Ep:1 運命 *
僕は小さな町で産まれた。だけど、僕はお母さんとお父さんにも嫌われた。
物心ついた頃から僕は牢屋の中で暮らしていた。誰も居ない暗い牢屋、人が来るのはご飯の時くらい。それ以外は誰も来ないしご飯も美味しくない。
こんなのは死んだ方が楽だと思ってた。君と出会うまでは……。
朝目を覚ます。薄暗い牢屋の中、もうすぐ美味しくないご飯が来る。檻の隅で大人しくしていないと殴られる……。
いつも通りに軋んだ木の扉が開いて大人が入ってくる。今日もまた美味しくないご飯が来ると思っていた――。
今日は何か違う。確かにご飯も持ってるけど、その後ろから二人入って来る。一人は大人、もう一人は僕と同じくらいの子供だった。
「ほら、入れ……」
大人は僕と同じ牢を開けて、その子を乱暴に押し飛ばして入れる。僕と同じ様に足に鎖を掛けて扉を閉めた。
「幾ら忌み子のお前らでも人間だ、殺しはしない。この国では殺しは重罪だからな。ったく、何でこの町では同じ日に悪魔の子が二人も産まれるんだよ……」
「あぁ。それにあの親、よく六年も守ったな……」
愚痴を言いながらいつもの様にご飯を置いて、大人達は牢をを出て行った。出て行ったのを確認して僕はご飯を食べる。やっぱり美味しくない……。
「誰……?」
さっき入ってきた子が僕に言う。誰なんだろう、いつも見る大人と違って髪が長い……。
「私に似てる…」
「え……?」
その言葉に僕は思わず食べる手を止める。似てるって何が……?
僕はその子の顔をよく見る。地下牢だから薄暗くてあんまり見えないけど、髪の毛が白っぽくて、首の左側に赤黒い痣がある。
それに目の色も左右で違う、左側が紅くなってる……反対側は大人と同じ様に黒い。
「やっぱり似てる……」
女の子は僕の顔を見て呟く。
「どういう事……?」
僕が聞くと、女の子は僕が持ってるスプーンを指差す。スプーンを見ると、そこには何故か僕の顔が上下逆さまで見えた。
「裏返して見て」
女の子に言われた通り、僕はスプーンを裏返す。
「あ、普通に見える……」
そこにあった僕の顔は、女の子と同じ様に髪の毛は白っぽく、首に痣、目は左右で色が違った。
スプーンの中の僕を見て、首の痣を触ってみる。
「あれ……?」
スプーンの中に映った僕の首の痣は女の子と同じ方向にあるのに、触ってる方は左じゃなくて右側……。
「もしかして、鏡知らないの……?」
「カガミ……? 何それ……?」
「鏡って言うのは物を映す道具の事。君が可笑しいと思ってるのは、鏡は左右を反転して映す物だと思ってるから。でも本当は前後を映す物なの。だから、私達がこうやって立つと……」
女の子は僕の腕を引っ張り、僕はそれに任せて立つ。女の子は僕の正面に立った。
「ほら、さっきのスプーンみたいでしょ?」
「確かに…! これ面白いね…!」
面白い……この子は僕の知らない事を沢山知ってる……。
外の世界の頭の上には、とても高い空って言う青い物が広がっている事や、僕が産まれた町以外にも、もっと大きな街がある事。
物心ついてからずっとここに居た僕にとっては、知らないことだらけで楽しかった。毎日女の子と話して、知らない事を沢山教えて貰った。
女の子が来てから何日経ったんだろう……? 時間を忘れる程色んな事を教えて貰った。
「そう言えば、君は何でここに来たの…?」
僕が女の子に聞くと、女の子は顔を曇らせる。あまり触れちゃいけなかったかも知れない……。
気まずい雰囲気が少し流れたけど、女の子は話してくれた。
「私ね、小さい頃から町の人から嫌われて、忌み子とか、悪魔の子って呼ばれてたの……」
「僕もそう呼ばれてる。でも、僕は気付いた時からここにいたんだ…」
「私はね、お母さんとお父さんが町の人達から守ってくれてたから最近まで平気だったけど、お父さんが事故で死んじゃってから、お母さんは病気になっちゃって……すぐにお母さんも死んじゃったの……それからすぐにここに……」
僕と同じくらい辛い思いを君も――ううん、お父さんとお母さんと離れ離れになったんだ……どっちの事も知らない僕よりも辛いに決まってる……。
「きっといつか報われる時が来るよ……!」
僕の言葉に女の子は、少しの涙を拭って微笑みながら頷いてくれた。
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