Ep:7 絶望 *
女の人は僕にライトと言う名前をくれた。
「それにしても、今朝は騒がしいの……」
「そうねぇ……昨日の夜からだけど、何かあったのかしら……?」
女の人はそう言いながら外を見る。そこを鎧を着た人が走って行くのが見えた。
「あの紋章……あれってクレイ家の紋章じゃない?」
「という事はクレイ家の私兵って事かい」
僕には女の人とお爺さんが何を言っているのか分からなかった。
エルも不思議そうな顔をしている。
「嫌な予感がするわね……ライト、エル、二階に上がってて」
その言葉に僕は戸惑う。だけど女の人の顔は真剣だった。
僕達が二階に上がると、下で扉が開く音がした。小さく話声が聞こえる……。
「昨夜、子供二人を運んでいる最中の馬車の御者が殺害されました。子供達は馬車から逃げています。何か知っている事はありますか?」
「いえ、何も……それより、何の為に子供を運んでいたんですか……」
「貴女には関係の無い事です。念の為、二階も見せて貰います」
「二階は只の寝室ですので」
「……それでも確認させて貰います」
階段を上って来る足音がする。
僕とエルは昨日寝た部屋の中に隠れた。隣の部屋の扉が開く音がして、直ぐに足音が近付いて来た。
僕達の居る部屋の扉が開く。僕は鎧を着た兵士と目が合った。
「これはどういう事ですか……!?」
兵士が女の人を問い質す。すると女の人が手に持ってた長いパンで兵士の顔を叩いた。
部屋の入り口に、辛うじて通れる程の隙が出来た。
「ライト、エル! 逃げて!」
女の人が僕達に叫ぶ。
慌てて僕とエルは部屋を飛び出す。階段を下りる時、上って来る兵士達の間を通り抜けた。
「うわっ……!?」
兵士は驚いて退く。
「早くあの子供を追え!」
後ろからの兵士の声が聞きながら、僕達はお爺さんの横を通りぬけてお店の外に飛び出した。
大通りを走って逃げる。
僕達の体力は持たないし、正面からも兵士が来た……。
「はぁっ、はぁっ……!」
僕は走りながら息を荒げる。エルも肩で息をしてる。
そのまま僕達は兵士達に囲まれてしまった。
「逃げられると思うなよ……!」
そう言いながら兵士達は剣を抜く。
「ライト、私が捕まるから逃げて……!」
「何で……!? 一緒に逃げるんでしょ?!」
「良いから!」
その瞬間、エルの左目が紅く光った。
エルは左手で僕の腕を掴んで投げた。
一人の兵士にぶつかって、倒しながら飛んで行く。大通りに叩き付けられて、僕はあちこちを怪我しながら立ち上がった。
僕は、遠目からエルが兵士に捕まる所を見ていた。
「絶対に助け出すから!」
エルに向かってそう叫んだ。その時に見たエルの顔は優しく、僕は走って逃げ出した……。