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第百二十八話『残された一番の謎』

「名士の、別荘……?」


「この図鑑によれば、だけどな」


 逆にいえばそれしか根拠はないわけだが、今まで図鑑に助けられた身としてはそれだけで十分に信用できる情報だ。その感想は二人も同じのようで、特にミズネはすぐさま腕を組んで何やら考え込んでいるようだった。


「……記述によれば、この屋敷が別荘として機能していたのは私が生まれるよりも前らしいな。ヒロト、その頃のカガネについての記述はあるか?」


「待ってろ、今探す……」


 確認用にコピーをもう一枚増やしてから、過去のカガネについての記述を探して俺は図鑑をめくる。


「百年よりさらに前の記述は……えと、ここか」


 ここまで遡ると流石に量は減ってしまっているが、それでもしっかりと百年前のカガネについても図鑑は網羅していた。失伝した迷いの森の地図があることからも分かることだが、本当にこの図鑑の情報量は半端じゃないな……


「この街の始まりは二百年ほど前の話……か。その時からコンセプトは変わっていないのだから大した話だ。エルフが施策しているならいざ知らず、途中で世代交代を挟んでしまうのだからな」


 俺が差し出したコピーに目を通し、ミズネはその歴史の長さに感嘆の声を上げる。ざっと見積もっても三代以上は意思が繋がってるってことだもんな……。ジャンル次第ではもう伝統になっていてもおかしくないレベルだ。


「……この記事を見る限り、この街を作り上げるのに多大な貢献をした名士一家が居たみたいね」


 横からコピーを覗き込んでいたネリンが、その下の方にあった一文を指でなぞって見せた。ネリンの言う通り、この街の建設には有力者からの後押しがあったようだ。


「屋敷がそいつらの持ち物だったって考えるなら、そこはその計画を直接推し進めるための拠点だったって考えるのが自然かもな……。別荘ってよりは別邸みたいな感じだろこれ」


 少なくとも百パー観光のために作ったってことはないだろう。言及がぼかされてる名士の正体が違うならもはやお手上げだが、俺の仮説は自分でも大分筋が通っているものに思えた。


「そうかもしれませんね……仕事に関しての施設があるなら、手入れのための機能などが配備されていてもおかしくはありませんし」


 そういう物件も稀にありますからね、とバゼルさんは補足する。長い間謎だった屋敷のベールが、この短時間で一つはがされてしまったというわけだ。


「そう聞くとあっけない話ね……拍子抜けというかなんというか」


「名士の別邸という前提が加わるだけで考えるべきことが変わりますからね……逆に言えばそれが無ければ真実は永遠に分からずじまいでしたよ」


 ネリンの落胆ももっともだが、これから拠点になるのかもしれない物件の不安要素をぬぐえたのは素直に嬉しい事だ。それに――


「……まあ、まだ解けていない謎は一つあるわけですが……」


 仮住まいした人たちから寄せられた怪奇現象の報告に関しては、それの原因になりそうな記述は何一つ見つからなかったのだから。


「どちらかと言えばそちらの方が緊急性が高いものに思えるのだが……。何か見落としがあるのか?」


「いや、そんなことは無いはずなんだけどな……」


 もう一度みんなで資料を見直すが、それでも手掛かりは見つからない。何しろ百五十年くらいは前の情報なので、記述はあっても詳細には触れられていないものがほとんどなのだ。


「一つの謎に納得がいっただけでも、私としては大喜びなのですが……」


「ま、この屋敷に住むハードルが高い事には変わりはないわよね……」


 もともと無害なものの原因が分かったところで、この屋敷が敬遠されている理由の解決にはなりえないのが辛いところだ。そこまで図鑑に頼るのは高望みな気もするが、それでも期待してたのは事実だからな……


「仕方ないですね……少々、思い切った手を打つことにします」


 しかしその無力さがかえって決断を後押しすることになったのか、バゼルさんは頬を強くたたいて俺たちの方を向き直る。……なんというか、これからの展開がなんとなく予想できる気がした。


「バルレから聞いています。なんでもお三方は冒険者パーティだとか」


「ああ、そうだな。駆け出しなりに頑張らせてもらっているよ」


 少し突然にも思える話題に、ミズネが軽く微笑んで返す。それを聞いて、バゼルさんの目つきが一段と真剣になった。


「あの物件は維持費自体はかからないのですが、『不気味な屋敷を保有している不動産屋』というイメージは速いうちに払拭しておきたいのも事実でして。どうにか原因を見つけられないものかと私も思索していたわけですが、やっと決断することができました」


 どこか晴れやかな表情で、バゼルさんはこちらを見つめている。俺の中の予想は、ほぼすべて核心に変わっていた。これも冒険者としての慣れ……なのか?


 俺がその変化に自分でも戸惑っているうちに、すっとバゼルさんが立ち上がり、椅子から一歩引いた位置に立つ。そして、おもむろに頭を下げると――


「……あの屋敷に住み込んで、謎の現象を調査してはいただけませんか?もちろん、報酬は弾ませていただきます」


 告げられたお願い事は、もちろん俺の予想通りだった。

ということで、謎の屋敷をめぐるヒロトたちの奮闘はここからが本番です!次回以降もぜひお楽しみにお待ちください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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