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第百三十一話『意外と家事奉行』

「……はーっ、働いた働いた!」


「そうだな。皆、お疲れ様」


 最後の荷物を運び終わるなりソファーに倒れ込んだ俺に、ミズネのねぎらいの声が飛んでくる。仮住まいの準備をしようというところから約二時間とちょっと。荷物運びに終始した俺とミズネは、かなり疲れ切っていた。


 アイテムボックスがある分荷物運びは楽なのだが、いかんせん細かいものの配置はそうもいかない。本棚を少しずらしたり食器類を棚に入れたり、大雑把な運び作業が終わった後も山のようにやるべきことが残っているのが引っ越し作業の辛いところだ。


「これを人力だけでやってるとか、引っ越し業者ありがたすぎだろ……」


「ヒッコシギョウシャ……ヒロトたちの世界にはそんなものがあるのか?」


 俺のつぶやきに、ミズネが興味深そうな表情でこちらを見てくる。まあ、アイテムボックスがある以上運送業者の需要も少ないだろうからな……。自分の荷物をもって馬車なりテレポートを使えば簡単にものの持ち運びができるのは本当にいい仕組みだと思う。商業的な運送にはまだ馬車が重宝されているらしいが、それもいずれはテレポートの領分に置き換わるのかもな。


「まあな。俺たちの世界にはアイテムボックスなんて便利なものはなかったし」


「そうなのか……アイテムボックスがないとなると、冒険するのにも一苦労だろうな」


「そうだな……。今となっちゃ俺もアイテムボックスに頼りっきりだし」


 最初は戸惑ったものだが、使い慣れてしまえばこれ以上に便利なものはない。ゲームなどで当たり前にあるこの概念がいかにぶっ壊れた物なのか、使ってみて初めて分かるというものだ。


――と、俺たちが異世界話に花を咲かせていると。


「ただいまー。とりあえず、一週間分ぐらいは買い込んできたわよ」


 作業の途中から買い出しに出ていたネリンが、買いもの後とは思えない身軽さで帰ってきた。


「……やっぱり、アイテムボックスって便利だな……」


「お帰りより前に言うことでもないと思うんだけど……。ほら、これくらいあれば足りるでしょ?」


 少し呆れ気味な視線を向けながら、ネリンはアイテムボックスから大量の食糧を取り出す。干し肉などの保存食から生鮮食品まで、その種類は多種多様だ。


「今日のメニューは焼き魚ね。魚は鮮度が大事だし」


「それは楽しみだな……。付け合わせは何があるんだ?」


「野菜たっぷりのスープか普通にサラダを作るつもりよ。それとご飯があればある程度形にはなるし」


 目を輝かせるミズネの質問に、ネリンが笑って答えて見せた。


 準備の前の昼食はネリンがキッチンに立ったのだが、その腕前は俺たちの予想をはるかに超えていた。宿屋の娘ということもあるのだろうが、宿屋の味の再現にとどまらずしっかりアレンジも入れる徹底っぷりだ。たった一回ふるまわれた料理で、俺とミズネの胃袋はしっかりとわしづかみされていた。


「料理回りとか一番不安なところだったんだけどな……。ネリンが居れば百人力だよ」


「ま、パパとママのこと見てきてるからね。アンタたちも多少なり作れなきゃだめだし、こんど二人向けに料理教室でも開いてあげるわよ」


 あたしがずっと料理当番ってのもね、とネリンは笑って見せる。ネリンはなんだかんだ教え上手だから一定ののレベルには行けそうだが、それでもネリンを超えられるビジョンは全く見えなかった。


「……ミズネたちも、家具の配置いい感じじゃない。一通り終わった感じ?」


「ああ、そうだな。とりあえず共通で使う家具は全て置き終わったぞ」


「それじゃ、あとは各々の部屋分だけね。そこは自己責任ってことで」


 ネリンの言葉に、俺たち二人は揃って頷く。生活周りに関しては、完全にネリンが俺たちのリーダーとなっていた。


「異世界出身のヒロトはともかく、ミズネが生活力低かったのは意外だけどな……」


「それを言われると口ごもるしかないのだがな……。昔からそういうことに対するこだわりがないんだ。クエストの関係で長いこと家を空けることも多かったし」


 おどけたようにお腹を押さえて見せてから、ミズネは苦笑してそう語って見せる。そう言えば、引っ越しの時に訪れた借り家も生活感が薄かったっけな……


「ま、冒険者として出世すればするほどってところはあるかもね。今でさえキッチンを任せられてるけど、ママと出会う前のパパもひどかったらしいし」


 あたしが生まれるってなってから必死に練習したんだって、とネリンは付け加える。……なんというか、料理をはじめとした家事が苦手なバルレさんはすごく解釈通りだった。今の俺の家事スキルを考えると人のことは言えないのだが、そこらへんはおいおい上達していくこととして――


「中途半端に時間が出来ちまったな……これからどうする?」


 まだ夜ご飯という時間でもないが、かといって外出するような時間でもない。このまま雑談に花を咲かせてもいいのだが、やるべきことがあるならそれを済ませておきたいのが正直なところだった。


「あ、じゃああれやらない?せっかく歴史のある家なんだし、こんなに大きいんだし」


「あれ……?」


 少しぼかした物言いに、俺は怪訝な表情を見せる。行動力の塊であるネリンのことだし、初めてネリンの宿に連れていかれた時ばりに突飛なことを言い出すのかと俺は少し警戒していたのだが――


「……この家を探検しつつ、書斎がないか探さない?そこでなら、この屋敷の謎にかかわる記述も見つかるかもしれないし」


 キラキラと目を輝かせながら出してきた提案は、意外なことに合理的だった。

ついに始まった共同生活はここからもいろんなことが待ち受けています!共同生活ということでヒロトたちの隠れた一面も見えてくると思いますので、そのあたりも楽しみにしていただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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