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義教の野望  作者: ペロリん千代
9/33

誕生、そして新たな火種

はじめ10話ほどで終わる筈だったのに……

意外と長く続きそうです。

1432年(永享三年) 足利義教

今年の初め、尹子が遂に子供を産んだ。男の子だ。正月と重なって祝いムード一色だ。公家や武家から祝いの品がこれでもかと届く。結構なことだ。幕府もしばらく安泰だろう。くれぐれも義政みたいにはならないようにしっかりと教育しないと。


この出産には初めての嫡男ということで非常に重要な意味を帯びているんだが、もう一つ重要なことがある。それは子どもの母親が三条家の者だということだ。義満の頃に足利将軍の正室は日野家と者とすると決められていたんだが、俺と日野宗子との間には子供はいない。あまり日野家から女を娶りすぎると日野家の専横が起こってしまうのではないかと危惧していたから良かったと言える。


史実では義政は自身の母親である日野重子やその親戚である烏丸資任(すけとう)らに政治に介入されて自身の思い通りにできていなかった。それで政務に飽き、弟の義視に将軍職を譲ろうとしたのだ。





「上様、此度の御出産おめでとうございます。これで幕府も安泰ですな」


「そうだな、門跡どの。だがまだ安泰かは分からんぞ。このご時世、若くして亡くなるなどというのは珍しくないからな」


「それはそうでございますな」


今、俺は満済と会っている。最近体調がすぐれないと聞いたので会うのは控えていたのだ。


「体調は如何だ、門跡どの」


「だいぶ良くなりましたな」


「そうか、それは何より」


実際良くなりはしたんだろうが顔色はあまり良くないように見えるな。


「して、何用だ?」


「ええ、上様が富士遊覧をなさるおつもりと聞きましてな」


「そなたも反対か?」


「拙僧が反対してもやめるおつもりはないのでしょう。ならば少し気になったことを申し上げようと思いまして」


「気になったこと?」


「ええ、今川での家督争いを鎌倉殿が煽っていると耳にしましてな」


「反対派が蜂起すると?」


「今は表沙汰になってはおりませんがおそらく狩野、富士あたりが」


「その程度ならば問題あるまい。彦五郎もこのくらいたやすく鎮圧できよう。それにおそらく余が富士遊覧に行っておる間は争いを控えるであろう」


「そうでしょうが、老人のちょっとした独り言とでも思ってくだされ」


「うむ、助言感謝する」


今川民部大輔範政が存命中は問題ないかな?一応注意しておくか。





今、洛中は大混乱になっている。叡山の坊主どもが神輿を担いで強訴しようとしているらしいな。現代ではなんかのパレードみたいに見えるかもしれないが、この時代ではかなり恐ろしいものらしい。民衆はみんな家に閉じこもっている。


「奴らはなんと言っておるのだ?」


「はっ、光聚院猷秀(ゆうしゅう)様、赤松刑部大輔様、山門奉行飯尾為種様三人の処分を要求するとのこと」


どうやら猷秀が俺に祝いの品を届けるために延暦寺の修繕費を横領し、赤松刑部大輔満政と山門奉行の飯尾為種が賄賂を受け取ることでそれを黙認したらしいな。て言うか俺は横領して得た金で買った品なんていらないぞ。坊主のくせに欲深い奴だな。これじゃあ延暦寺のクソ坊主どもと変わらないじゃないか。これを機に人事を少し変えるか。


叡山は猷秀の斬首と他二人の遠流を要求している。当然だが俺は受け入れたくない。舐められるからな。一度要求が通ると図に乗ってまたやりそうだし。宿老と話し合って決めるか。


「宿老達を呼べ。評定にて決める」


「はっ」





1432年(永享三年) 三宝院満済

上様は叡山への対応のために、宿老達を呼んで協議することに決めた。


「では、評定を始める。山法師どもへどう対応するのがいい良いか、各々忌避なく述べよ」


「はっ、ですが上様はどうなさるおつもりなのでしょう」


「此度奴らの要求に屈せば、奴らは増長して何度でも強訴するだろう。ここで奴らを叩き、どちらが上か知らしめてやらねばならん」


宿老達がお互いを見る。どうやら賛成ではないらしいの。


「ですが上様、叡山は昔から鎮護国家としての役割を果たして来たのです。これを討てば人心が離れてしまいますぞ」


新しく管領となった細川右京大夫持之殿が言う。反対は予想していたのだろう、上様は特に気にすることもなく右京大夫殿に問いかける。


「確かに右京大夫の申す通り、叡山は今まで鎮護国家としての役割を果たしできたのだろう。だが今の叡山を見て本当にその役割を果たしていると言えるか?」


「そ、それは……」


右京大夫殿が口ごもった。まあ今の叡山は酷いからの。(まいない)にふけり、女を抱く。そして気に入らないことが無ければ神輿を担いで強訴じゃ。


だが右京大夫殿の言わんとすることも理解できる。もし叡山を攻めれば、それを民衆はどう思うか。仏を恐れぬ上様に恐怖するであろう。


「まあ上様、ここは一旦矛を収めましょうぞ。京が混乱していれば鎌倉殿に付け入る隙を与えかねませぬ」


「むぅ、そうか…相分かった。では此度は妥協しよう。だが言っておくが奴らはこれから何度も強訴するであろう。余はそれにいつまでも屈するつもりはない」


もしかしたら上様は本当に叡山を攻めるかもしれん。彼らが強訴をやめるとは思えんからの。


「では訴えられた三人はそれぞれ配流する。さすがに斬首はやりすぎと思うのでな。これで文句は無いか」


「はっ」


これで叡山が納得してくれれば良いのだが……。

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