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第百三十三話『定番の隠し場所』

「応接室か……確かに、豪奢に飾るには相応しい場所だな」


「そうだな。……なんというか、すげえオーラを感じる」


 とりあえず長机の近くまで向かいながら、俺は思わずそうつぶやく。もっと相応しい表現がほかにあるのだろうが、この部屋の持つ雰囲気に気圧されながらではそれも出てこなかった。


 エントランスで見たようなシャンデリアに、今でも使えそうなしっかりとしたつくりの暖炉。さすがに燃料の類は入っていないようだが、それさえ買い足してくればすぐにでも仕事をしてくれるだろう。


「……ここで使う菓子なんかもここに入ってるのね……すごい周到に準備されてるわよ」


 圧倒される俺の視界の隅では、ネリンが壁沿いに置いてあった棚を容赦なく開けて中身を漁っている。……いや、ここはもう仮にも俺らの家だから間違っている事ではないのだが……それにしたってすごい度胸だ。


「とんでもないものが出てくるかもしれねえってのによくやるよ……」


「元からとんでもないものをあたしたちは探しに来てるのよ?そんなの出てきたら跳んで喜ぶわ」


 どんな感情を含んでいるのか自分でもよく分からない呟きに、ネリンが不思議そうな顔をして返す。さっきまでの幼さはどこへやら、そこにいるのは純度百パーセントの探索者だった。


「ネリンの言うとおりだな。少しは警戒する必要があるとはいえ、棚は積極的に調べるのがいいだろう」


「でしょ?ほらヒロトもこっち来て、結構ここの棚数あるから」


「……了解。じゃあ俺はこっちから見るぞ」


 誇らしげに手招きするネリンにため息をつきながら、俺はネリンのいる方とは逆側の棚の引き戸を開ける。そこにはティーカップやソーサーが整然と並べられており、いかにも応接室と言った感じだ。


「しっかし数が多いな……こんなにいっぺんに応対するものでもないだろうに」


「来客用のものをここにまとめているのかもしれないな。周辺に住む人物を集めてパーティを行うことなんかもあっただろうし、そう言う時のために来客用のものは全て仕分けされているのだろう」


「へえー、そう言うものなのね。それはミズネの実体験?」


 何気ないネリンの質問に、俺たちに交じって棚を調べていたミズネの手が一瞬止まる。そして、こめかみを抑えながら深々とため息をつくと――


「……昔、長老の付き添いで何度かな……」


「……ミズネ、どれだけ苦労したんだ……?」


 前にもちらっと聞いたことがある気がするが、その時もこんなふうにしてた気がする。まあ見るからに自由人、もとい自由エルフなエイスさんの付き添いが大変なのは察するに余りあるが――


「……少なくとも、お前たちの想像以上には苦労しているさ……」


「……この話、今はやめにしとくわね……」


 少しひきつった笑みを浮かべるミズネに、俺たちはそれ以上の追及をやめにする。これ以上突っ込んでもミズネのダメージが増えるだけだろうしな……


「そうしてもらえると助かる……。それにしても、見事に食器と茶菓子だらけだな」


「やっぱり戸棚だからでしょうね……。引き出しなら何かあるかも」


 半ば強引に話題を本題に戻したミズネに、何気ないつぶやきを返しながらネリンは躊躇なく引き戸の下についていた引き出しをがらりと開く。透明な板と木枠で作られた引き戸はともかく、何も中が見えない引き出しをまさかそんなに勢い良く開けるとは……


「……ティーバッグとかがほとんどね……なんとなく予想はできてたけど」


「こっちも同じだな……。百五十年前のティーバッグともなれば、一部のコレクターにとってお宝なのは間違いないが」


 今回探しているのは別のものだからなあ、とミズネは苦笑する。それを見て、俺もゆっくりと引き戸を開けた。その中はもちろんティーバッグ、二人があけてるやつと何も変わらない――


「……って、あれ?」


 念のため棚の底まで手を突っ込んで確認していると、底板がギイと音を立ててきしむ。それに気づいて隣の棚の引き出しを開けて手を突っ込んでみるが、それの底板に異変はなかった。……明らかに、何かがおかしい。経年劣化とも考えられるが、この屋敷に限ってそれがないのは確定的だしな……。


「ヒロト、何かあったの?」


「……や、偶然かもしれないんだけどな……」


 考え込む俺を見て、ネリンがこちらに寄って来る。俺が軽く前置いて二人に説明すると、


「……それ、底板の下に空間があるんじゃないの?」


 と、ネリンが即座に仮説を立てた。


「空間……?」


「隠し収納にはよくあるやつよ。隠したい空間の上に底板をかぶせて物を置けば、よっぽど念入りに確認されない限りその下に空間があることは気づかれないしね」


「……つまり、そこには隠したいものがある……と?」


「ま、そう言うことになるわね。只の収納にしたいなら棚を増やせばいいだけだし、わざわざ底板に細工をしてまで収納を増やすほどけち臭い家でもなさそうだから」


 自信ありげにネリンはそう頷いて見せる。俺としてもその仮説に異論はないし、是非とも隠し収納に何があるかは見てみたいところではある。あとはその細工をどうやって取り出すかだが――


「ああ、それについては私に任せてくれ」


 俺が方策を考えていると、ミズネがずいと進み出る。その手には何も握られていなかったが、どうやら何か作戦があるようだった。


「ヒロトが見つけ、ネリンが推理した。……なら、次は私が貢献する番だろう?」


 そう言うと、ミズネの手の中に氷で小さなかぎ爪が作り出される。確かにそれなら上からはめ込んだ底板との隙間にねじ込んで持ち上げることができそうだ。……それにしても、ミズネの氷細工シリーズが便利すぎるな……突き詰めれば大体の工具は氷で作れそうだ。


「よし、これで……どうだ!」


 特に固定されていたという様子もなく、ミズネの道具さばきによって底板はあっさりと持ち上げられる。そしてあらわになった収納の中を、俺たちが顔を寄せ合って確認すると――


「……これ、そこそこ重要度の高い奴なんじゃないの?」


 そこに鎮座していたのは、紙の輪で束ねられたいくつかの書類だった。

次回以降も謎はさらに広がっていきます!まだまだ探索していないところも盛りだくさんですので、これからもぜひぜひお楽しみにしていてください!共同生活ということでこれまで以上に三人だけでのやり取りが増えると思いますので、そちらにも注目していただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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