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第百四十四話『じっくりであってのんびりじゃない』

「……さて、今日はどこから攻める?」


 ネリンが準備してくれた朝ご飯に舌鼓を打ち、それぞれが一服を終えたのを見計らって、ミズネがテーブルの上に屋敷の見取り図を広げた。


 俺の図鑑からのコピーであるそれは、残念ながら部屋の詳細がほぼ記されていない。しかし、俺たちが訪れた一室には『居間』『応接室』など、ミズネの手書きとみられるメモが書き加えられていた。


「そうだな……当面の目標は研究室の発見と、もっと詳細な見取り図の捜索。それをスムーズにやろうと思うと、どうしても書斎が重要にはなってきそうだよな……」


「こんな大きい屋敷で、書斎の一つや二つぐらいないとおかしな話だもんね……」


 穴が開くほどに地図を見つめながら、俺たちはやるべきことの多さにため息をついた。


 屋敷としてみるならば立派なものだが、探索するべきダンジョンと見ればこの屋敷は厄介というか、めんどくさい要素が盛りだくさんだ。複雑な階層に詳細の分からない部屋の数々、極めつけはあるかもわからない謎の地下室と続いていく。こうして並べ立ててみると遺跡の時と似たような問題にも見えるが、似たように見えてその問題点は全く以て違うのが現実だった。


「あるかどうかも分からないものを探すって、実はとんでもない労力だよな……」


 遺跡の時は半ば決め打ちして動いていたからまだいいのだが、その時に比べて今回は根拠が薄い――というかぼんやりしすぎているのが問題だった。見取り図にも書いていない謎の地下室への入口をノーヒントで見つけ出せというのは、野原を当てもなく歩いてツチノコを見つけ出せって言っているのと同じと言っても過言ではない。見つけられるかどうかの以前に、まずあるかどうかすら怪しいのだから。


「あるって決め打ちして動くのもいい手じゃないのがなあ……」


「あまりにも視野が狭くなってしまうな……。それをするときは、私たちが相当追い込まれてしまった時になるだろうよ」


 このだだっ広い屋敷の中からたまたま見つけ出す可能性は限りなくゼロに近いし、地下室探しの途中で何か副産物があるかと言われれば微妙な話だ。地下室を探す以上、まず最初に俺たちは屋敷中のカーペットやフローリングとにらめっこをしなくてはならないのだから。


「想像するだけで、気の遠い作業だもんね……」


 この屋敷の床という床を調査する想像をしたのか、ネリンがげんなりとした表情を浮かべる。……正直、俺も同じ気分だった。


 仮に研究室が見つからなかったとして、そこにほかのことへの手掛かりがたまたま落ちていることがあるか?……あるわけない。床を総ざらいするのはオールオアナッシングの賭けで、しかも九割以上の確率で俺たちが引くのはナッシングの方だ。


「奇跡的に見つかったところで、昔の硬貨が一枚くらいだろうよ……」


「清掃システムがある以上、それが見つかるだけでも幸運だろうがな。……とりあえずは、地下室の実在をどうにかして確認するのが第一になるだろう」


「そうね。……そうなると、やっぱり書斎になるんじゃないかしら」


「ま、それしか選択肢はないだろうな……」


 結局のところは情報不足だ。図鑑があまり頼りにならない現状であるからこそ、テンプレ通りに動くことが結果として俺たちの打てる最善手だった。


「昨日も確認したが、私たちはじっくりとこの家の謎を解き明かしていけばいいんだ。それまでの猶予はおそらくあるし、バゼルさんからしても不都合ではないだろうからな」


 俺たちの意見を取りまとめて、ミズネが力強く断言する。今回の俺たちは、近道なんてない地道な調査に身を置くことになりそうだ。


「ま、ミズネの言うとおりだな。それなら、とりあえずは書斎っぽい場所を手当たり次第に探していくのがいいんだろうけど――」


「あ、それなんだけど」


 俺の言葉に割り込むようにして、ネリンが手を上げる。若干身を乗り出したその圧に押されるようにして、俺はネリンに言葉の先を譲った。


「今私たちが探索しようと思ってるのって角の四部屋じゃない?そのうち一部屋は応接室で、もう探索も終わってる」


「そうだな。結果としては有意義だったから、損はないと思っているが」


「そう、損はないのよ。大きい部屋だし、確実に何かはある。……それも、結構重要なヤツがね」


 ピンと指を立てたネリンは、ペンを手に取って未探索の角部屋をぐるぐると囲む。ネリンが何を言いたいのかはいまいち要領を得ないが、ミズネの言った通り探索して損はない部屋というのは確かに思えた。


「じっくりやればいいとはあたしも思うけど、じっくりとのんびりは多少……いやかなり違うじゃない?だから、少し提案があるの」


「提案……?」


「そ、提案。焦りすぎることなく、だけど調査を速めるための、ね」


 ミズネのオウム返しに、ネリンは大きく頷いて見せる。どうやらここまでが前置きで、ネリン的にはここからが本番らしい。その表情を見るに、ずいぶんと自信がある提案のようだが――


「あたしたちは三人で、残りの角部屋も三部屋。……それなら、あたしたち三人で分担して探索を同時に行えるんじゃない?」


――堂々と出されたその提案は、自信の割にかなり博打じみていた。

ネリンの唐突な提案から始まる探索二日目、もちろん何もないまま終わるはずはありません!ヒロトたちの行動がどんな展開を招いていくのか、これからも楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録や評価など気軽にしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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