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異世界で勇者と妹と母親と。

「勇者と魔王様は相打ちになったらしい」


男はカーテンを閉めながら、そう呟いた。

それを聞いた女は首を振る。


「いえ、あの子は生きているわ。死ぬわけがない」

「相手は魔王様なんだぞ」

「そうね、でもあの子は勇者だから」


+++


少し前、名もない農村で「勇者」のスキルを持ったものが産まれた。

「勇者」は10才になるかならないかの内に、世界を闇に陥れている魔王を討つ為に旅立った。

勇者は魔王を倒しに、魔界まで追っていき行方不明になった。

瘴気は消えたから、魔王と相討ちになったのでは、という噂が流れた。

魔族は統率を失い、各地に散り散りになった。


それから、女は勇者である我が子を待っている。

生きている、と信じているのだ。


夫はといえば、魔族の一人と戦って死んでしまっていた。

その隙を狙う男が女の家に入り込んでいた。

男は魔族だったが、女に強く惹かれるものがあったのだ。

女は何故か男を拒まない。


「ふふふ」


ふと笑う女を男が抱きしめる。


「何故笑う?」


男の当然の疑問に、女は首を振る。


「いえ、ただね。あの子の弟か妹がほしいかな、と思って」

「それはおねだり、という事かな」

「ふふ、そうよ」


女はそれから程なくして可愛い女の子を産んだ。

魔族の男はもちろん自分の子なので可愛がった。


それからさらに数年が流れた。

ある日、女の子が魔族に向かって光魔法を放った。

突然の事で、魔族には反撃する間もなく浄化され消え去った。

魔王というわけでもなかったので、圧倒的な光の魔法の前には存在できなかった。

今まで、光魔法を使わなかったから分からなかったが、女の子は「聖女」のスキル持ちだったのだ。


「お母しゃん、お兄たんを連れてくるね」

「よろしくね。お弁当はこれよ」


勇者の妹は、小さい手に弁当を持って旅だった。

数日のうちに魔界の魔王が住んでいた神殿に辿りつく。

神殿の床には、傷だらけの勇者が横たわっていた。

最後の力を振り絞ったのか、光るバリアのような繭で全身が包まれている。

力を使い切って動けないのだろう。

勇者の妹はどうしたらいいのか、分かっていた。

小さい手を勇者に向かってかざすと、みるみるうちに勇者の傷がふさがるのだった。

勇者は目を覚まし、自分の妹と手を繋いで魔界を後にした。


そして母親は、帰ってきた我が子たちを抱きしめることができた。

女は我が子がいれば満足だった。

女は村のはずれに住んでいて、変わった男しか寄ってこない。

名もない農村では、その女のスキルは誰も知らない。

母親だけが分かっているスキルは、「聖母」のスキルだった。

読んで下さってありがとうございます。時々、こういう淡々とした話を書きたいので書きました。

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