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義教の野望  作者: ペロリん千代
14/33

強訴、再び

連続更新がきつくなったので次から2日で1話更新とします

1432年(永享三年) 足利義教

俺が遣明船の視察から帰って1ヶ月と少し経過した。現在は宿老達を集めて評定をおこなっている。内容は叡山への対応についてだ。


叡山がまた強訴を行おうとしている。赤松満政が先の山門騒動の後も普通に幕府に出仕しているのがお気に召さなかったようだ。この強訴を主導しているのは円明院兼宗と乗蓮院兼珍だ。前回の強訴と同じだな。他にも金輪院弁澄ら強硬派もいる。


今回の強訴は前回とは一味違うようだ。スピードを重視したんだろう。予想外の早さで準備して、京へと進んでいる。急がねば洛中に侵入されるな。そうなれば洛中は大混乱だろう。幕府の面目は丸潰れだ。奴らはそれが狙いなんだろう。まあすでに混乱してるけども。


警戒を怠ったな。そろそろ動くだろうとは思っていたが、行動に移した後がこんなにも素早いとは思わなかった。やればできるもんだな、叡山って。ガッツはあるらしい。





「山法師どもが洛中に侵入するのは何としても防がねばならん」

「左様、ここで洛中への侵入を許してしまえば山法師どもを勢いづかせるだけよ」

赤松満祐がそう言うと畠山持国がそれに同調する。割と強硬だな。苛ついてるんだろう、無理もない。前回の強訴から半年程しか経っていないのだ。噂を流した甲斐があったというものだ。


「では前回と同じように戦にて叡山の僧兵を討ち、降伏させるということで宜しいですかな」

細川持之が話を纏めて俺に確認する。こいつも管領として良くやってくれてるよ。

「それで良い。急ぎ準備をして向かえ」

「はっ」


今回はおそらく山科あたりでぶつかるだろう。緊急時なので俺も鎧を着る。卯花縅(うのはなおどし)の着背長の具足だ。重いったらありゃしない。40歳のおっさんにはきついわ。金輪際着たくはないものだな。


今回は一色義貫が洛中の警戒にあたり、畠山持国が内裏と御所の警護をしている。そして残りの山名時熙、細川持之、斯波義淳、赤松満祐らが叡山の坊主がやって来るであろう場所に向かっている。この様子ではなんとか迎撃できるだろう。にしても暑いな。鎧が蒸れる。外は太陽の陽射しが強い。今日の天気は晴れ時々坊主だな。嫌な日だ。





1432年(永享三年) 赤松満祐

報告によると山法師どもは日吉神社の神輿を担いで駆け足で京へ向かっているらしい。大したもの達よ、よほど幕府に負けたのが屈辱らしい。我が軍が粉砕して、また敗北させてやろうぞ。


「大膳大夫様、山法師が見えてきました。予定通り配置にお着きになって下さい」

「うむ、心得た」

細川殿からの使者か。管領の仕事にも慣れてきたのだろう。上様からの信任もあるようだ。


我が軍は左翼についている。中央は斯波殿と細川殿が固め、右翼に山名殿がついている。総勢で八千程か。前回よりも少ないが、それは叡山も同じだ。聞いたところによるとおよそ二千五百程。奴らは勝てないことなど分かっている筈。洛中で妙な噂が飛び交っていたらしいが、まさか上様が何かしたのか?





「押せ!」

山法師どもは真っ直ぐ中央を目指して走って来る。愚かな、所詮戦を知らぬ坊主に過ぎんと言うことか。中央は押されているようだが、問題はあるまい。山名殿と私で包囲、殲滅すればよかろう。

ん、誰か来たようだな。上様からか?

「御屋形様!播磨に居られる伊予守様からご報告です!」

「なんと言っておる!」

こんな時に、何が起こったというのだ。嫌な予感がするが。

「播磨にて一揆が起こったとのこと!」

「なっ」

くっ、間の悪い。よりにもよって戦の途中にか。いや、私が戦に出ているところを狙ったのか。早く戻りたいがここで引く訳にはいかぬ。早急に決着をつけてくれよう。

「一気に片を付けてくれるわ!者共、かかれ!」

さらに敵を押す。敵はもはや崩壊寸前に見える。勝負あった!


「御屋形様、敵が引いて行きます!」

「うむ、細川殿に使者を出せ。私はこれより一揆の平定に向かうとな。叡山の包囲には六角殿も加わって貰えばよかろう」

「はっ」

使者が出て行く。これで叡山も懲りたら良いのだがな、期待は出来ぬか。

「よし、これより播磨に帰還する!早々に一揆を平らげてくれるわ!」

軍を回れ右して帰還させる。上様は一揆のことは気づいておるだろうか。後で報告するとしよう。




1432年(永享三年) 足利義教

進軍した幕府軍は山科で叡山の僧兵を打ち負かし、そのまま六角満綱の軍勢も加わって叡山を包囲した。叡山は山に篭って徹底抗戦しようとしたみたいだが、流石に叡山が滅ぼされるのが見ていられなくなったのか、朝廷が和睦を斡旋して来た。


ちょっと想定外だったな。けどまあ、どうせ処罰はしないつもりだったし朝廷との関係を拗らせたく無かったのでしょうがなくその斡旋を受け入れた。和睦の内容は幕府軍が撤兵するかわりに叡山は今回の騒動の首謀者である兼宗と兼珍を追放するということ。叡山は已む無くこれを受け入れた。


京の住人はこれで終わったと喜んでいるらしいが、冗談じゃない。あんな奴らを野放しにする気などさらさらない。向こうも気に入らないだろう。どちらかが諦めるまでこの抗争は終わらないだろう。


叡山はの対応については、朝廷がでしゃばったのは想定外だったが、それ以外は概ねうまい具合にいったと思う。だが、まさか播磨で一揆が起こるとはな。びっくりしたよ。


今回の一揆の原因は満祐が侍所の頭人であったことだ。この役職、結構な権限を持っているんだが京の治安維持の為にある程度の兵を置いておかなければならない。これが播磨の民にとって負担となったのだろう。


「此度、戦の後で叡山を包囲せずに領国に帰還した事、真に申し訳ございませぬ」

満祐がそういって頭を下げる。やめてくれよ、今回は一揆を予見できなかった俺が悪いんだ。

「面をあげよ、大膳大夫。一揆が起きたことはそなたの責任ではない。責任があるとすれば民の不満に気づかなかった余であろう」

「はっ、上様のご寛恕に感謝致します」

満祐との関係は悪くない、寧ろ良好と言えるだろう。監視こそつけているが、不仲になるような事は起こってない。だからこんな事で仲違いしたくはないのだ。


「此度の一揆は侍所頭人としての負担が民にのしかかった結果であろう。故に頭人は一色修理大夫に任せる。よいな、修理大夫」

「はっ」

義貫が答える。こいつならうまくやってくれるだろう。

「大膳大夫はしばらくの間、民を安んじておけ。人心が離れては領地を治めることなど出来ぬ」

「はっ」

駄目だな、俺は。室町幕府のことばかり考えて民の事を考えてなかった。これでは為政者として失格だな。農業チートでもするかな。あれは時間がかかるし、説明が難しいからやめておいたんだがな。まあ、やるだけやるか。


「此度の叡山の処置、如何思われますか」

細川持之が話を変える。

「叡山は徹底抗戦するつもりだったのだろう。大人しくする筈がない」

俺の言葉に全員仏頂面になる。間違った事は言ってないぞ。どうせ俺は煽るからな。必ず叡山の牙をもいでやる。首謀者の追放など意味がない。奴らは必ず動く。今度は持氏と連携するかもな。

俺は存命中に叡山を無力化しなければならない。こんな事が出来るのは俺だけだろうし。

「ではもし次に叡山が動けば、如何為さるおつもりなので?」

満済の問いは尤もだ。奴らが諦めないならやり方を変えるしかない。まるでゾンビみたいな奴らだ。

「奴らが二度と幕府に楯突く事が出来ぬようにする」

俺の宣言に皆が表情を硬くする。まだ何も言ってないんだけどな。俺って皆にどんな奴だと思われているんだろう。

「打ち首に致すのですかな。そのような手段は叡山の態度を硬化させかねませぬが」

どうやら満済にとって俺は、事あるごとに坊主を打ち首にしたがるキチガイらしいな。ちょっとへこむ。

「そのような手が効果がない事は百も承知よ。安心せい、穏便に終わらせる手があるのでな」

「どのような手なので?」

「後でわかる」

俺は素っ気なく答える。後でのお楽しみだな。個人的には結構野蛮な手段だと思うが、打ち首にしないだけマシだろう。

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