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第百二十五話『異様な不動産屋』

ーーバルレさん曰く、その不動産屋は少し変わった系歴を持っているらしい。なんでもバルレさんの古い友人が不動産屋の家系で、冒険者を経験してから成り行きでそこを引き継ぐことになったようなのだが……


「そりゃ道理で、こんな年季のある見た目になるわけだな……」


 流石にここまでの見た目とは予想外……いや、予想以上というべきか。石造りの建物が基本となっているカガネの街並みの中で、木造のそれは圧倒的な異彩を放っていた。


「この木、相当古い素材を使っているみたいだな。エルフの里ならいざ知らず、人の育てた木材がここまで長続きしているのを見たのは初めてだ」


 植物関連には一家言あるミズネも、その貫禄ある外装を見て唸っている。ミズネから見てそうと言うことは、もはや百年単位の建築だったりするのだろうか……?


「ここ、不動産屋だったのね……ずっと謎ではあったのよ」


 そんな中、ネリンは懐かしそうに物件を見上げていた。


「……こんな奥まったところ、用事もないのにきたりするもんなのか……?」


「最近の記憶じゃないけどね。ここら辺、子供達にとっては格好の探検スポットなのよ。あたしも小さい頃、アリシアを引きずって歩き回ったっけ」


「なるほどな……確かにシンボルとしてはちょうどいいかもしれん」


 日本にあったら間違いなく幽霊屋敷として有名になりそうな雰囲気があるもんな……。繁華街からは外れたとはいえ光が入り込まないわけではないのだが、この辺りはなんだか雰囲気が暗い気がする。


「まさかここまでそのまま残ってるとは想像してなかったけどね。むしろなんで改築しないのかが不思議なくらいよ」


「植物はしぶといからな。一度活力を失ったように見えても、些細なきっかけで長持ちすることもあるさ」


「そうだぞネリン。特にここは住人もいるし、そう言う家は中々さびれないもんだ」


 住人を失った家が寂れていくと言うのはそこそこ有名な話だからな。張り紙を見るに今でも営業自体は順調に行われてるみたいだし、この調子ならもう少しは崩れずに保ってくれるだろう。


 少しでも崩れるリスクを考慮しなければいけない時点でやばいと言う考え方は、とりあえず脇に置いておくとして。


「今は営業中……だよな?見た感じ灯りもあるし……」


 隠れ家的な雰囲気がある場所だが、しっかりと人の気配はある。それなのにどこか踏み込みづらい雰囲気に気圧されて、俺が躊躇しているとーー


「ええ。今日も元気に営業中でございますよ」


「うわっち⁉︎」


 突然店の戸が開いて、中からぬっと男の人が歩み出てきた。


 身長はーー170センチくらいか。特に大きいと言うわけではないが、全身黒のスーツと細い体つきのせいで見た目よりも高く感じられた。まるで影のようにいきなり現れたその人に、俺は思わずのけぞってしまったのだが、


「はじめまして。あなたがここの店主さん?」


「……お前、適応力たっけえのな……」 


 何事もなかったかのように会話を開始するネリンの姿に、俺は思わずそうこぼすことしかできなかった。


「ええ、私もバルレからお話しは伺っております。……ようこそお越しくださいました。ネリン様、ミズネ様、ヒロト様」


 ネリンの確認に頷きで応え、店主を名乗った男の人は頭を下げた。


「……あたしたちのこと、パパから聞いたの?」


 名前を呼ばれたことに戸惑ったのか、ネリンが少し訝しげに返す。それに対しての答えは、大きな頷きだった。


「それはそれは懇切丁寧に教えていただきましたとも。なんでも新進気鋭のパーティだとか。そんな皆様と取り次いでいただいて、私としても嬉しい限りですよ」


「パパったら、また話を勝手に膨らませてるわね……?」


 店主の笑顔に対して、ネリンは呆れたようなため息をついた。


 確かにバルレさんは大の親バカだからな……問い詰めても無自覚で過大評価してそうだから扱いに困る。……まぁ、娘想いなのはいいことではあるんだけど。


「と言うことは、今日あたしたちがきた理由も聞かされてるわよね?あたしたち、この街に拠点を構えたいんだけど……」


「ええ、もちろん伺っておりますとも。『あの物件』に、興味がおありなのでしょう?」


「あの物件……?」


 そう言葉にする店主の表情が少し曇ったように見えて、俺は思わずそう繰り返してしまう。なんでも売れ残りらしいし、不動産屋さんにとってはめんどくさいものではあるのだろうが……


「……それ、物件として欠陥とかではないわよね?」


 ネリンも本能的にそれを感じ取ったのか、少し表情を鋭くして問い詰めていた。


「いえいえ、そんなことはございませんとも。むしろ綺麗すぎると言うか、何も起こらないのが問題なのであって……」


 さっきまではハキハキとした口調だった店主さんだが、言葉の後半はゴニョゴニョとしていて良く聞き取れなかった。それが果たして偶然なのか、それとも不都合な事実がそこにあるのかは分からないがーー


「……これ以上は長くなりますし、延々と立ち話をするのも疲れるでしょう。中でお茶でもお出ししますよ」


「……ああ、ありがたく、受け取るとしよう」


 俺の考えは、店主さんからのそんな提案に中断させられた。店の中に入っていく店主さんの後に俺たちも続こうとしたその瞬間、くるりとその黒い影が振り向いてーー


「申し遅れました。私、バゼル・アルバランと申します。どうぞお見知り置きを」


ーー少しトンチンカンなタイミングで挟まれた自己紹介が、俺には少し不吉に思えたのだった。

まずは訂正を一つ。不動産への紹介をしてくれたのはクレンではなくバルレでした。バルレの冒険者時代の古い繋がりをつてにしてヒロトたちはここまできたと言うことになりますのでよろしくお願いします。


ストーリーですが、この先もヒロトたちはちょっとした騒動に巻き込まれていくことになります!といってもスローライフがモチーフですので、そんなに窮地に追い込まれることはないと思いますが。三人を待ち受けるのは何か、期待してお待ちいただけると嬉しいです!


ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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