奨』

「分担…………か…………」


 自信ありげなネリンとは対照的に、ミズネはその提案に対して顎に手を当てて考え込んでいる。俺もどちらかと言えばミズネに近い感想を抱いているので、その気持ちは分からなくもなかった。


「……確かに探索ペースは三倍だけど、探索の精度は三分の一だぞ……?」


 俺が思い出しているのは、昨日の応接室での一件だ。アレは明らかに見つけさせる気がない隠し方だったし、実際偶然気が付かなければそのままスルーしてしまっていても不思議じゃない。それを考えると、広く浅くになりがちな分担は割と危ない橋にも見えた。


「それは確かに……。でも、今欲しいのは少しでも多くの情報でしょ?それなら三人で一部屋を一時間ずつ探索するより、一人が一部屋ずつを三時間の方が集中もできて集まるものも多いと思うのよね……」


「それもそう……だな……?」


 ネリンの言うことにも一理ある……と、思う。結局のところ、限られた時間と人員をどこにどう使うかって話だもんな……どれを選んでもある程度裏目があるのがイヤなところだ。


 俺たちは揃って黙り込み、居間に沈黙が落ちる。そう言えば、三人そろって黙って何かを考えるのって俺たちからしたら珍しい話だな……。


「あーもう、答えが出ない!どっちにせよリスクはあるってどういうことなのよ!」


 その空気がじれったくなったのか、ネリンは頭を抱えている。……正直なところ、答えが出ないのは俺もミズネも同じように思えた。


「何が正解という話でもないからな……とりあえず、いろいろなことを試していくしかないだろう」


「……かもな。ダメだったら後から変えればいいし」


 正攻法は未だに見つかっていないが、この屋敷の調査に時間制限がないのが救いだ。時間切れさえなければ、理論上いくらでも考えることはできるからな。


「……ま、当たって砕けろってことね。はっきりした答えも出ないし、そっちの方が結局いいのかも」


 ミズネの提案を決め手にして、俺たちはトライアンドエラーの方針を固める。そしてその手始めに、今日は手分けして探索を行うことと相成った。


「ほかのことはいいから、一部屋を徹底的に調べ上げる。……これで、何かしらの手掛かりが見つかってくれるといいんだけど」


「まさか、何もないってことは無いだろうけどな……」


 誰がどの部屋に向かうかを地図で確認しながら、俺とネリンはそんなやり取りを交わす。切り替えが早いというかなんというか、さっきまでの焦りはもうどこにも見当たらなかった。地図を見つめるその横顔は、もうすっかり冒険者としてのスイッチが入り切っているといった感じだ。


「これも素質、なんだろうな」


「……ヒロト、何か言った?」


「あいや、なんでも」


 ネリンが訝し気にこちらを見てきたので、俺は慌てて地図へと視線を戻す。ネリンが冒険者としての素質をすでに備えているのは事実なんだろうが、それを素直に本人に伝えるのはどことなく恥ずかしかった。


「……ま、いいけど。部屋割りはこれで大丈夫よね?」


「ああ、特に問題はない。各自その部屋を徹底的に探索して、ある程度時間が経ったらもう一度ここで落ち合おう」


「そうだな。分かりやすい情報があることを祈っておこうぜ」


 地図にはそれぞれの名前が書かれ、誰がどの部屋を探索するのかわかりやすく記されている。その周辺には俺たちの私室を含めて小部屋がたくさんあるのだが、それは今回後回しだ。とりあえず、この屋敷の全貌を知ることが俺たちの当面の目標だった。


「……それじゃ、あたしたちはあっちの方だから」


「おう。……それじゃ、行ってくる」


「何か異変があったら声を上げてくれ。十秒で駆けつける」


 居間を出てエントランス正面の階段を上ったところで、俺はネリンたちと別れて左に曲がる。個人行動には自信がないのもあって、ミズネの力強い宣言が心強かった。


 俺の持ち場は応接室からまっすぐ上に向かっていったところの角に位置する部屋で、応接室に比べるとドアの装飾は控えめだ。だが、つややかな木製のドアというのはそれだけで中々の威圧感を放っていた。


「パーティでいれば気にならないんだろうけど、今は俺一人だからな……」


 幸運なことに、俺はほとんどこの世界で単独行動をしたことがない。常にベレさんやネリン、ミズネがそばにいてくれたのがどれだけ俺にとって大きかったかというのを、二人と別れてからの一瞬で俺は痛いくらいに実感していた。ここは俺たちの家なのだからそう不安に感じることもないのだろうが、その理屈で俺の不安が晴れるわけじゃない。


「……けど、いつまでもビビっているわけにもいかねえしな」


 今じゃなくても、いずれどこかで起こっていたはずのことだ。それならここで起きてくれたことを幸運に思おう――そう自分に言い聞かせて、俺は大きなドアノブに手をかける。ドアは見た目以上に軽かったらしく、体重を少しかけてやるとギイッという音をたててゆっくりと扉が開いた。ゆっくりと視界が開け、大部屋の全貌が俺の前に姿を現す。それを目の当たりにして、俺は――


「……おお?」


 感嘆とも困惑ともつかない、中途半端な声を上げることしかできなかった。

自室での宿泊意外となるとヒロトの単独行動は実に初クエスト以来のことになるんですよね……ある意味未体験ゾーンの状況の中でどう探索が進んでいくのか、次回以降をどうぞお楽しみにしていてください!気に入っていただけたらブックマーク登録、評価などなど気軽にしていっていただけると嬉しいです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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