Ep:5 到着 *
僕と女の子は馬車に戻り、荷台から銀貨を二十枚取った。
「これで足りるよね……?」
僕は女の子に聞く。
「大丈夫だよ、足りなければまた戻ってくれば良いんだから」
「そうだね……」
そのお金を持って街に入る列の一番後ろに並ぶ。
既に空は暗くなっていた。
「寒いね……」
「うん……」
薄っぺらい服じゃ夜は特に寒い……それを我慢して暫く並んでいると、後ろに馬車が一台停まった。
「君達、そんな服でどうしたの?」
突然馬車に乗ってる大人が話し掛けて来た。僕達が驚いて振り返ると、話し掛けて来たのは女の人だった。
「あら、綺麗な目――じゃなくて、寒くないの?」
女の人は優しく話し掛けて来る。
僕は女の子と顔を見合わせて考える。
「――ん……大丈夫だよ、悪い人じゃ無いから。私はこの街でパン屋をしてるの」
女の人は微笑みながら自分の事を話す。それに僕の警戒心は少し薄れた。
「寒い……」
「だよねぇ……ちょっと待ってて」
女の人は馬車の荷台から取り出した暖かそうな布を渡してくれた。
「何だったら、一緒に入る?」
「良いの……?」
女の人の質問に女の子が答える。さっき僕が喋ったのを見て、女の子も緊張が解れたのかな……?
「勿論、じゃあ、ここに乗ってくれる?」
僕と女の子は女の人の両隣に座る。
後ろを見ると、荷台の中にはパンを作る為の材料が沢山積んであった。
「ちょっと狭いけどごめんね」
僕達は女の人の隣で荷台の中で布に包まる。暖かい……。
馬車は少しずつ進んで行った。そして、遂に街の入り口に着いた。
「荷台を見せてもらう」
鎧を身に着けた男の人が馬車の後ろに回り、荷台の幌が捲られる。この人が街の衛兵……。
「問題無い、荷物を含めて通行料銀貨10枚だ」
金属が擦れる音がして馬車が動く。とうとう街の中に入った……!
「やった、入れた……!」
「そう言えば君達、名前は?」
女の人の質問に僕は黙る。
名前なんて無い……今までずっと地下牢に居たから誰かに名前で呼ばれた事が無い……。
「そっか……じゃあ取り敢えず私のお店行こっか」
女の人は何も咎めず、優しい口調でそう言った。
街の大通りを馬車で進んで、暫くして建物の前で停まった。
「降りて良いよ」
女の人の声が聞こえて、僕達は馬車を降りる。
良い匂いがする。甘い匂い……。
「私のパン、良い匂いでしょ? この辺りじゃ有名なんだよ~」
「あの、通行料…」
女の子が女の人に言う。
「良いよ良いよ。でも、そこまで言うなら荷物運ぶの手伝って。そうしたらパン食べさせてあげる。美味しいよ~?」
僕達はお礼も兼ねて女の人を手伝った。
お店の中に荷物を運ぶ度、良い匂いが鼻を通り抜けて行った。