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義教の野望  作者: ペロリん千代
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だが断る

1428年 (応永35年)三宝院満済

ようやく次の将軍が決まった。まさか義持様がお決めにならないとは…。義持様はいくら御自身が後継を決めても重臣たちが賛成しなければ意味がないと仰っておった。言い分はわからなくはないがそれで幕府が混乱するのは避けてもらいたかったものじゃ。私は重臣たちに籤引きで決める事を提案し、それが受け入れられた。


候補者は4名。青蓮院義円(ぎえん)様、大覚寺義昭(ぎしょう)様、相国寺永隆(えいりゅう)様、樫井門跡義承(ぎしょう)様じゃった。そして籤引きの結果、義円様に決まった。受け入れて頂けるだろうか。近くにいる管領達も不安そうにしておる。例え受け入れて頂けても義円様は元服前に僧籍に入られた。反対する公家も多かろうよ。まだまだ苦労しそうじゃ。考えている間に青蓮院に着いた。義円様に面会の申し立てをして少し待つ。



「義円様ははたして受け入れて頂けるだろうか」


ふと管領、畠山左衛門督満家殿が呟いた。


「説得するのみじゃ。神の御意志と言えば納得してもらえるじゃろう」


「だと良いのだが…」


まぁそう簡単には不安は払拭できんか。この方は鹿苑院様に嫌われ、義持様に取り立てられたのだ。かなり苦労したのだろう。また嫌われるのではと不安になっている可能性もある。ここは私がなんとかしよう。


「心配なされるな。いざとなれば拙僧が説得しましょうぞ」


「ありがたい、さすがは満済殿だ」


まぁこんなもんかの。おっと、義円様がいらっしゃったようじゃ。さて、どうなることやら…。





1428年 (応永35年)義円

俺を待つ連中の前に来た。あの坊主の話を聞くにどうやら三宝院満済、管領の畠山満家といった面々が来ているようだ。かなりのVIP待遇だ。今までこんなことなかったから緊張するな。穏やかに行きたいものだ。軽く自己紹介してこちらから切り出す。


「ふむ、では今一度要件をお聞かせ願おうか」


会話の主導権を握られないようにしないと。なんせ向こうにはあの三宝院満済がいるのだ。黒衣の宰相、まるで大原雪斎みたいだな。中々かっこいい二つ名だ。


そう思えば俺の史実での二つ名ってろくなのがないな。まあいい、満済はすぐ目の前の僧だろうな。穏やかそうだが叡智に溢れた感じだ。どうにもこちらを見て緊張しているようだ。やはり俺の顔が原因だろうか。


「はっ、では。石清水八幡宮での籤引きの結果、義円様が選ばれましたのでお願いにまいった次第で」


「ふむ、神託というわけか。これならば他の兄弟も文句は言えんな。上手い手を考えたものだ。これを考えたのは誰だ?」


「はっ、拙僧にございます」


「ほう、大したものだ」


「ありがたき幸せ」


満済が少し息を吐いた。気を抜くのはまだ早いぞ。ここらで意地悪な質問をしてやろう。


「鎌倉公方という選択肢はなかったのか?」


「いえ、それは…」


「言う必要はない、大体予想できる。すまぬな、少し意地悪だったか」


「いえ、そんなことはありませぬ」


鎌倉公方足利持氏、史実では6代将軍の地位を欲し、自身を差し置いて就任した義教と対立、永享の乱を起こして最後は義教に殺された人物だ。まあ馬鹿なんだろう。時の関東管領上杉憲実の苦労が思いやられるよ。


なぜ持氏が将軍になれなかったかというと、幕閣達がそれを認めなかったからだろう。もし持氏が将軍になってしまえば関東から持氏の寵臣達に自分達のポストが奪われると思ったのではないか。だから公然と無視した。


まあ今回でも反乱を起こすだろう。馬鹿そうだし利用し尽くしてやろう。クックック。おっといけない。笑いが出てしまった。なんか目の前にいる奴らが蒼白になっている。誰だ、彼らにこんな表情をさせたのは。俺か?まあいい、続けよう。


「まあ、寺での生活にも飽きていたところだ。折角この世に生を授かったのだから俗世を見たいという気持ちもある」


「では、我らの要請を受け入れてくださるので?」


お、少し期待した表情になったな。だが甘い。


「だが断る」


「……」


面々が絶句している。なんか快感だわー。この感情。目の前の奴らにはわからんだろうな。


「な、なぜなのです?」


お、畠山満家が喋りだしたな。この人は苦労人っぽいんだよな。管領、かっこいい響きだけど中間管理職だ。苦労も多そうだ。俺なら絶対にごめんだな。


「なぜと言われてもだな、左衛門督。別に将軍が嫌というわけではないのだ。ただ、我が兄の苦労を考えただけだ。兄は生前、お前達と協調して政務にあたっていたが、その気苦労も父上と比べて多かったのではないかな。折角俗世に戻れても苦労ばかりなのはごめんだ」


「そうは言われましても、これは神託ですぞ、義円様」


今度は満済か。来ると思っていたよ、その言い分。だが神託なんてわけわからんもので俺を縛られると思うなよ。


「ほう、ではお前達にとって重要なのは神の御意志であって私の意志ではないと。舐められたものだ」


「そうではありませぬ。では義円様は神に背かれると?」


満済が凄んでくる。流石だ、全然怯まない。でも残念だな。俺は現代人、神なんて怖くない。


「生憎私は仏に仕える身なのでな。そんなのは知らん」


初めて満済が狼狽した。まさか俺が神なんて知らんなどと言うとは思わなかったに違いない。


「では、どうすれば受け入れてくださるので?」


すぐに持ち直すか。だがその言葉を待っていたんだ。


「条件は一つだ。守護達が私に二心なく仕え、幕府を盛り立てていくという旨の誓紙を出せ」


「誓紙でございますか…」


満家が迷っている。後ろの面々を見つめるが全員顔色は芳しくない。まあ当然か。駄目押ししておこう、俺の特上の笑顔付きでだ。


「まさか反乱をしようと思っているのか?左衛門督」


「ひっ、い、いえ…」


「ならば問題あるまい」


「は、ははっ」


これでいい。どうやら俺は笑ったら怖さが増すようだな。恐怖倍増だ。これじゃあいつまでたっても暗殺フラグが消えないじゃないか。はあ。


「では守護は誓紙をだし、義円様は次の将軍になっていただくということでよろしいですかな?」


「ああ、それで構わん。だか満済よ、守護が誓紙を出してからだぞ、就任は」


「はい、それで構いませぬ」


ふう、なんとかなったな。これは上杉謙信のパクリだ。謙信は越後を支配していたが、一度出家して高野山に行こうとしたのだ。結局家臣が追いかけてきて、事なきを得たのだが、この時謙信は家臣に誓紙を出させたのだ。今回はこれを参考にした。これで少しはマシになるだろう。

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