Ep:8 鍛練 *
逃げる為に通行料の銀貨三枚を払って街の外に出ようとする。
でも門は閉まっているし衛兵も沢山居る。これじゃ出られそうに無い……。
仕方なく細い路地に隠れる。
「「何処へ行った……?!」」
「「こっちには居ないぞ!」」
僕を探す兵士の声が聞こえる。
「誰だ……」
突然後ろから声を掛けられて、驚いて振り返る。そこには暗く紅い髪をした男の人が立って居た。
「子供がこんな所で何をしている……?」
怪しい人かも知れない。
でも今は誰かに助けて欲しい……だから僕は藁にも縋る思いで話した。
「逃げて来た……」
「誰から」
「クレイ家って言ってた……」
「そうか……」
男の人はそう言うと、僕に何かを投げ渡してくる。
「干し肉……」
「安心しろ、毒なんか付いて無い」
男の人に貰った干し肉を食べる。硬い……。
「お前、忌み子か……?」
僕は小さく頷いた。
「そうか……で、逃げてるって事はこの騒ぎはお前の所為なんだな」
「僕は奴隷になりたくない……だからエルと一緒に逃げて来た。でも、エルと女の人が……」
「ソイツが捕まったのか……まぁ良い、俺は金の無い奴と子供の相手が嫌いなんだ。どっか行ってくれ……」
男の人はそう言って厄介そうに手を振る。
僕は男の人の腰に剣が差してある事に気付いた。
「剣……?」
さっきの兵士達が持っていたから、それが武器なのが分かる。
「あぁ、これの事か……まぁ、護身用だ……」
「教えて下さい……」
「ん?」
「剣を、教えてください……!」
エルを助ける為に兵士を倒さないといけない……その為に強くなりたい。だから僕は男の人に頭を下げてそう頼んだ。
「言っただろ、俺は金の無い奴と子供の相手は――」
僕は袋に入った銀貨二十枚を見せた。
「ざっと銀貨二十枚か……割には合わないが良いだろう、俺の目的にも協力して貰う。先ずは銀貨五枚でお前用の剣を買う。性能は悪いが問題無い。後は一日銀貨一枚、最大で十五日の間に剣を覚えろ」
僕は大きく頷いた。
「俺は――スワードだ……お前の目的は連れていかれた忌み子の救出だな」
「はい……!」
「名前は」
「ライト……!」
スワードと名乗った男の人に銀貨を五枚渡した。
まずはスワードさんに剣を買ってもらった。
僕はクレイ家から逃げているから、表にはあまり出られない。
「ほらよ……」
スワードさんは僕に向かって鞘に入った剣を投げて渡してきた。
咄嗟に手を伸ばして剣を取る。
「おもっ……!?」
剣の重さに耐え切れずに落としてしまう。
スワードさんは僕が落とした剣を蹴り上げてキャッチする。
「まともに剣も持てないのか……本当に強くなれるのか……?」
「うぅ……」
「まぁ良い。まずはこれで試す」
スワードさんは木でできた剣を渡してくれる。
さっきよりは軽いけど、それでも結構重い……
スワードさんに言われた通りに木剣を構える。
「成程な。剣は持てないが筋は良い、構えが整っている。振って見ろ」
言われた通りに僕は木剣を振る。
木剣はするりと手を抜けてスワードさんの方へ飛んで行ってしまった。
スワードさんは軽々とそれを受け止める。
「危ないな、しっかり持て……!」
「はい……」
僕は今度こそ木剣を振る。
「まぁまぁだな、取り敢えず素振り五十回と、基礎運動を夕方までにしておけ」
「はい……!」
僕は素振りを五十回と、辛いけど腕立て伏せや懸垂などの運動をした。