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ブランチはチャールストンの傍らで 1

 挨拶ついでに「な、何ですか? これは」と、翔は訊かずにはいられない。自分の背中から異様な物体、モンスターの一部かと思える「鉤爪」が現れたのだから。これは突然変異か、奇形の一種か。色々考えても髪を両手でかきむしるしか答えは出ない。仕方がない。翔は背中に手をあてては、か細いトーンでそう声を出した。

 翔の隣にいる少女は、切れ長の瞳に奥二重を持ち、黒々とした髪が肩まで伸びている。いつもの翔なら「綺麗な子」の一言で片づけて、今後この子に近づかなかっただろう。だがこうとなっては、翔は彼女の返事を待つしかない。華々月ゼナリと名乗った少女は、髪を少し振りあげ、乱れを整えると、何事もなかったように言ってのける。



「あなたも覚醒者になったのね。ならば一緒に戦い、学園生徒を守りましょう」



 生徒を守るかどうかはさておいて、「覚醒」と聞いて翔が思い浮かべるのは、極限にまで、何かの力が引き出され状態だ。極々平凡な暮らしを心がけてきた翔。その自分が覚醒。よく分からない。首を傾げる彼にゼナリは右眉をピクリと吊り上げみせる。



「舞坂高生徒、数名が『覚醒者』になっている。あなたは一人じゃないから。安心して」


「あのー。覚醒者? 覚醒者 #とは」



 やはりここも尋ねるのが一番だと思った翔は素朴な質問をする。ゼナリは少し両目を見開く。ゼナリは急いでいる様子で、翔とのファーストミーティングを楽しむつもりなどないらしい。



「舞坂学園には、どこからか『天徒』と呼ばれる化け物がやってくる。その化け物を倒すために覚醒したのが、私。新しくは君。翔と呼ばせてもらうね。翔だ。覚醒者は異能力をそれぞれ持っている。これで充分?」



 結構なスピードでそう言われても、翔は「はい。そうですか」と理解は出来ない。まずは心配なポイントをゼナリに確かめる。



「あのー。大丈夫? 俺? その覚醒者ってものになってしまって。人間の食べものが食べられなくなるとか、人を食べたくなるとか。覚醒した力をコントロール出来なくなって、家族を襲っちゃうとか。そんなの……、ありません?」



 ゼナリは翔の不安をケアするが、その口振りはすげもない。



「大丈夫。私は覚醒して一年経つけど、日常生活を普通に送れているわ。どう? これで少しは安心した?」


「そぉなんですね。僕はてっきり人里離れた山奥で細々と暮らさなくちゃいけない体にでもなったのかと」



 気が抜けて、ぼそぼそと話す翔に、ゼナリは余り興味がないらしい。次の瞬間には、顎をあげて、翔を見おろすように口走る。彼女はかなりのオーバーアクションだ。



「それにしても! だ」


「はっ!? 何でしょう?」



 両手をあげて、大きな声を出すゼナリを見て、翔は体が後ろに引く。黒髪、セーラー服に日本刀。+可愛げのあるオーバーアクション。翔はその彼女の魅力を見逃さなかった。ニュータイプの大和撫子、ここにあり。一方ゼナリはゼナリで愉快そうだ。



「私の異能力は刀剣二本! 獅子若刀と蛇龍剣を! 世界のどんな剣の使い手よりも、巧みに操れるというものだが! 翔! あなたの異能力は最高ね!」



 そう言い放って、ゼナリは体をくるりと回転させる。彼女に「最高」と言われて、翔も「そ、そぉかな?」と照れながら髪に触れてはみるが、ことは丸く収まらない。

 何しろ当の鉤爪は、一体どういうタイミングで出てくるか分からないのだ。好き勝手に現れたら、翔の方こそ化け物扱いだろう。褒められて呑気に喜んでいる場合でもない。



「あのさぁ。この鉤爪とか、君の……」


「ゼナリでいい」


「じゃあゼナリの-、日本刀を使うとかの能力は、学校以外ではどうしてるの?」


「そこは」



 ゼナリが答えようとした瞬間、もの凄い勢いで校内に入ってくる車があった。その丸みを帯びた車体、レトロなデザインから、レトロカー好きの翔はすぐに分かった。その車は「シトロエン2cv6チャールストン」だった。

 「チャールストン」。それはそれはノスタルジックで美しい車だった。

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