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義教の野望  作者: ペロリん千代
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閑話 紀三郎の苦難3

1433年(永享四年)和田紀三郎

私が村に来て数ヶ月がたった。最早この村の住人と言っても良いほどに仲が良くなっている。上様から千歯こきという脱穀用の道具も頂いた。これで早く済むらしい。



以前は小さな苗に過ぎなかったのに、稲は黄金色になり、頭を垂れている。穂には多くの米が付いていて、その量は他の田んぼのそれと比べて明らかに多い。まさかここ迄とは………。



今日は稲刈りの日だ。村の衆は総出でお互い助け合い、稲を刈っていく。手慣れたものであっという間に稲が積み上げられていく。



そして最後に残ったのは実験用の田んぼだ。多くの米が取れるのは一目瞭然、皆が目を輝かせながら待っている。


ーーこのやり方ならもう村は飢え無くて済むーー


そんな考えが頭を占めているのだろう。無理もない、飢えるかどうかは彼等にとっては最も重要な事なのだ。それを見る私の頰も自然と緩む。



「さあ、では始めよう」


「「「おう!」」」


男衆が唱和する。ふふ、この意気ならばあっという間に終わりそうだな。


皆が稲を刈っていき、山のように積まれていく。普通にしたよりも倍はあるな。積まれた稲は女衆によって干されていく。

……………

………






どれくらい経ったかはわからないがようやく終わった。皆が流れる汗を拭いている。いい気分だ。ずっとこの余韻に浸っていたいと思うぐらいに。



その日の晩は宴会だった。皆が笑顔で、今までで一番良かったと思う。





稲を乾燥させた後は脱穀をした。新しい道具は素直に受け入れられた。今まで時間がかかっていたのがあっという間に終わっていく。



そして脱穀も終わり、私が命じられた仕事が全て終了した。あとは京に帰り、報告するだけだ。あと、皆に褒美の件を伝えねばな。


「して褒美についてだが、三年間年貢を免除するとの事だ」


村の衆から歓声が聞こえる。今回の収穫と合わせればしばらく裕福な暮らしが出来る、それを噛み締めているのだろう。


「そして上様はそなた等にやって貰いたいことがあると仰っていた」


「やって貰いたい事?」


大介が疑問を口にする。


「我等にできる事ならば何でも」


与作が大介の後ろから言う。村の衆もそれに頷く。皆が上様に感謝している。これ程までに感謝された将軍がいただろうか。本当に素晴らしい方だと思う。


「やって貰いたい事とは他でもない、近くの村にこの育て方を教えて欲しいのだ」


「お安い御用ですぞ、お任せ下され」


そこかしこで“そうだそうだ”と声がする。これなら任せても大丈夫だろう。


「ならば頼む。拙者はそろそろ帰らねばならぬのでな」


私の言葉に村の衆が落ち込む。


「なあ、本当に帰るのか。此処に居ても良いのだぞ」


大介が言う。嬉しい事だ、こんな事を言われたのは初めてだ。


「残念だが拙者は上様に仕えている。上様には大恩があるのだ」


「……そうか」


「またいつか会えるさ」


「そうか、そうだな」


大介は表情を少し明るくする。気休め程度にはなったか。


「ではな、大介」


「ああ、達者でな」


そう言って別れる。名残惜しいものだ。皆が手を振る。私も負けじと振り返す。思えば故郷を離れた私にとっては此処が故郷のようなものだった。





またいつか帰ろう、澄み酒を持って。


これで閑話は終わりです。

次から本編


あと、風邪を引いたので少し更新が遅くなります。どれくらいかかるかは分かりませんができ次第投稿します。

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