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義教の野望  作者: ペロリん千代
25/33

宝暦の大乱

通信速度制限が………

遅くなってしまい申し訳ありません

1435年(宝暦二年) 足利義教


今年の初め、徳政令を出した。畿内の困窮した馬借達は三年以内の借金がチャラになった。だが貸した側は不満だろうな。馬借達には貸さなくなるだろう。そして結局はまた困窮することになる。その場凌ぎとはいえ、あまり勧められん手だな。


叡山は目論見を潰されて怒り心頭だろう。対立していた幕府に財布の紐を握られているのだ。何とかしたいと思ったのはしょうがない。だが当然ながら俺は許さない。全てが片付いたらぶっ潰してやろう。



山名、一色が動いた。洛中にいた時熙を捕らえて幽閉したのが決定打となったようだ。そして山名達の挙兵と同時に鎌倉公方も動き出した。持氏が憲実を誅殺したのだ。


俺はすぐに憲実の子供である上杉龍忠を関東管領に任命した。龍忠はまだ幼子だったので後見人に憲実の弟である清方をつけた。まあ実質的な当主は清方だろうな。


清方は平井城に入ってすぐに持氏討伐を宣言、持氏と開戦した。だが分が悪いだろう。京都扶持衆以外の関東諸将は皆持氏に味方した。早く救援に向かわないと。


だがまずは山名達を潰さないとな。山名が動いたと報告を受けると、守護に兵を集めるように命令して、評定を開いた。





御所には京にいる守護のほとんどが集まっている。皆一言も喋らない。広間は静まりかえっている。御所の外には兵が集結している。


「山名が動いた。幕府を滅ぼし、自らが天下に覇を唱えようとしているのだろう。これを討ち、天下に安寧を齎さねばならぬ。手を貸せ」


『はっ』


全員が唱和する。おお、結構な迫力だな。


「では命令を下す。細川、赤松、六角、畠山は京に留まり、山名、一色を迎え撃て。余も出陣し、奉公衆を率いよう」


「はっ」


名前を呼ばれた者達が出て行く。


「そして斯波、土岐は三河を平定せよ」


「はっ」


広間から一人、また一人と出て行く。


「最後に富樫、能登畠山は丹後、但馬を攻め、奴らの背後を脅かせよ」


「はっ」


最後に二人が出て行くと、広間には守護達がいなくなった。





「どうなりますかな」


横に座っている満済が呟く。顔色がかなり悪い。御所に来る必要は無いと言ったのだがな、頑として譲らなかった。満済ももう長くないだろう。かなり無茶をしてここへ来ているのだと見て取れる。


「これで終わりにせねばならぬ」


「左様ですな」




「…………心残りはないか、門跡どの」


ふと思ったことを口に出してみる。


「今の上様ならば、心残りなど有ろう筈も御座いませぬ。安心して逝けましょう」


満済が目を瞑り、しみじみと呟く。ああ、生きている者は皆死ぬものな。満済とて例外ではない。


「……左様か」


自分でも驚くほど小さな声だった。思えば満済にはいつも励ましてもらっていたな。相談にのってもらった事も数えきれない程だ。守護達が信用できない中で、唯一心を許せる存在だった。



「……なあ、門跡どの。もし()が私で無かったらどうする?」


俺の問いに満済は目を見開く。だがすぐに微笑んで言った。


「上様は上様で御座いますよ。たとえあなたが誰であれ拙僧にとっては変わりませぬ」


そうか、そう言ってくれるか。


「では洛中にて戦勝の知らせを待っておけ」


「はい」


俺はそう言って席を立つ。鎧、本当は着たくないんだけどな。今回の戦は幕府の命運をかけている。大将である俺が出ない訳にはいかない。必ずや討ち滅ぼしてやる。そしてこの国を治める者として平和を齎さねばならない。





部屋を出る。廊下を歩いていると前に人影が見える。誰だろうかと思ってよく見ると、どうやら三条実雅、尹子、竹千代の三人だった。


「如何したのだ」


「竹千代が室町殿に会いたいと申しての」


竹千代が?どうしたものかと思ってまじまじと見てしまった。竹千代は泣きそうな顔をしている。


「ちちうえ」


「如何した、竹千代」


「しんではだめじゃ」


竹千代の言葉に思わず微笑んでしまう。可愛いものだ。大切にしなければと思う。


「安心せい、必ずや戻って来よう」


そう言ってやると竹千代はようやく笑ってこちらに手を伸ばしてきた。抱っこして欲しいのだろうか。


「ほほ、竹千代は甘えん坊じゃのう」


実雅が嬉しそうに見ている。子供というのは見ている人を笑顔にするものだからな。


竹千代を抱っこしてやる。最近は忙しくてあまり三条邸には行けなかったからな。随分久しぶりな気がする。竹千代は前よりもずっと重くなっている。子供の成長は早いものだ。


竹千代を降ろした後、尹子が此方を見て言った。


「必ず帰ってきて下さい」


俺には帰る場所がある。心からそう思える。


「心配するな」


短く言って、その場を過ぎていく。





「上様」


この声は紀三郎だな。話しかけられるまで全く分からなかったぞ。


「如何した」


「義昭様が」


「逃げたか」


「はい」


なるほどな。監視させていた刑部大輔は戦の準備をしている。そこをついたのだろう。何者かが手引きしたに違いない。


「義昭はどこへ逃げたか」


「調べております。直ぐに見つかるかと」


「調べて連れてこい」


「はっ」


紀三郎が再び消えていく。忍びというのは便利なものだ。



鎧に着替える。この重さには慣れないな。もしかすると持氏との戦でもう一度は着るかもしれない。山名持豊、武家の棟梁としての力を見せてやる。さあ、戦だ。

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