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第百三十四話『聞き覚えのない名前』

「いかにも、って感じの書類だな……。隠し場所まで込みでド定番すぎて逆にダミーを疑いたくなるくらいだ」


 慎重に引き出しから書類を取り出し、とりあえず応接室の長机にまとめたまま配置する。背表紙なのかそこには何も書かれていなかったが、裏返してみるとそこには『オーウェン計画』と大きく書かれていた。


「慎重に隠してあったし、その可能性はないと思うが……『オーウェン計画』、か」


「聞き覚えがある名前なの?」


 すこし戸惑ったように呟くミズネをのぞき込むようにして、ネリンが質問を投げかける。しかし、ミズネはその質問にふるふると首を振ると、


「いや、聞いたことがない。……聞いたことがないから、戸惑っているんだ」


「聞いたことがないから、戸惑ってる……?」


 なんともなぞかけの様な物言いだ。どう見繕っても百五十年は前の計画なわけだし、それに聞き覚えがないのは当然だと思うのだが……


「……長老の付き添いで、パーティに出ることも多くあったと話しただろう?あまり話したくないエピソードだし、話せないこともたくさんある。……だが、その参加者の名前に、『オーウェン』なんて家名は思い出されないんだ」


「……それが、ミズネからしたら不思議なの?」


「ああ。……こういう計画には、その栄誉を示すために自らの家名を使うことが慣例と化していてな。カガネという街を作り上げたこの屋敷の持ち主が社交界で名を上げていないというのは、中々におかしな話だと思えてしまってな」


「……ミズネの推測が正しければ、この屋敷の持ち主はオーウェンさんだったってことか」


「そうだな。……その家名に、聞き覚えが無さ過ぎるのが問題だが」


「社交界に顔を出したがらなかったって可能性はあるんじゃない?そう言う考え方の名士だっていたかもしれないし」


「……それなら一応筋は通るが、それでも噂一つ聞かなかったのは妙に引っかかってしまってな……。すまない、話の腰を折ってしまった」


「謝ることはねえよ。そう言う気付きは後々効いてくるんだからな」


「……そう言ってくれると助かる。さあ、本題へいこう」


 考えても仕方ないと判断したのか、ミズネは書類へと手を伸ばした。


 中身を見なければ何も始まらないというのは確かにそうだし、この中にそのための手掛かりが残っている可能性もある。というかそうであってくれと願いながら、紙を一枚外すと――


「……これは、何かの地図か?」


「だろうな。……とりあえず、開くぞ」


 そこに出てきたのは、四つ折りにされていた大きめの地図。机いっぱいにそれを広げてその全貌が明らかになったとき、最初に声を上げたのはネリンだった。


「これ、カガネの外周とそっくりじゃない」


「あ、たしかに……。門の位置も一致するな」


 ぱっと見では何が何だか分からなかったが、言われてみれば地図の中心にでかでかとカガネの輪郭が描かれている。どうやらあの形は、この計画が立案された時から変わっていなかったようだった。


「カガネの外壁は建設当時を保っているってパパから聞いてたけど……。こう見ると、ほんとにそっくりそのままなのね」


 俺が図鑑を使って今のカガネの形を確認していると、それをのぞき込んだネリンが感嘆の声を上げる。さらっと言ってはいるけど、百五十年は形を保ち続けてるってことだもんな……そりゃ補修はしているんだろうが、それでも偉業であることに間違いはなかった。


「これの下は……計画書の様だな」


 うなり声をあげて地図とにらめっこしていた俺たちより一足先に、ミズネは地図の下に重ねられていた紙切れに目を通している。ソファーにもたれかかりながら書類とにらめっこするその姿は、さながら安楽椅子探偵のようだった。相変わらず、ミズネは何をやらせても絵になるからすごいもんだ。


「『増加し始めた魔物の対策として、冒険者が安心して力を付けられる街を作る』――この街のコンセプトに一致しているな。この屋敷の持ち主がカガネの建設を牽引したのは間違いないだろう」


「ほんとだ……。いまいち信じきれなかったけど、これでその点は確定したってことだな」


 差し出された計画書には、確かにそのような旨のことが書かれている。俺たちの見ている書類は、想像以上にカガネの成り立ちに深く迫るものなのかもしれなかった。


「つまりオーウェン家は、今の冒険者たちの基盤を作り上げた存在になるわけだ。……ますます、聞き覚えのない名前なのが気にかかるが――」


「ま、それは今考えてもしょうがないわよ。とりあえず、これを下まで読み切っちゃいましょ」


 また思索モードに入りかけたミズネを、ネリンの一言が呼び止める。そして三人がかりで書類を調べていくが、見つかるのは資材の注文書や予算の使い道を記した紙ばかり。どれも貴重な書類ではあるが、今の俺たちに役立つものかと言われるとそうでもない。もっと直接的な手掛かりはないものかと、俺たちが少し焦り始めたところで――


「……二人とも、ちょっと手を止めてくれない?」


 何かを見つけたらしきネリンの声が、書類とにらめっこしていた俺たちの視線を引き戻す。顔を上げた先には、自慢げな顔をしたネリンがいた。不自然に後ろ手を組んでいるのが気になるが、それを追求できるような雰囲気でもない。


「どうした?まさか、屋敷の地図が――」


「いやいや、そこまでのものじゃないわよ。でも――」


 期待に満ちたミズネの視線に首を振りながら、ネリンは後ろ手を解いて俺たちの方に向けて見せる。その手に、握られていたのは――


「それにたどり着くためのカギは、見つかったんじゃないかなって」


 まるでカードキーのような、四角い板。屋敷に入る時に使ったものの色違いをひらひらさせながら、ネリンんは二ッと笑った。

遺跡と違ってほぼ手付かずなのもあり、三人は探索においてこれからもたくさんのものを発見していきます!それがどう結びついていくのか、その点も期待していただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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