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義教の野望  作者: ペロリん千代
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身分

本来ならあり得ない流れですが、後で色々必要な人物なのでここらで登場させました。


因みに本文中の『刑部少輔』は山名持熙の事であり、『讃岐守』は細川持常の事です。

1432年(永享三年) 和田紀三郎

私は甲賀の出であり、かつては忍びとして鍛えられてきた。ずっと忍びとして生きていくのだと思っていたが、そうはならなかった。


私は実家と折り合いがつかず、出奔したのだ。そのまま京までやって来たはいいが、当然だが行くあてもなく、路頭に迷うしか無かった。


洛中で私は必死に生きた。実家に居た時より暮らしはずっと悪かったが、実家には意地でも帰らなかった。


そんな私にある日転機が訪れた。その日は何となく洛中を歩き回っていた。そこである華やかな集団を見かけたのだ。その集団の中心には時の将軍、足利義教様。


洛中での公方様の評判はかなり良い。何と言っても数年前、大きな一揆が起こった時、洛中への被害をほぼ抑えられたのだ。お陰で洛中の平和は保たれた。それ故京の住人は公方様に感謝している。


そんな公方様を見ながらふと思う。私もあのようなお方に仕えられたらなあ、と。


「失礼申し上げる!拙者は和田紀三郎と申す者。公方様に御仕えしたく馳せ参じ申した!」

気がつけば私はその集団に向かって声をあげていた。周囲の人々は驚き、此方を見てくる。


そして公方様に相伴していた方々のうちの一人が腰の刀に手をやって問いかけてきた。

「貴様、何者だ!公方様に無礼を働いておいて生きていられると思うな!」

なぜ私はこんな事をしてしまったのだろう。咄嗟のことで頭が回らず、慌てて低頭する。

「も、申し訳御座いませぬ!さ、されど……」

「言い訳無用!今すぐ叩き斬ってくれる!」

終わった、そう思った。私は死ぬのだ。ええい、こうなったらヤケだ。覚悟を決める。

「今一度申しあげます!拙者、公方様に御仕えしたく存じます!」

「減らず口を!」

その侍は刀を抜き、私に斬りかかってきた。私は思わず目を瞑った。だがその刀が私に触れる事は無かった。


「止めよ」


その一声だった。その一声が私の運命を変えたのだ。

「上様、されどこの下臈は…」

「止めよ、と言った。刑部少輔、そなたは余の決定に異を唱えるのか?」

「い、いえ」

そう言って刑部少輔と呼ばれた男は後ろに下がっていった。そして代わりに出てきたのが公方様。

「直答を許す。貴様は和田紀三郎と言ったな。和田と言うのは甲賀の和田か?」

「はつ、左様に御座います」

「何故余に仕えようと思ったのだ?」

「公方様には先の土一揆の際に洛中を守って頂き、感謝しておったので御座います。それに拙者は仕える主を探しておりまして、そこへ偶然公方様の列を見かけましたので、つい……」

私の言葉に公方様は大笑いした。どうして笑ったのかわからず、呆然としていると公方様が言った。

「わははは!わざわざ余に仕えるために命をかけるか!面白き奴よな、貴様は」

どう答えれば良いのかと考えていると

「よかろう、走衆の一人として召し抱えよう」

と仰った。

「なっ」

私だけでは無い。周りの人全てが驚いている。

「上様!流石にこのような身分の低い者などを召し抱え無くとも良いではありませぬか」

刑部少輔と呼ばれていた男が真っ向から反対する。無理もない、公方様が自身に無礼を働いた者を召し抱えようと言うのだ。

「間者という可能性も有りますぞ」

また別の男が苦言を呈する。

「このような頼み方をする間者などおらぬわ。刑部少輔と讃岐守も気にし過ぎよ」

公方様はそんなことを気にもなさっていないようだ。そう言われては二人も口を紡ぐしかない。そんな二人を見やった後で公方様は此方を見て言う。

「では決まりだな。紀三郎、屋敷へ行くぞ」

「は、ははっ」

まさか召し抱えてもらえるとは……夢だろうか?頰をつねる。痛いな、どうやら夢では無いらしい。

「何をしている。早く来い。貴様はそのような薄汚い格好で余に仕えるつもりか?」

慌てて公方様、いや、上様の元へ向かう。

「うむ、では屋敷に帰るぞ」

上様の言葉に周りの人々が、私を横目に見ながら、上様に追従する。少しきまりが悪いな。刑部少輔様など私を睨みつけている。

「如何している、刑部少輔よ。そなたには大きな野望が有るのだろう。このような小さい事などいちいち気にするな」

「……はっ」

私はそんな上様を口を開けて見ていた。身分には拘らない方なのだろうか。

今もまだ夢を見ている気分だ。だが夢であれ上様に仕えた以上は精一杯支えねば……。



1432年(永享三年) 足利義教

少し前、俺は変な男を召し抱えた。名前は和田紀三郎、甲賀の里にいたらしいな。和田といえば和田惟政が有名だろう。忍びというものに興味があったし、何より将軍である俺に向かって召し抱えてくれと言えるその度胸が気に入ったのだ。


俺は今まで一般市民として生きてきた。国民は皆平等であり、身分など存在しなかった。だが此方の世界では当然だが身分がある。


いきなり周りの人間に跪かれるようになったのだ。今でこそ慣れたが、昔は困惑したな。それを表情に出さないので精一杯だった。だからこそ無礼を働いた紀三郎に強い興味が湧いたのだ。


周りの人間はやめとけとか言ってたけど俺は頑として譲らなかった。渋々諦めてくれたがこんなに我儘を通したのは初めてだったな。


さて、紀三郎の使い道だが、こいつは今まで洛中の一般市民として生きてきた。それゆえ、武士でありながら身分にあまり拘らない節がある。なのでこれを活かして農業チートをやって貰おうかと考えている。こいつなら農民相手でも誠意を持ってやってくれるだろう。


俺は将軍ということもあって、周りの人間の身分が皆高いのだ。近習は守護の次男とか三男とか。こんな奴らに農業チートなんてやってもらえるわけが無い。そういう意味では紀三郎は非常に便利だ。まさに痒いところに手が届く感じだな。





「さて、紀三郎、お主に少しやって貰いたい事がある」

「はっ、何でございましょうか」

「我が国の農業を変えようと思ってな。この紙に書かれていることを試して貰いたい。実験として使う村は後日伝える」

「はあ」

困惑しているな。無理もない。面白いからと言われて召し抱えられたと思ったら急に農業をやれと言われる。誰だってこうなるわな。

「……ですが拙者は新参で御座います」

「そうだな、だからお主がどれくらいできるか此処で知っておこうと思ってな。やってくれるか?」

当然ながら選択肢は「YES」か「はい」の二つだけだ、拒否権はない。

別に失敗してもいいのだ。情報が漏れても問題ない。どうせいつか広めることだし、ゆっくりやって行くつもりだからな。

「ではなぜ拙者に?」

「この任務は余からしばらく離れて農村でやる、というものだ。妙に誇り高き武士達には任せられぬ」

「……承知しました。ではこの紀三郎、上様に召し抱えて頂いた恩に報いるべく、必ずや良き結果をもたらしましょう」

「うむ、必要なものはなんでも言うが良い。楽しみに待っておるぞ」

「はっ」

そう言って紀三郎は下がっていった。……あまり気負う必要はないんだけどな。張り切っているんだろうか。

どんな農業チート使おうかな。オススメのがありましたら是非教えて下さい

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