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義教の野望  作者: ペロリん千代
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貨幣

1436年(宝暦三年)足利義教


「よくやったぞ。大膳大夫、左衛門佐」


「はっ」


今、俺は戦勝報告を聞いている。大和と九州で幕府軍は大きな成果を上げた。大和では越智、箸尾を大和南部の山岳地帯まで敗走させた。完全には討ち滅ぼせていないが、勢力を巻き返されることはしばらく考えないでいいだろう。


九州では大内、赤松連合軍が大友、菊池を完全に打ち破った。まあこの二人は幕府の中で最も戦がうまいからな。上手くやってくれると思っていたよ。大友は降伏し、菊池は肥後まで引いて徹底抗戦の構えを見せてはいるが、大した規模ではない。


「それと修理大夫、左衛門督もだ。修理大夫は筑前の守護に任命しよう」


「はっ、ありがたき幸せ」


さて、他の奴には何を褒美にくれてやろうか。いずれも大身だからな。大内みたく京から離れていれば良いのだが。迷うなあ。山名から奪った安芸と石見、これならあげられるんだがな。まあプレゼントしておくか。


「大膳大夫は安芸守護に任命しよう。左衛門督と左衛門佐には後で褒美を与える。土地はないから現物でだ」


「現物……で御座いますか」


二人がキョトンとしている。

俺が考えたのは秀吉が作った天正大判だ。これは市内に流通させるというより褒美や蓄財の際に使われた物だ。当然だが、市内にも流通させる。尤も、俺が作ろうとしているのは金貨ではなく銀貨だが。金山はほとんどが東日本にあるからな。関東勢力を潰さないと掘れない。


「銀貨を作ろうかと思っておってな、それをいくらか恩賞としてくれてやろう」


「銀貨?」


二人は首を傾げている。金貨や茶器を以って恩賞としようとしたのは信玄、信長、秀吉達だろう。信玄は甲州金だな。土地の代わりに価値ある物を、こんな考えはこの時代には無いからな。今までの働きに報いないのもどうかと思ったのだが納得してくれるだろうか。


「不満か?」


「……いえ、某は銀貨でも構いませぬ」


そういったのは左衛門督こと畠山持国だ。あんまり悩まなかったな。一体如何いうことだろう。


「何故だ?」


「あまり土地を貰いすぎるとかつての山名と同じ道を歩みそうなので」


「………」


けっこうストレートに言われた。明徳の乱の事だな。俺って舐められているのだろうか。ほら、空気が固まっているぞ。持国、気づいてないのかな。意外とKYなところもあるのかもしれない。


「まあいい。左衛門佐はどうだ?」


「では某もそれで構いませぬ」


「では決定だな。用途は好きにすれば良い。恩賞として家臣にやるのも良し、蓄財するのも良し。そなたらに任せるぞ」


「はっ」


そういえば銭貨も作った方がいいかもしれない。材質は銅でだ。南蛮吹きを使って無駄なく使わないといけないな。


今の日本では平安時代の貨幣である本朝十二銭や宋銭なんかが主に使われている。慢性的な銭不足に陥っているんだ。明との貿易が終わってしまえば銭不足は悪化するだろう。今のうちにどうにかしておこう。


銅山といえば足尾銅山や別子銅山なんかが有名だろう。あとは知らん。さてさて、探させてみるかね。





「銅山……で御座いますか」


「そうだ。呪い師から聞いてな、ここに書いてある場所に銅山が有るらしいのだ」


「な、成る程」


紀三郎が平伏する。こいつ、信じてないな。まあ信じるなんて無理か。呪い師なんて誰だと言われれば答えようがない。なんせそんな奴はいないんだから。それと銅山だが、足尾銅山は関東だから別子銅山を見つけさせる。


「伊予国で御座いますか」


「そうだ。さっさと見つけてこい」


「はっ」


どれくらい採掘出来るんだろう。需要を満たすことができればいいんだけどな。


最近は山城周辺の土民も次第に豊かになっている。俺のせいなんだが、これのせいで土民も銭を稼ぐことができるようになった。まあ全国に広まれば米の価格が落ちるだろうから、うなぎのぼりに需要が増えるわけではないだろうが。


金貨や銀貨を作るなら海外の相場も気にしなければならない。流出なんてまっぴらだからな。ヨーロッパの相場はわからんが明の相場なら調べられる。明からはむしろ金、銀を分捕ってやるくらいの気持ちでいよう。俵物を作らせてみようか。フカヒレやアワビ、明では重宝されるだろうからな。高級中華料理にぴったりだ。満漢全席なんてあるのだろうか。俺も食べてみたいな。




1436年(宝暦三年) 赤松満政


「では御前沙汰をはじめます」


「うむ」


義賢殿の声で御前沙汰が始まる。御所の一室に上様をはじめ、幕府護持僧の義賢殿、政所の伊勢氏、そして唐船奉行の飯尾氏、他には官途奉行など幕府の主要な役職を務める者達が揃っている。


「まずは明との貿易だな、大和守」


「はっ、先年の貿易での収入は六千貫程となっております」


唐船奉行の飯尾大和守貞連殿が上様に返答する。前回より増えておるようだ。如何いう事であろうか。


「確か前回は四千貫ほどではありませんでしたか」


「こちらから送った澄み酒や椎茸、石鹸が大量に売れたそうだ。これ等には通常より多くの税を課している。収入が増えたのはそのせいであろうな」


私の疑問に上様が答える。成る程、それでか。上様がお伝えになったという三品目、随分と人気らしいの。最近はアワビやフカヒレなどをつくるよう指示なさっておる様だが、果たしてどのようなお考えがあるのだろうか。


「さて、次は貨幣についてだ」


「貨幣、に御座いますか」


食いついたのは政所の伊勢守殿だ。幕府の財政に携わる者として気になったのだろう。子の兵庫助殿も食い入るように上様を見つめている。兵庫助殿は確か歳は二十程だった筈。以前上様が見所があるとお褒めになっていたな。


「そうだ。近年は銭不足に陥っている。銭が無ければ流通も滞るだろう。物が回らねば民の生活は向上しない」


「成る程。銅銭をお造りになるのですかな」


「そうだ、あとは銀貨だな。銅銭の上位として使うつもりだ。金貨は鉱山が発見され次第作る予定だな」


「ほう」


伊勢守殿は感心したように頷いている。


「ですが大丈夫ですかな。民が豊かになるということは、領主、ひいては守護達が豊かになるのと同義であると思うのですが。あまり守護達の力が強くなりすぎると幕府を滅ぼそうとするかもしれませぬ」


ここで兵庫助殿が口を挟む。成る程、その考えには至らなかった。上様も興味深げに兵庫助殿を見ている。


「確かに、その方の言うことも尤もだ。だがな、為政者たるものは常に民の生活をよくすることを宗とせねばならぬ。それに、それをしなかったとしても幕府もいつかは滅びるであろうよ」


「なっ」


皆が声をあげて驚いている。一体如何いうことだ?上様がそんなことを仰るなど。


「それは如何いうことですかな。幕府が滅びるなどとても考えられませぬ」


山門奉行である飯尾加賀守為種殿が声を震わせて言う。


「どう言うことも何も、加賀守よ、鎌倉幕府も滅びたのだぞ。諸行無常、盛者必衰。この世に永遠などありはせぬ。幕府が滅びることを止めることなどできはせぬ」


上様の言葉に部屋がシンと静まり返る。確かに鎌倉幕府は滅びた。元からの襲来での対応などで武士の信用を失ったのだ。故に尊氏公や義貞公をはじめとした諸将に離反された。


「だがな、それを遅らせることは出来る。余も幕府には滅んで欲しくはない。幕府をより長く保つためにそなた等の力が必要なのだ。力を貸せ」


「はっ」


上様の言葉に全員が唱和する。上様に頼られて嫌な気はせぬ。私も上様の、幕府のためにより一層尽くすとしよう。


あの後、上様は新しく勘定奉行という役職をつくることをきめ、伊勢兵庫助殿を奉行に任命した。兵庫助殿は父の伊勢守殿のあとを継ぐのではと思ったが、どうやらこの人事は一時的なものらしい。兵庫助殿に色んな経験をさせてやりたいという上様の親心なのだろうか。

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