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第百二十七話『木造屋敷の謎』

「劣化しない、物件……?」


「はい。自然の摂理と言いますか、やはり人が住まなくなった部屋というのは寂れていくものでして。私がこうして使っているこの物件ですら少しづつさびれているのですから、人が入らないその物件は寂れなければおかしいのですが……」


「それが劣化しないからおかしい。そう言うことなの?」


 ネリンの問いかけに、バゼルさんは神妙に頷いた。


「その通りです。……実を言うとこの物件、何回も内見まではたどり着いているのです。ですが、いつ内見に訪れても汚れている気配がなくてですね……」


「有志の方が掃除をしてくれているということは無いのか?聞く話では歴史のある建物の様だし、それを守りたいという団体があっても不思議ではないだろう」


「鍵は私の方で管理していますし、それはないかと。少々特殊なセキュリティなものですから、そう簡単に破れるものではありません」


 ミズネの推論は説得力がある物だったが、バゼルさんはすぐに首を振って否定した。確かにそれはバゼルさんからしても一番最初に疑った部分だろうし、今ここで情報を聞いただけの俺たちが簡単に答えにたどり着けるわけではなさそうな雰囲気に思えた。


「そこだけ聞くと、汚れないのは良い事でもあると思うんだけどね……。それでも住み手が入らないってことは、まだ何か事情があるんでしょ?」


 ネリンの主張もごもっともだ。何者かの介入があるとは言え、それでしてくれるのが家屋の掃除や手入れならそれを喜びこそすれ拒む理由は特にないように思える。その指摘は図星だったのか、バゼルさんはこくりとうなずいた。


「ええ、お察しの通りです。家がきれいなだけならば私たちも手入れの手間が省けると喜んでいたのですが、事態はそれだけにとどまらず……」


 困ったようにそう言うと、バゼルさんはもう一枚紙をめくる。そのプリントの上部に書かれていたのは、『お客様からのご意見』という見出しだった。


「えーと、なになに……『深夜、どこかから足音が聞こえる』?」


「『誰かの話し声』が聞こえるという報告もあるな。……ゴーストの類か?」


「私たちもその可能性は疑ったのですが、どうもそういう訳ではないらしく……。羽を休めるための拠点で落ち着けないのでは価値がないと、今まで様々なお客様にキャンセルをいただいてしまい今に至る、というわけでございます」


 本当の意味で訳アリ物件だった、ってことか……。これが日本だったら怖いもの見たさで済む人もいたかもしれないが、生憎この世界は不思議な現象と身近だしな。冒険の時に出会いうることに家でも出会いたいかというと、確かに俺でもキャンセルすることを選んでしまうかもしれない。


「成程ね……。そりゃあ愚痴りたくもなるわ」


「解決しようにも原因が分からないのではな……手詰まりになるのも仕方のない話だ」


 二人もそれに対しては同じ意見らしく、どうコメントするかにも少し迷っているかのように見える。……まあ、それに対して俺たちができることも少ないだろうからな……。変なことを言って期待させるのも申し訳ないというか。


「誰か解決してくれる方はいないかと十数年、いまだに原因には至れていません。維持費がかからないからということで私たちも放置してきましたが、そろそろ取り壊すしかないのでしょうか……」


 バゼルさんは悲痛な表情を浮かべている。いくら売れ残りだとはいえ、自分が持つ物件を取り壊すのは辛いんだろうな……。何かできることがあればいいのだが、たかだか一つの物件に対しての記述が図鑑にもあるわけもないし――


 ダメもとで俺は図鑑を開き、カガネの街についての記述をざっと流し見する。ダメでもともとだし、見つかればラッキーくらいのスピードでページをまくっていたのだが、


「……あれっ」


 どういう因果なのか、俺は一つの記事と目が合った。


「……ヒロト、今ズカンなんて開いてどうしたの?」


「……少し、気になる事があってな」


 怪訝な目を向けてくるネリンに短く答えを返すと、俺はたまたま見つけたそのページをコピーする。昨夜実装されたこの能力だが、考えれば考えるほど汎用性の高い能力だった。


「バゼルさん、あなたの持ってる物件ってこれだったりしませんか……?」


「……!その通りです。ですが、なぜそれを……?」


 差し出したコピーを見つめるバゼルさんの目が、突然見開かれる。それを見たネリンとミズネは驚いたように身を乗り出し、バゼルさんの手元にあるコピーに目を通していた。


「たまたま今記述を見つけまして。……それがどういう手段によるものかは、企業秘密ということにさせて下さい」


 俺の返答にバゼルさんは不満げな目を向けるが、企業秘密と言われてはバゼルさんもそれ以上突っ込めないのだろう。真剣にコピーに目を通すバゼルさんは、しばらく瞬き一つしていなかった。


「これほど明確な記述が……。信憑性はともかくとしても、どうしてここまで情報の網羅ができているのですか?」


 間取りについての説明にしてもそうだが、基本的に図鑑の方がこの物件に対しての記述は詳しい。迷いの森の時のように失伝してしまった資料から情報を得ているのだろうが、その中に、決して見過ごすことのできない新情報が一つ。


「特にこれなんて、私からしても初耳ですよ。何せ私自身、親から引き渡された物件なものでして」


 バゼルさんもどうやら着眼点は同じなようで、コピーの外套部分にペンでアンダーラインが引かれている。それくらい、図鑑の情報は俺たちにとって衝撃的で――


「……まさか、あの物件がかつての名士の別荘だったなんて思いもしませんでしたよ」


――そして、明確に真相へと近寄るための情報だった。


 

次回、話はまだまだ加速していきます!真実に近づいたヒロトたちがいったいどう行動するのか、お楽しみにしていただけると幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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