10 敗北者
打撃を体得した日の夜。
「それでは、会議を始める」
会議場所は俺の部屋。
参加者ライ、マナ。
初めの合図を聞くとマナは「はいはーい!」と返事をする。
「今回の会議内容は、加速をどのように体得するかだ」
今一番の問題だ。
加速は俺の知り合い (マナとドラゴ……少ねぇ)の中で体得している人が居ない。
その他は体得している人がいたからそれなりに何とかなったけど今回はそうはいかなそうだ。
「はい。ライ君! 提案です! この国を走り回りましょう!」
「採用」
俺もそれしか思いつかなかったしそれでいいや。
―――――――――――――――――――――――
ってことで次の日。
屈伸をするマナ。
ドラゴは「走るのはゴメンだぜっ」
って言って帰ってしまった。
「んんー。ライ君2人でパパっと加速を体得しちゃいましょう!」
伸びをしながら話しかけるマナ。
「んんー。そうだな」
伸びをしながら答える俺。
「じゃ、行くか!」
俺たちは走り出した。
キューバッカはそこまで大きな国では無い。国を走って一周するとちょうどいいくらいだ。
「はぁ、はぁ、走るのはあまり好きでは無いです〜」
走り始めて10分ほどでマナは根を上げている。
運動はダメなんだなぁ。戦いの動きはかなりいいのに。
「まだ始まったばかりだぞ。頑張れ!」
そんな会話をしながらマナが死にそうだったので一度止まると……
「おいてめぇら。最近オークのでる平野に毎日行ってる奴らか?」
一人の男が立っていた。誰かはご存知でない。
でも、明らかに俺たちを嫌っている。
マナも死にそうになりながら縮こまる。
「そうですけど……」
「龍討伐なんか考えてないだろうな少年と可愛い少女ちゃんたち」
可愛いに敏感に反応するマナ。頬を赤く染めてモジモジしている。
それどころではなさそう…
「いいえ。龍討伐を考えています」
俺はそう答えた。
すると……
ボンッ
「クハッ……」
俺は腹をぶん殴られた。
痛てぇ……オークの突進の何倍も痛い。
「龍討伐考えてんならやり返してみろよ」
そう言って俺をボコボコにする。うずくまる俺を殴り蹴り好き放題に。周りでは心配どころか笑い声が広がる。
一方的にだ。でも、俺には抵抗する力も腕もない。
このまま穏便に終わらせよう。暴力受けてる時点で穏便じゃない気もするけど……
体感的にこいつは打撃を体得していた。
攻撃を一方的に受けていると、
「や……辞めてください!」
腕を振り上げた男の前にマナが両手を広げて立っていた。
「そこどけよ。あんたもこんな弱っちぃ奴なんかと居るくらいならその顔使ってそこら辺で働いとけよ」
半分笑みを浮かべバカにしたようにマナを罵る。
マナが涙を流したのが見える。
俺は許せなかった。
マナをバカにするこの男とこの弱い自分を。
大切な人一人守れない敗北者の俺を。
でもそうだ。こいつの言ってることは正しい。
俺はマナとでは見合ってない。何もかもが。
でも…
「バカにすんなら俺だけにしろ……この子は悪くねぇだろ……いい大人して女の子泣かせてんじゃねぇーよ!」
痛みに耐えながら俺は立ち上がった。特大ブーメランだ。俺はこの前2回もマナを泣かしちまった。
でも……でも……
泣かしたことがあるから、その経験があるからそう言える。
俺は男に近ずき弱々しい力で男を押し、マナから遠ざけた。
「ライ君……」
マナがか細い声で俺の名前を呼んだ。
「俺は絶対龍を討伐してみせる……」
「ほう。まだ足りなかったのか」
指をバキバキ鳴らしまたこちらに近づいてくる。
俺は対人経験が無い。もちろん勝てるわけない。
「お前みたいな人間に殴られたってこの気持ちが揺るぐわけねぇーよ」
俺は今なんのために龍を討伐するのか。
前までは自分の自由のためだったかもしれない。
でも今は……
"差別を無くしたいの"
それは明らかだった。
ボコンッ
俺は意識が無くなるように目を閉じた。
―――――――――――――――――――――――
「見知らぬ天井……」
ここはどこだ? 痛てて。
起き上がろうとすると体中に痛みが走った。
横を見るとマナが椅子に座って眠っていた。
でもここは俺の部屋じゃない。
すると、
「ほぉ起きたのか。久しぶりじゃのう」
俺に龍について教えてくれたおっさんだ。
「お、おっさん! 覚えてるよ! あの後俺……どうなったんだ?」
「意識を失ってたからワシがお主たちを持ち帰ったんじゃよ」
「でも、俺たちの味方なんかしたらおっさんも危なかったんじゃねーのか?」
「あまりワシを見くびらないでおくれ。これでも龍討伐目指してたんじゃぞ」
ってことはおっさんあの男に勝ったのか?
いや勝ったって言うか多分脅したのだろうか。
「おっさんすげぇよ!」
大きな声でおっさんを褒め称える。
その声でマナがはぁっ! と目を覚ました。
「ライ君……ライくーん!」
マナが泣きついてきた。体に痛みが走るが我慢した。すごい痛い……
「ライ君なんであそこで……こんな大怪我しなくて済んだのに!」
俺は「ははは」と笑って、
「友達がバカにされたんだから当たり前だろ」
――友達
咄嗟にでた言葉がマナにはとっても大事な言葉だったということを思い出した。
マナはこの前みたいに泣かずに笑顔で
「ライ君ありがとう」
俺のお腹にまきつけた腕を離し、俺の顔に顔を近づけ、もう一度口を開く。
「でも! 友達を心配させちゃダメですよ!」
頬を膨らませ弟を怒るように注意喚起された。
俺は「ごめんごめん」と口ずさむと、
「でも、嬉しかった」
俺には聞こえなかった。聞き返すと、両手を振って
「いいですいいです! 怪我を早く治してくださいね!今日はおじさんの家に泊めてもらえることになったから安静に! 私は帰るね」
そう言って足早に部屋を出ていってしまった。
「ほっほっほっ。良き仲間を手に入れたなお主」
「あぁ。でもこの国限りだけどな」
俺は少し寂しい気持ちになった。
そして俺は思い出す。あの屈辱を。
手も足も出なかったあの男のことを。
ボコボコにされ、マナを泣かせた。
それを守れなかった。
悔しい……ただそれだけ。
でもその気持ちが俺の背中を押した。
「おっさん。話がある」
「なんじゃ?」
俺は小さく深呼吸し、
「俺を弟子にしてくれ」
「ほう。弟子のう」
「俺は何もかもが弱い。龍を討伐するなんて今じゃただの口だけだ。でも……でも……こんな俺を友達と呼んでくれる人がいる。そいつを守りたいんだ……」
マナを守りたい。それだけ。今は龍なんて関係なかった。
今まで俺には友達がいなかった。マナは初めての友達だ。大切な人だ。
「マナに見合う人間に……俺は……なりたいんだ」
数秒おっさんは考え、
「ほっほっほっ。ワシの修行は厳しいぞ?それでも良いか?」
「もちろん望むところだ!」
こうして俺はおっさんの弟子になった。
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