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第百十九話『カリスマ』

「先ほどまではクレンに主火力を任せ、私が援護に回っていた。その方が強烈な一撃が叩き込みやすいと思っていたからな。だが、ヒロトたちの情報で事情が変わった」


 キメラたちの方へ向かいながら、早口でミズネはそう告げた。


「私が崩し、ミズネ様の氷魔術でダメージを与える。そちらの方が、両方の個体に一度にダメージを与えられるでしょうね」


 それに同調したクレンさんの言葉で、俺たちもその発言の真意に気づいた。確かにクレンさんの剣戟はすさまじい威力だが、全体を巻き込んで火力を出したいならミズネの方が適任だろう。


「とどめはミズネ様に任せます。私とヒロト様、ネリン様はそのための補助に回りましょう」


「「「了解!」」」


 クレンさんの指揮に俺たちは頷きを返し、それを聞き届けてクレンさんは一層大きく踏みこんだ。どうやら先陣は任せろということらしい。


「まったく、一線を退いたとは思えない実力だな。私たちも負けていられないぞ?」


 その背中を見つめて、ミズネはやれやれと言わんばかりに俺たちに呼びかけて見せる。肩目を瞑るその姿は、緊張なんてものを微塵も感じさせなかった。……まったく、頼もしいことこの上ないな。


「ああ、俺たちがしくじってたまるか」


「そうね。クレンばっかにいいところを持ってかれるのも癪だし」


 俺たちもそれに続き、勇ましく宣言して見せる。俺にできることは少ないかもしれないが、だからと言って虚勢を張っちゃいけないなんて言うルールはないからな。それに、出来ることが何もないわけじゃない。


「その意気だ。……二人とも、頼りにしているぞ」


 強気な俺たちにミズネは満足げな表情を浮かべると、ゆっくりと目を瞑った。迷いの森でやって見せた時と同じように、魔力を集中する段階に入ったのだろう。それを守るのは、ほかならぬ俺たちの役目ということだ。


「……主役が出てくるまでは、私と遊んでもらいましょうかね」


 そんな中、クレンさんが二匹のキメラと向かい合う。氷の壁は既に砕かれ、キメラたちはいつでも俺たちを襲うことができる状態だ。……だが、不思議と不安は感じない。


「……ほんと、こういう時のアイツは立派に見えるから憎たらしいのよね……」


 キメラの前に堂々と立つクレンさんの姿を見て、ネリンがしみじみとこぼす。普段は飄々としているクレンさんがキメラの前で仁王立ちしているさまは、どうしてだか見ている俺たちの心さえも鼓舞するかのようだった。


「カリスマってやつなのかしらね……クレンみたいにはどうしてもなれないって、パパもしみじみ言ってたわ」


 カリスマ……か。日本にいたころにはいまいちピンときたことがない言葉だったが、今こうしてみるとはっきりわかる気がする。立ち姿や行動、そのすべてで人を鼓舞し、心を動かすことができる人物のことを、きっとカリスマがあるというのだ。……少なくとも、今俺たちを背負って立っているクレンさんにはそれがあった。


「さあ……久々に、暴れるとしましょう!」


 そう言うと、クレンさんは一蹴りで遥か高くまで跳躍して見せる。一瞬でキメラの頭上へと跳躍したことによって、二匹の視線が自然と俺たちから外れた。それだけで牽制役としての仕事は十分に果たされていたが、まだ満足している様子はなさそうだ。


「…………どうぞ刮目してください。……お二人とも、これが年季というものです、よ‼」


 そう叫んで、クレンさんは剣を鋭く振りぬいた。その先端からは風の刃が迸り、キメラたちが立っている地面の周りに次々と叩きつけられる。キメラに着弾しない刃の数々は一見的を外してしまっているようにも思えたが、俺はすぐに自分の浅慮を知ることになった。


「砂煙が……‼」


 風の刃は地面に当たって砕けちり、吹き上げる風は砂煙となってキメラたちの周囲を覆っていた。突然の視界の変化に戸惑っているのが影越しでも分かるほど、キメラはきょろきょろと首を大きく動かして状況を把握しようと必死だ。……クレンさんの陽動は、大成功と言ってもよかった。


「もう少しで準備が終わる!三人とも、どうにか持ちこたえてくれ!」


 そんなタイミングで、目を瞑ったままのミズネが俺たちにそう呼びかける。このままいけば楽勝だと、俺は内心快哉を叫ぼうとして――


「……お二人とも、警戒を‼」


 クレンさんの鋭い声に、俺たちの背筋が伸びる。……ふと砂煙の方に目をやれば、キメラ二匹の視線が明確にこちらの方を捉えていた。


「なん、で……⁉」


――どうやら、俺たちにも正念場というものが来てしまったらしい。

ということで、ネリンたちにもばっちり戦闘の機会が回ってきました!ミズネと磨き上げた切り札は実を結ぶのか、そしてキメラ討伐はうまくいくのか!次回以降も楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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