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第百二十六話『異世界訳アリ物件』

「さあさあ、こちらにおかけください。大したものはございませんが、今お茶を入れますので」


 店内に俺たちを案内するなり、バゼルさんはそう言い残して店の奥へと消えてしまった。俺たちは言われたままに机に腰かけてみるものの、皆どこか落ち着かないのかそわそわとしている。


「……店内は、意外ときれいなんだな」


「外見のイメージと比べると驚いちゃうわよね……あたしも面食らったわ」


 外見と内装が違うという意味ではエルフの里の大樹も大概だったが、このお店のはまた違うパターンだ。なんというか、さびれた外見に比べて店内がちゃんと小綺麗なのが違和感というか、ギャップを感じるというか……。いや、店内はきれいにしなきゃいけないというのは分かる話なんだけどな?


「外見さえ整えれば、この店のイメージも変わると思うんだけどな……」


「お待たせしました。こちら粗茶ですが」


「うおわあっ⁉」


 そんなことを呟いているときにいきなり帰ってきたもんだから、俺は驚いて椅子から滑り落ちそうになってしまう。どうにか踏みとどまったが、本当に心臓に悪い体験だった……。


「ああ、驚かせてしまいましたか。すみません、冒険者時代からの名残でして……」


 自分の個性については自覚しているのか、バゼルさんは申し訳なさそうに頭を下げる。……が、俺はそれよりも既に別のことが気になっていた。


「この気配のなさが、名残……ですか?」


 これが日本ならば一発で厨二病と認定されかねない発言だが、ここは冒険者がいる世界だ。それを考えれば、どういうことなのかは割と想像がつきそうなものだったが――


「ああ、私は冒険者時代隠密を中心に担っていまして。その名残なのか、今でも気配を殺さずに歩くということが苦手なんですよ」


「やっぱりそう言うことだったか……」


「冒険者上がりにはよくある事らしいからね……。癖ってのはそう簡単には抜けないものだし」


 おおむね想像通りの答えが返ってきて、俺はため息をつく。ネリンがうなずいているあたり、この世界ではそう珍しい事でもないらしい。ミズネもさして驚いている様子もなかったしな。


「それにしたって営業職には向かない個性よね……難儀というか、なんというか」


「まったくその通りでございまして……店自体の雰囲気はある物ですから、来客自体はないわけではないのですが」


「それでも売れない物件があると……そう言うことだったな?」


 困ったような笑みを浮かべるバゼルさんに、ミズネが本題をぶっこんでくる。俺たちは茶飲み話に来たんじゃないんだし、確かにそれが得策かもしれなかった。


「おっしゃる通りでございます。……まあ、アレはどんな商売上手が扱ってもなかなか売れない代物でしょうが」


「そう聞くと、ますます欠陥建築の類を疑わざるを得ないのだけどね……」


 愚痴るかのようなバゼルさんの言葉に、ネリンは疑わし気な視線を向けた。


 どんな人が扱っても売れないということは、確かに物件の方に問題があるってのが自然な話だ。事故物件とか訳アリ建築とか、そう言うのは日本にだってないわけじゃない。これもその類なんじゃないかと、俺としては疑わざるを得ないわけだが――


「欠陥はありませんとも。……何度も言いますが、何も起こっていないのが不思議なくらいの建築なんでございますよ」


「何も起こっていないのが、不思議……」


「その通り。……いつまでも隠しておくわけにはまいりませんし、物件の説明と参りましょうか」


 そう言うと、バゼルさんは懐から紙束を取り出す。内見写真のようなものは流石に見当たらないが、間取り図とか設備とかが書かれているのは俺の想像している物件説明の書類とそう変わりがなかった。


「……相当、外れの位置にあるのだな」


「それも不人気の一つでございますから。……まあ、もう一つに比べれば栓無き事ですよ」


 言いながら、紙を一枚めくる。そこには建築の様式やら何やらが整然と並べられていたわけなのだが、その中に見逃せない記述が一つ。


「『木造建築』……?」


 さっきも言ったが、この街のほとんどの建築は石造りだ。木造の物件なんて、それこそこの店で初めて見ることになったわけだが……


「そうです。おそらくこの物件は、この店のほかでは唯一の木造建築です。……それも、これよりもよっぽど古い時代に建築された、ね」


「……それ、ただ単純にボロいから売れないってだけの話じゃないの?」


 そのカミングアウトに対して、ネリンのジト目がさらに深くなる。確かにそれだけ聞けば俺からしても売れない理由は明白に思えたのだが、どうも事態は違うようだ。


「本題はここからです。話した通りこの屋敷、築百五十年は優に超える歴史ある物件なわけですが――」


 そこで言葉を切り、バゼルさんは大きく息をつく。その勿体ぶった態度に、俺たちが緊張を高めていると――


「……どうやらその物件、劣化していく気配がないらしいのです」


 そんな奇妙な事実が、バゼルさんの口から伝えられた。

次回、物件についてさらに情報が明かされます!ヒロトたちは事情を知ってどう動くのか、ぜひお楽しみにしていただけると嬉しいなと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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