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二人でなんか作って食べる話。

異世界に行ったら彼女は菓子は作れないと言う

作者: あかね


「異世界に行ったら菓子は作れない」


 クリームを泡立て機で泡立てながら彼女は断言した。


 私には同居人がいる。

 名をパティ子(仮名)という。

 パティシエの卵で製菓の専門学校に通っている従妹だ。


 私はしがない会社員。購入した家に貢いでいる女だ。

 もし異世界に行ったらすごく困ることになる。


 我が家は2DK。パティ子はキッチンで、私はダイニングの椅子に座っていた。

 今日は休日の昼下がり。いつものテレビが終わった後のぽっかり空いた時間。


「ホットケーキとか作れそうじゃない?」


 パティ子が近頃はやりの小説が、とか言ってたのをへーとかはーとかぼんやり相づちしながらゲームしていたのが間違いだったのだろうか。

 学生時代はまったものがアプリになって帰ってきている。懐かしさに貢いでもよいと思う。


「ベーキングパウダーが異世界にあるとでも? 中世レベルの科学ではムリ」


「……へー。じゃあ、重曹?」


「もうね、作り方がわからない。調べて絶望したもの」


 調べたんだ。

 私はそっちの方が驚きだよ。


「どら焼きとかお饅頭系は重曹つかうから江戸時代にはなんとかなってたのかなーって思うけど」


「和菓子おいしいよね。和菓子、いいんじゃない?」


「恐ろしい砂糖量をお忘れで?」


 ……イチゴ大福のことを思い出した。

 白玉粉を越えるグラニュー糖。

 精製された砂糖が出回るのも最近のことだからまあ、ムリでしょう。昔行った南国で見たサトウキビから黒糖まで作るのも大変そうだから。


「そもそも量りが必要なの。計量しないで作るなんてあり得ない」


「アメリカンスイーツの立場がない」


「……あれも計量カップで量ってるから。いや、最悪そっちの方が良い気がする」


 泡立てたクリームは一時冷蔵庫に退避させられている。

 次にクリームチーズの箱を開けていた。計量済みのグラニュー糖の量については気にしてはいけない。


「ゼラチンも食用までには長い道のりが。寒天のほうがまだ希望があるんじゃない?」


 テングサを煮詰めれば良いらしいよと言いながら粉ゼラチンを水でふやかしている。

 うーん。

 今日はレアチーズケーキっぽい。

 しかし、テングサ。

 テングサの歌というものがあってトマトが。


「クッキーを砕くお仕事よろしく」


 全力で異世界に行きそうな思考を遮断するように麺棒とクッキーを入れた袋が寄越された。

 全粒粉のクッキーか。ココアのアレのほうが好きなんだけど。


「クッキーなら作れそうじゃない?」


「温度計のないオーブンで一発で焼けるってミラクルだよね。あと、冷蔵しておく必要があるのはムリかな。アイスボックスクッキーみたいな」


「某おばあさんのクッキーは?」


「あのあたりなら出来そう。油脂がバターじゃなかったりするのもあるし」


 ……クリームチーズが固いからって電子レンジ放り込むのってどうなのかな。やってやったわ、ふんすって顔は人に見せない方が良いと思う。

 思うだけで言わないで程よく粉々のクッキーを返す。


「はい。ねぇ、そのバターってどうするの?」


「クッキーと混ぜて底に敷くね。カロリーとか気にしてたら修行出来ません」


「減らした分がすぐ戻ってくる」


 何のためにスポーツクラブに入ったのか。パティ子もイヤそうな顔をしている。


「皆太るがよい」


 その呪いがかかったお菓子明日持ってくの?

 とは聞けなかった。

 持っていかなかったら食べるのは我々二人となる。

 服がきついとかもう勘弁して欲しい。


「まあ、異世界で実用に耐えるのはパウンドケーキ、各種焼き菓子くらいかなぁ。雑な配合でいけそうなヤツね。

 クリームはもちろんバタークリームね。防腐を考えてめっちゃ甘いヤツ」


 電子レンジのおかげで無事クリームチーズは滑らかになっていた。ゼラチンもちょっと溶かされ投入される。

 ダマが残っていると最悪だと言っていたので念入りに濾して潰していた。


「……いつからポマード状とかいわなくなったのかな」


「私聞いたことないよ?」


「え?」


 聞かなかったことにしよう。


「パイもタルトも思い出して。あとプリンも」


「え、え、うん」


 全力で直前の会話に戻ったら戸惑われた。いけないいけない。全力で押し流さないと。


「でも、マカロンとか作れるの?」


「カラフルなアレはやめた方が良いんじゃないかな。がっちり粉に火が入っているほうが安心」


 食中毒が恐いと肩をすくめる。

 クリームチーズに少し泡立てたクリームを入れ混ぜる。そのあとに全量入れて軽く混ぜあわせて型に入れた。

 残った分を小さなプリン用の瓶に入れていた。

 あれが後で出てくる分だろう。


「おいしくなっていますように」


 お祈りしてラップして冷蔵庫に入れていた。


「そう言えばレモンもヨーグルトも入れないの?」


「んー、今日はチーズを思い切り感じたい」


「買ってきたヨーグルトは?」


「ラッシー作るの。マンゴーピューレも買ってきたの。飲み放題」


 そいつにも砂糖が一杯入ってるとは言えない。

 世の中はこんなにも甘いもので溢れている。

 まあ、だからといって制限のある異世界に行きたいとは思わない。


「カレーで発汗出来れば良いね」


「お姉さん、ちょっとランニングしてこよう」


「あー、うーん、そうね」


 増量と言う言葉は我々が恐れる言葉だ。

 しかし、食べないという選択肢が存在しない以上、頑張るしかない。


 ランニングとは名ばかりのウォーキング後のレアチーズケーキは大層おいしかった。

 豚肉で作ったなんちゃってキーマカレーもかなりいけてた。自家製マンゴーラッシーは何杯も飲んじゃった。


 食後にジムに向かったのは言うまでもない。

・ボール

・泡立て器

・粉ふるい

・量り

・計量カップ

・温度計

・木べら/ゴムべら

・タイマーあるいは砂時計


これらはお菓子を作ろうと思ったら必要だと思います。

繊細なお菓子ほど一グラム単位で計量が必要です。

そうでなくても均一な量りを作らないと同じ品質のものを量産するのは難しいのではないかと思います。

レシピ配ったって、同じ量かはわからないわけですし。

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