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a feeling that a time in the past was good, and the activity of wishing that had not changed

作者: しのぴー
掲載日:2019/04/23

疲れてしまった。

ほんとうに、疲れ果ててしまった。


街はあまりにうるさくて、それを躱していくだけの空き容量も残っていなくて、もうほんとうに、疲れて果ててしまった。


でも、全てを投げ捨てて走り出すことはできない。走り出すにはあまりに歳を取りすぎてしまった。


ほんとうは、この歩道橋の上から、携帯も、家の鍵も、許されるなら現金だって、投げ捨てて走り出したい。


でも、それは出来ない。職も立場も生活すらも投げ出して、それでも欲しいと願うものなんて、もう何も残ってはいない。


疲れてしまった。

ほんとうに、疲れ果ててしまった。


だから、歩いている。行き先は、知らない。


帰るべき道を外れて、曲がるべき角を無視して、知らない場所へ行きたかった。イアホンも外して、スマホの電源も切って、誰も知らない場所へ、誰にも知られない場所へ行きたかった。


でも、狭い東京、そんなことはできない。


誰かがどこかで見ている街、誰かの思い出が残る街、何処かへ行くには東京はあまりに狭い。




山手トンネルの換気塔の横まで来て、大きく息を吸った。都会の匂いがした。

もう一度息を吸った。苦しさも、楽しさも、懐かしさも、全部混ざった味がした。


懐かしい街に来ていた。嬉しい楽しい苦しい寂しい全て混ざって渦を巻いた街。


吸い込まれるようにベンチに倒れ込んだ。

山手通り沿いの歩道で仰向けになって、靴も靴下もジャケットも脱いだ。周りから見れば変な人でしかなかったが、心地良くて、このまま寝てしまってもよかった。


でも、それは出来ない。




街は不自然なくらい静かだった。


タクシーのテールランプが縦に歪んで見える。

ぐにゃぐにゃになって、溶けていってしまう。


思い出は優しい。いつまでも溺れていたい。


でも、それは出来ない。




大きく息を吸って、吐いた。


頭が痛くなる、排気ガスの匂いがした。古い観光バスみたいな、笑ってしまうくらいひどい匂いがした。


いつもと同じ、東京の匂いがした。




紫色になりかけた空は、再び灰色を帯びてきた。

靴下を履いて、靴を履いて、靴紐を固く結ぶ。


さっきぼんやりと歩いてきた道を、早足で戻る。

歩道橋を駆け上がると、すぐに新宿が見える。ビルが建ち並び、あっという間に飲み込まれてしまう。


東京はほんとうに狭い。


だから、歩いている。




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