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義教の野望  作者: ペロリん千代
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遣明船

1432年(永享三年) 足利義教

一月程前の密談が終わった次の日、満祐が供も連れずに御所に来た。どうかしたのかと疑問に思って聞いてみると、一色修理大夫義貫が俺に対して不満を持っているとの事だった。


そんなこと知ってる、そう言ってやろうかと思ったがわざわざ言いに来てくれたのに悪いなとも思ったので

“良くぞ教えてくれた。感謝するぞ”

って上機嫌で言ってやったらホッとした顔をしていた。多分俺に疑われていると思ったのだろう。

相変わらず勘の鋭いことだ。


その後、義貫はどうするのかと聞いて来たので今は何もしないって言ってやったよ。

驚いていたな。俺が嬉々として処分するとでも思っていたのだろう。失礼な、俺は今まで良く働いてくれた奴を簡単にぶっ殺す程鬼畜じゃないぞ。


義貫は結構できる奴だ。ちょっと感情的になりやすいのが玉に瑕なのだが。処分するのは表立って対立した時か用済みになった時だな。叛意を持つような男をわざわざ用済みになるまで使ってから潰してやる、俺ってばなんて優しいんだろう。全米が涙するに違いない。あ、今はアメリカ無いんだったわ。


とはいえ、これを満祐に言うわけにはいかないので

“将軍に権力が集まっている状況で守護達が危惧するのは尤もである。そんな状況で守護達を安心させていないのは余の怠慢に他ならない”

みたいな事を言ってやったら大層感心した様子だった。政務に明け暮れながらも守護達の心のケアもしないといけないなんてな、非常にめんどくさい。


余りに疲れたのでここらでちょっとサボりたいなと思って、遣明船の視察に行く事に決めた。たまには息抜きが必要だからね。そこからはあっという間だった。

走衆たちは一ヶ月後のお出かけのために警備などについての打ち合わせをずっとしていた。


サボるためだけに行くことを決めたので、ちょっときまりが悪い。今度は不用意にどっか行きたいとか言わないでおこう。でもまあ大したものだ。これなら富士遊覧も大丈夫だろう。


今回の視察の同伴者には赤松満政を筆頭とした近習数人、ちなみに一色持信はいない。今頃洛中で噂を流していることだろう。後は相伴衆である山名時熙、赤松満祐、京極持高や細川持常らもついて来ている。結構な規模だ。





「ほう、意外と大きいものなのだな」

びっくりしたよ。和船を初めて見たがやはり船というのは大きいものだ。

「左様で。某も初めて見たときは驚嘆しましたな。どうやら千石は軽く超えているようで」

山名右衛門督時熙がそれに答える。時熙はもう66歳になる。義満の頃の遣明船を見たことがあるのだろう。

「明までは相当距離があるのだろう。大丈夫なのか」

俺はそう言って近くにいる今回の遣明船の正使、龍室道淵(りゅうしつどうえん)を見る。道淵は大きく頷いて

「問題ありませぬ。必ずや一隻も欠けることなく行くことが出来ましょう」

と答えた。俺が心配性なだけなのかな。どうも和船という物が海を越えるのが想像出来ないのだ。この時代の人にとっては船と言えば和船である。時代の違いを実感させられたな。


今回の遣明船は6隻。輸出品は主に刀剣や硫黄、銅だ。もしかしたら次からは石鹸や椎茸、澄み酒が品目に追加されるかもしれないな。堺の豪商の何人かに話を持ちかけ、そして作らせているんだ。最初は半信半疑だったが本当に作れると知ってからは脇目も振らず作っているらしい。結構なことだ。


幕府はこの貿易であげた利益のうち、一割を抽分銭として徴収する。だが俺が作り方を教えてやった物については国内であげた売り上げの一割、貿易であげた売り上げの二割を徴収する事にした。本当はもっと貰おうかと思ったけど商人とは良い関係を築きたいからね。


船が出航した。幕府の要人達が見守るなか、ゆっくりと進む。船の上では水夫達が慌ただしくしている。海の男か、なんかかっこいいな。次に転生するなら海賊もいいかもしれない。





いやぁ、今回は行って良かった。あの船が宝船に見えたよ。臨時収入がっぽりだな。そろそろ室町御所を新しくしてみようか。心機一転、やはり新居が良いからね。

「上様」

「ん、如何した、刑部大輔」

ん、満政か。どうしたんだろう。忘れ物かな。

「いえ、視察に行っている間に溜まった仕事がありますので、しばらく忙しくなりそうで」

「あ」

いかん、すっかり忘れてたわ。はあ、帰ったら地獄だな。年明けに生まれた竹千代の顔を見て元気出すか。

竹千代の名前は家康から貰ったんだ。あの狸みたいな性格にはなって欲しくないものだが。いや、将軍としての務めを果たすにはそれくらいで丁度良いのかな。




1432年(永享三年) 一色持信

今、私は自邸にて部下からの報告を待っている。一ヶ月程前に上様からお役目を頂いたのだ。内容は洛中に噂を流すこと。一月程おこなったが、効果は如何ほどであろうか。

「兵部少輔様」

どうやら帰って来たようだ。声は明るい。どうやらうまくいっておるようだ。

「如何だったか」

「はっ、叡山の山法師どもは強訴の準備に取り掛かっておるようです。もう一ヶ月ほどすれば行動しだすでしょう」

ふむ、上々だな。次も咎められないとでも思っておるのだろう。だがそれは上様の思う壺よ。

「うむ、目標は洛中か?それとも三井寺か?」

「おそらく洛中かと」

「何故にだ」

「公方様が赤松刑部大夫様を呼び戻したことが気にくわないと」

「左様か」

上様もそろそろ兵庫から戻られるだろう。その時にお伝えしよう。

「良くやってくれた。休んでおけ」

「はっ」


今は自室に一人、これから幕府はどうなるのであろうか。上様が天下に静謐をもたらすのはもはや確実だろう。兄の修理大夫義貫もおそらく処罰される。その時に一色の当主に推されるように今のうちに功績を挙げなければな。

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