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義教の野望  作者: ペロリん千代
23/33

大誤算

1434年(宝暦元年) 足利義教


とんでもないことが起こった。山名持熙と山名持豊が戦をして、持熙が大敗したのだ。持熙は討死、そして持豊が家督を継承した。


事の次第はこうだ。

持熙は俺が守護に任命した後、領国に戻って味方を募った。持熙は幕府が認めた、いわば正統な後継者だ。国人衆の多くは持熙につき、更には山名一族の中では石見守護の山名教清が味方についた。


それに対して持豊には因幡守護の山名熙高、伯耆守護の山名氏之が味方し、但馬国で挙兵。つまり、安芸、備後、石見から兵を集めた持熙と因幡、伯耆、但馬から兵を集めた持豊が激突したのだ。


山名は真っ二つに割れた。だが、山陽と山陰を比べると持熙方の山陽の方がずっと豊かな土地だ。それに持豊方の山陰にも持熙に味方した国人がいた。故に兵力では持熙の方がずっと有利だったのだ。


持熙は教清と共に進撃し、因幡、伯耆をあっという間に抑えた。そして持豊は但馬国まで後退して行った。持熙の勝利は揺るぎないものだと思われた、事実俺もそう思っていた。だが、持豊はこの時代きってのチート武将だった。


持豊は山名氏の居城である此隅山城に篭った。この城は山一つを丸々城郭にした巨大な城なのだが、非常に堅牢というわけではない。だがその巨大さ故に囲むには多くの兵が必要であり、全体を囲ってしまうとどうしても包囲が薄くなる。そして持豊はこの城で頑強に抵抗した。


そして持熙の軍勢には致命的な弱点があった。持熙が兵を集めた安芸国だが、応永年間にも安芸国人は山名氏に対して一揆を仕掛けているように、山名氏の支配が弱かった。但馬という安芸から遠く離れた地への遠征、そして持豊の抵抗の予想外の激しさに安芸国人を中心に厭戦気分が高まったのだ。


そして厭戦気分は軍全体に広がり、山名持豊はそこに目をつけた。夜襲を仕掛けたのだ。その結果持熙が上述した通り討死、軍勢は呆気なく崩壊した。


領国に逃げ帰った教清は持豊に降伏、しかし持豊はそれを許さなかった。石見へ攻め込む姿勢を見せたのだ。持豊を恐れた教清は石見を逐電して、京へと逃げ込んできた。今は幕府が保護している。


安芸国人は領地に戻ってからも、領地を奪われるのを警戒して一揆の構えを見せた。それに対して持豊は降伏すれば領地は安堵すると言い、安芸国人はそれを受け入れて臣従した。そうして持豊は領国を完全に支配したのだ。


現在持豊は但馬国にいる。一度京へと来るように言ってみたのだが、無視された。まあ当然だわな。持豊にとって俺は敵の支援者なのだ。暗殺を警戒しているのかもしれないな。


そして更にまずいことが起こった。侍所頭人である一色義貫が領国の丹後へと連絡も無しに戻って行ったのだ。戦の準備をしているようだ。反逆しようとしているのだろう。但馬と丹後は隣に位置している。連携しやすいのだろうな。


失策だったな。持豊がここまで強いとは思わなかった。ここは大評定を開こう。宿老達も幕府が崩壊するのは望んでいない筈だ。兵は出せるだろう。


はあ、碌なニュースがないな。最近で唯一良かった事といえば遣明船が帰ってきた事ぐらいだろうか。抽分銭という名の臨時収入が4000貫程入ってきた。……ひと段落ついたら御所を改築しよう。ポジティブに考えてないとやってられん。





1434年(宝暦元年) 三宝院満済


上様が大評定をお開きになった。私の所にも大評定に参加するよう通達があった。少し気になったのは次期三宝院門跡と目されている義賢を連れて来るよう言われたことだ。相談役として起用するおつもりなのであろうか。



「皆、集まったな」


上様がそう言って大評定を始める。上様から見て右手には細川右京大夫殿、畠山左衛門督殿、斯波左兵衛督殿、赤松大膳大夫殿、京極治部大輔殿ら守護大名が控えている。そして左手には赤松刑部大輔殿ら側近と公家衆が控えている。上様の与党であろう。一色左京大夫殿はおらぬか。


「では大評定を始める。門跡どの、進行を頼む」


「はっ」


私は上様の近くに座って進行役を務める。義賢は後ろで畏まっている。緊張するのだろう。上様の眼光は鋭く、それだけで人を殺せそうだからの。


「まずは山名への対応ですかな」


「うむ。右京大夫、左衛門督、左兵衛督、何か言いたい事はあるか」


「はっ。某は山名弾正少弼殿を懐柔すべきかと存じます」


右京大夫殿がまず述べる。他の二人に意見を促すと、


「右京大夫殿に同じ」


「某も同意致す。付け加えるならば、守護職も送って

おくべきかと」


左兵衛督殿、左衛門督殿も同意か。上様は如何であろうか。


「……そうするしかない、か」


上様は短く呟く。此度の事は上様の失態、強くは出られぬのだろう。何とも言えぬの。


「ではそのようにしよう。山名右衛門督からも書状にて促すように伝えておく」


上様の言葉に三人が満足そうに呟く。此度の事は上様の失態であると同時に彼等にとっては発言力を高める良い機会となるからの。裏では争っておるのかもしれぬ。



「では次は一色修理大夫殿について進めますぞ」


「一色が裏切ったのはもはや疑いようも無い。これを討ち、幕府の力を見せつけるのだ」


まず最初に述べたのは赤松刑部大輔殿。刑部大輔殿がそう言ったという事は上様も同様に考えておるのだろう。


「いや、刑部大輔殿、修理大夫殿が裏切ったと言い切るのは早計ではありませぬか」


ここで左衛門督殿が反論する。


「では何を以って裏切っていないと申すのか!」


「修理大夫殿の領国である丹後は弾正少弼殿の領国である但馬の隣、戦の準備をするのも無理はないかと」


「では何故修理大夫殿は通達も無しに帰ったのだ?修理大夫殿は侍所の頭人ぞ。これは職務放棄に他ならぬわ!」


「急いでおったのであろう」


議論が激化する。他の守護達は皆無言だ。上様も目を瞑り黙っている。


「お二人とも、上様の御前ですぞ。控えなされ」


私が窘めると二人はきまりが悪そうに黙った。刑部大輔殿が声を荒らげるとは珍しいの。


「……出来れば洛中で戦は起こしてもらいたくは無いの」


一条殿下が呟く。武力を持たない公家達の偽らざる本心であろうな。上様は一条殿下を一瞥して決定を下す。


「左衛門督の申す通り、修理大夫が裏切っているのかいないのか、それはまだ判断できぬ。使者を送り、無断で領国に戻った事を詰問するという事で良いか、左衛門督」


「…は、はっ」


まさか上様があっさり左衛門督殿の意見を採用するとは思っていなかったのであろう。左衛門督殿が驚いている。


「だが念のため戦の準備はしておけ、もしあちらから仕掛けてきた場合は素早く対応せねばならぬ」


上様が締めくくり、一色への対応が決定する。珍しいの、上様がここまで妥協するとは。それだけ責任を感じておるのか、はたまた別の思惑が有るのであろうか………。




1434年(宝暦元年) 足利義教


大評定の後、満済、義賢を自室に呼んだ。少し話し合いたいことがあるのだ。


「お待たせ致しました、上様」


「うむ、よく来た」


満済が腰を下ろす。続いて義賢も満済の後ろに座る。この義賢という男は次期三宝院門跡となる男だ。そして義満の弟、足利満詮の子供でもある。つまり俺の従兄弟なのだ。


「して、話し合いたいこととは如何なることで?」


「先程の評定で少し気になることがあってな」


「気になること、でございますか」


「畠山左衛門督のことだ。奴はおそらく内通している」


「………っ。何故そう思ったのです」


満済が驚いている。


「修理大夫の裏切り、あれを庇っただろう。修理大夫は誰がどう見ても裏切っている。左衛門督も修理大夫が余に対して不満をこぼしていた事は知っておるはずなのだ。それを庇うという事はすなわち奴もまた山名に与している可能性が高い、という事だ。まあ、それを決めつけるのは早計ではあるがな」


「……成る程。確かに一理ありますな」


満済が頷く。もっとも本心では信じたくないのだろうな。身内に裏切り者がいるというのは情に厚い満済にはこたえるのだろう。


「先の上杉禅秀の乱の時にも守護どもは謀叛を企てていた。右京大夫と左兵衛督も到底信用は出来ぬ」


「では如何なさるのです」


「山名、一色は潰すしかあるまい。あれらが敵対するのは確実だろう。山名弾正少弼は狐狼のような男、此方が隙を見せれば襲いかかって来ような。この二人を討てば左衛門督も大人しく従うだろう」


これには自信がある。隙を見せれば山名は必ず攻めてくる。下手したら死ぬかもしれん。奉公衆の力を信じるしかないな。考えてみれば初めて奉公衆の力を披露する機会が俺の生死が掛かっている時というわけだ、最悪だな。


奉公衆はかなり強化できたと思う。既に一万以上を動員できるようになったからな。叡山から奪った荘園をくれてやったのが功を奏したようだ。持豊に通用すれば良いのだが……。


「戦は避けられませぬか」


「そうだな、持氏も動いているという。一つ一つ潰していくしかない。奴等はおそらく南朝の皇統を担ぐであろう。あるいは余の弟という可能性もある」


「鎌倉殿が蠢動していると?」


「上杉安房守から使者が来た。挙兵したくて仕方がないようだ。今は安房守が抑えておるようだがな、限界があろう。奴にとってこれは降って湧いたような好機だ。これを見逃すとは思えぬ」


「………敵が多いですな」


「山名、一色さえ下せば後は一捻りよ。関東管領は此方に味方すると言っておる。持氏らを殺さぬと言ったのが功を奏したと見える」


「左様ですか……」


「そう心配そうな顔をするな。今回は敵をあぶり出す良い機会だ。評定で内通の可能性を把握できたのは良かった」


「では刑部大輔殿のあれは演技だったのですかな」


「そういう事だ」


満済が感心したように頷いた。実際不安だけど表情に出す訳にはいかん。なんとかしないとな……。最悪京を一旦放棄せねばならんかもしれんな。逃げる先は近江か摂津あたりか。一応考えておこう。


「それと義賢よ、そなたは門跡どののあとを継いで幕府に尽くして貰いたい。今は門跡どのに政のいろはを学んでおけ」


「……はっ」


随分他人行儀だな、少し悲しいぞ。俺の顔に緊張しているのかな。


「そなたは従兄弟なのだ、そう畏まらずともよい」


「はっ」


……まぁゆっくり慣れて貰えれば良いか。

北の山名、一色

南の越智、箸尾、(畠山)

東の持氏

西の大友、菊池、少弐

……これ詰んだんじゃね?

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