表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

五人の女王様

作者: 代山ばん

昔、ある国のお話です。

この国は春夏秋冬が決められた期間に決められた順番で巡ってきます。


王様は春夏秋冬、各季節の管理をさせる為に、民衆の中から女性を選び

それぞれの季節の女王として崇めさせました。


女王が、この国に建てられた塔の中に入ることで次の季節に移り変わるのです。


王様は季節のサイクルが終わる冬と春の間を一年の区切りとして、

国を挙げた王国祭を開催し、この期間だけ各季節の女王が一同に

集まる場を設けました。


そして今年もまた冬が終わり、王国祭の日が近づいてきました。


民衆は祭りの準備をし、女王たちも王様のもとに集まろうとしていました。


しかし、王国祭が近づいてきても、一向に冬の雪解けは終わりません。

むしろ、厳しさが一層増してきて、王国祭の準備もままらない状態でした。


困った王様は、塔に使者を派遣し、冬の女王に季節を終わらせるよう

要請しました。

しかし冬の女王は王様の要請を無視し、さらに雪を降らせていったのです。



そんな時、他の季節の女王たちがお城に集まってきました。


王様は女王たちに、冬の女王が季節を終わらせようとしない事を説明し、

女王たちに何故そうなってしまったのか相談しました。


春の女王は答えました。

「私の管理する春は、全ての生き物が活き活きとして動き始めるの。

 花が咲き始め、動物が顔を出し、新しい息吹の始まりを感じるわ。

 それを見守るのが幸せなの。でも冬の季節は終わりの季節でしょ?

 だから冬は管理したくないわ。」


夏の女王は言いました。

「私の夏は暑いのよ。太陽の日差しを最大限感じられる季節だわ!

 人は薄着になり、生まれたままの姿に近づくの!

 そして私のこの美しいナイスバディを皆が羨むのよ!

 冬は寒いし、服を着込むから絶対に担当したくないわ!」


秋の女王も話しました。

「秋は実りの季節なのですぅ。冬から春、夏を経て、秋になって

 ようやくその収穫が出来るのですぅ。だから何を食べても美味しい美味しい!

 こんな幸せな季節、他にはないですぅ。

 私はそんな秋が大好き!他の季節なんて絶対やりたくないですぅ!」



王様は自分たちの季節しか考えない、女王たちの意見を聞いて、

冬の女王もきっと、冬が好き過ぎて交代したくないのではないか、と考えました。


そこで使者を塔に派遣し、冬の女王に説明しました。

冬の女王は怒りに満ちて答えました。


「私が冬が大好きですって?勘違いも甚だしいですわ!

 冬は我慢の季節、動物も植物も土の中でじっと我慢する。

 地表は雪で覆われ、冷たい空気が辺り一帯に立ちこめる。

 私は我慢ばかり、他の女王たちが皆自分の担当する季節を

 かみしめて、楽しんでいるのに、私は自分の季節を恨むばかり。

 毎年それを繰り返して、悩んで、私の心は荒んでいく。

 ある日ふと思ったの、ずっと冬が続いてしまえば、周りの人も

 私の悩みを分かち合ってくれるかもしれないと。

 だから私はこうしてこの塔に留まっているのです。」


使者は冬の女王に追い返され、王様に事の次第を報告しました。


王様は益々困ってしまいました。

他の女王は冬は嫌だと言い出すし、冬の女王をさらに怒らせてしまった。


方策も尽きた王様は、仕方なく国中におふれを出しました。


【冬の女王を説得出来た者には褒美を与える】と。


早速、国中から我先にと弁士が塔に集まり、冬の女王を説得に向かいました。


「女王様、春もつらいのです。いろいろ準備をしなければいけないので

 大忙しです。 冬と同じくらい春は厳しい季節なのですよ。」


冬の女王は答えました。

「これから始まることを考えれば、とても楽しいじゃないの!」



「女王様、夏も大変です。とにかく暑くて過ごしにくいのです!

 私も夏が来ると汗がとまらなくて、とてもつらいのです。

 そのつらさは冬と同じくらいです!」


冬の女王は答えました。

「水浴びすればいいでしょ!身につけるものが少ないなんて羨ましいわ!」


「女王様、秋は寂しいです。木々も枯れはじめて、とても寂しいのです。

 秋は紅葉一色、冬は銀世界、どちらも同じかと思います。」


冬の女王は呆れて答えました。

「実りの秋、さぞかし食べ物はおいしいんでしょうね!

 それに冬は枯れ始めではなく枯れきっておりますわ。」


こうして名のある弁士たちが挑んでいくも、

誰一人としても冬女王を説得できない状態が続きました。


そこに凛々しくて気品のある貴族が名乗りを挙げたのです。

その貴族はこう言いました。

「皆さん、他の季節を貶めようとするから駄目なのです。

 全く逆転の発想でいきましょう。」


そして塔に向かい、冬の女王に言いました。

「女王様、冬が我慢の季節だとおっしゃりますが、冬だって楽しい

 ではありませんか。雪像をつくったり、雪すべりをしたり。

 私は冬を歓迎致します。」


冬の女王は冷たく微笑んで答えました。

「あら、ありがとう。だったら、もっと雪を強く降らせてあげるわ。」


その日から、雪はさらに激しく厳しく国中を吹雪きました。

民衆は激しく憤り、王様はその男に国外追放の罰を与えました。



次に現れたのはサーカス集団でした。

「冬の女王様は自分の季節が厳しいとおっしゃいました。我々は塔の前で

 雪遊びをして女王様に冬はつらくない事をアピールしたいと思います。」


王様は心配しました。それではあの貴族と同じではないかと。


サーカス集団は塔の前で、雪だるまを作ったり得意のサーカスで

雪をつかった曲芸をして楽しんでました。

冬の女王はそれを見て心が揺るぎ始めました。

しかしサーカス集団は遊んでいるだけだったので、

冬の女王を説得するには至りませんでした。



次に現れたのは怪しい魔法使いの集団でした。

「私たちにお任せ下さい。冬が寒くて、雪が冷たいからいけないのです。

 私たちが灼熱の魔法を以って、冬を暖かく致しましょう。」


魔法使いの集団は塔の周りを囲み、灼熱の魔法を唱え始めました。

王様は近衛兵たちに命じて、魔法使いたちを捕らえました。

「せっかく作った四季のバランスを壊されてはたまらん。」



我慢の限界を迎えたのは民衆でした。

冬の厳しさは増すばかりで、一向に王国祭を開催する事もできない事に

業を煮やした民衆は広場に集まり、塔に向かって行進しはじめました。


そして塔を囲んで火を焚き始めました。

「この煙で冬の女王様を炙り出すしかねぇ」


煙はみるみるうちに塔を覆いはじめ、冬の女王も煙に塗れました。

怒った冬の女王は塔を氷で覆ってしまったのです。

そして塔のまわりを吹雪きで覆ってしまったのです。


いよいよどうすることも出来ず、王様やほかの季節の女王は途方にくれました。



そんな時、王様の娘が出てきて言いました。

「四季の女王様は何故4人である必要があるのですか?」


王様は呆れて言いました。

「何を言っているのだ、四つの季節なのだから四人なのは当たり前ではないか。」


娘は

「だって五人いれば季節を一つずつズレながら交代できるではありませんか」


一同目を丸くしました。

「確かに私たちの仕事は塔に入って見守るだけ。ほかの季節にも代われるわ」


娘は

「ならば、私がその中に入ります。皆さんといろんな季節を満喫しましょう」


そして娘は塔に赴き、冬の女王にその旨を訴えました。


冬の女王は目から鱗が落ちるようにその話に納得し、塔を出たのです。


こうして、王国には再び春が訪れました。

女王はそれぞれが年を越すごとに一つずつ次の季節を楽しみながら

四季それぞれの良さもつらさも併せて満喫しながら過ごしました。


王国は四つの季節を五人の女王が季節を管理し、国中が幸せになったのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 発想がとてもおもしろかったです!色々な方法を試すも女王はなかなか折れず、「次はどんな風に説得するのだろう?」と、読み進めるごとに先が楽しみになりました。説得する中で、「フフッ」と思わず吹き…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ