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第百三十六話『幽霊の足音?』

「音……?ミズネ、何か聞こえたか?」


「いや、とくには聞こえなかったな……。閉まる扉の一番近くにいたから、それにかき消されたのかもしれないが」


 俺の問いかけに、ミズネは首をひねりながらそう答えた。


 ネリンはずいぶんとあたふたしているが、少なくとも俺の耳には何も聞こえなかった。大方空耳の類だろうと、そう結論付けようとしたところで、


「……ほら、また‼」


 ネリンが慌てふためいてそう叫ぶ。……今度は、俺の耳にも明確に聞こえた。……心情的には、聞こえてしまった、の方が正しいかもしれない。しかし、聞いてしまったからには信じないわけにもいかないのだ。


 古い床を踏みしめるような音が、俺たちの足元から聞こえてきていた。


「実は俺たちの足音でした、ってんならいいんだけどな……」


「その割には音が遠い。私たちが歩くのと、今聞こえた音の間に関連性はないと見た方がいいだろうな」


「だよなあ……」


 あくまで冷静な分析に、俺はがっくりとうなだれるほかない。しかしミズネが落ち着いているかと言えば、ほほを伝っている冷や汗がそうでもないことを雄弁に物語っていた。


「これが、もう一つの問題ってこと……⁉」


「そうだろうな……。これ以上あるとか考えたくねえよ」


 断続的に響く異音は、俺たちの不安を煽るには十分だ。これを日常と受け止めて過ごすにはかなりの覚悟が必要そうだった。


「とりあえず、こういう時は音源に向かうのが定石なわけだが……」


「……この家、地下への入口なんてあったか?」


 階段を駆け下りて俺たちは一階に戻ってきたわけだが、それでも音は足元から聞こえてきている。となればこの音は地下からのものになるわけだが、問題はこの屋敷に地下室があるかどうかだった。


「少なくとも、図鑑にある見取り図には書いてねえな……。隠し収納があった訳だし、隠し部屋があったって不思議じゃないけどさ」


「……それ、地下室を見つけない限りは解決できないって言ってない……?」


 首をひねる俺に、ネリンが震えた声でそう尋ねてくる。屋敷を探検していた時とはあまりに違う弱気さは、ネリンにしては不自然だった。


「お前はこういうの好きな方だと思ってたんだけどな。怖いのか?」


「そりゃ怖いに決まってるでしょ⁉ 実体があるものならともかく、幽霊なんて言うよくわからない上に実体がないから退治もしにくい存在が怖くないわけないじゃない!」


 半分からかうつもりでの質問だったが、予想以上にガチな答えが返ってきて俺としては困惑するばかりだ。未知を見つけたいと語っていたネリンとしては、その弱点は致命的にも思えたが……


「特に幽霊はダメよ、アリシアがたくさん話してくれたから……それも臨場感たっぷりに……‼」


「あーーー…………。それは、ご愁傷様?」


 アリシアの話術は卓越しているし。子供のころのネリンにはそれはそれはリアルに聞こえたことだろう。その説明を聞けば、ネリンがここまでビビっているのもなんとなく納得はできた。


「つまりはトラウマなんだな……」


「う、うっさい!」


 俺が簡潔にまとめると、ネリンはプイっとそっぽを向いてしまう。……そう言えば小さいころに探検に言ってたとか話してたけど、あれもアリシアがたきつけたのかもな……。今度会った時に聞いてみよう。


「……ネリン、それならおびえる必要はないぞ。今回の案件は、十中八九幽霊がらみではない」


「……ほんと?」


 俺が内心決意していると、ミズネが爆弾発言を放り込んでくる。それを聞いてネリンからすがるような視線がミズネに向けられると、それに向かってゆっくり頷きを返して、


「簡単な話だ。もしこれが幽霊の仕業ならば、どうして床を踏みしめるような音がしているんだ?」


「……あ」


 その指摘に、俺は息を吐くようにそうこぼす。いきなりの出来事に気が動転していたが、そう言えば確かにそうだった。


 いつか読んだ図鑑の記述によれば、この世界に幽霊は存在する。現世に囚われた魂が悪い方向に変質してしまうと、アンデッド系統の敵として魔物扱いされることもあるんだそうだ。


 といっても幽霊自体は実態を持たず、何か物体を媒介にしなければこの世界に干渉することはできない。つまり、ポルターガイストのような形でしかこの世界に爪痕を残すことは難しいわけだが――


「それならばもっと大きな音が鳴り響いているはずだ。幽霊の性質を考えても、ドアが閉まる音にかき消されるような音量でとどまるとは考えにくい」


「それは……たしかに、そうね……」


 ミズネが論理的に説明を重ねるうちに、ネリンの体に合った震えが止まっていく。どうやらネリンはピンポイントで幽霊の類だけが苦手なようだ。


「極めつけに、この足音と思わしき音は動いている様子がない。今だけの話だから断言はできないが、すぐに私たちに危害が加わるものでもないと思うぞ」


「……まあ、そうかもな……」


 バゼルさんの話でも、直接的な被害を受けたという話は聞かない。ミズネの指摘は筋が通っていて、視野が狭まっていた俺たちを落ち着けるには十分だった。


「……てことは、そんなに焦ることはないってこと?」


「そうなるな。……予定通り、夕飯を食べながら作戦会議と行こうじゃないか」


 念を押すようなネリンの問いかけに、ミズネが力強く頷いて笑って見せる。それにネリンがゆっくりとだが頷いたことで、俺たちに降りかかった最初の混乱はどうにか収まったのだった。

ついに屋敷がその本領を発揮し始めていますが、ヒロトたちもパーティとして団結を深めています。その連携が屋敷攻略の突破口になるのか、楽しみにこれからも読み進めていただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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