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義教の野望  作者: ペロリん千代
12/33

密談

今回はオール三人称です

あとちょっと長め

1432年(永享三年)

ようやく冬が終わり春の陽気が訪れ始めた。しかし未だに夜は冷え込み、気温は10度を下回ることもある。

そんな夜、京の町は明かりが消えて風音のみが聞こえるばかり。だが、京の町の中で一際大きい屋敷の中のとある一室にはほのかな光が輝いていた。





ここでは現在、密談が行われている。故に義教にとって信頼できる者しか集められていない。

「赤松大膳大夫満祐と一色修理大夫義貫の動きは?」

ある強面の男が側で平伏している近習の一人に質問する。この強面の男こそが時の将軍足利義教である。

問われた者の名は赤松刑部大夫満政、先の山門騒動で一時失脚したが、叡山を討った時に呼び戻されたのだ。

「大膳大夫殿はいつもと変わらず、修理大夫殿は上様に権力が集まりつつあることを危惧しておるようです」

満政はスラスラと迷いなく答える。その口調からは揺るぎのない忠義の程がうかがえる。

「うむ、結構」

その返答に義教は満足気に頷く。

「修理大夫は如何するので?」

今度は別の男が尋ねる。この男は一色兵部少輔持信。

一色家当主である義貫の弟ではあるが、先程呼び捨てにしたところからも分かる通り兄弟仲はかなり悪い。

持信の疑問に義教は少し笑みを浮かべながら答える。

「今はどうもせぬ。今は、な」

その返事に持信は嬉しそうに頷く。なぜなら義貫が当主の座を追われれば次は将軍に近い持信が当主となれる可能性が高いからだ。



「叡山は大人しくしておるか?」

叡山は少し前に幕府軍との戦いに敗れ、幕府と和睦した。それからは一見大人しくしているように見える。

「どうやら幕府に屈したことを屈辱と考えているようですな。特に円明院兼宗と乗蓮院兼珍の憎悪が激しいとか」

「余を恨む前に坊主として為すことがあるだろうに……」

義教はため息をつきながら呟く。それを見た満政が苦笑しながら言う。

「全くで。某を呼び戻したことも気に入らないようですな。ここは先手を打ちますか?」

「いや、叡山が再び動く迄は何もしない」

これを聞いた近習たちは目を丸くして驚きを表す。

「では、次に叡山が強訴した時にこれを討ち、重い処罰を下すおつもりなので?」

「いや、次に叡山を討った時もまた許す」

近習たちは義教が何を考えているのか全く理解できない。許してしまっては叡山は増長するだろう。そんなことは義教も分かっているはずなのだ。


そんな近習たちを見て義教はしたり顔で言った。

「そなた達の疑問も尤もである。だがな、叡山を黙らせるためには民衆と武家、そして公家の理解が必要だ。奴等が何度も強訴すれば洛中はその数だけ慌しくなり、鎮圧する守護の負担も大きくなる。さすれば、彼等は叡山を酷く嫌悪するようになる。そんな状況下ならば叡山を処罰しようと不満も少なかろう」

それを聞いた近習たちは驚き、畏まった。こんなことを考え出せる義教を満政は恐ろしく思う。しかしそれ以上に頼もしい、とも思う。

「兵部少輔、洛中に噂を流せ。将軍は仏罰を恐れて叡山を処罰しなかったのだと。これで奴等も強訴しやすくなろう」

「はっ」

持信がニヤリと笑って答える。叡山の行く末を心の中で笑っているのだろう。



「では、大和の情勢は如何だ」

義教は話を進める。大和国は何年も前から騒乱が続いている。事の発端は南北朝の騒乱だ。北朝方であった筒井氏と南朝方であった越智氏が南北朝の騒乱の終結後も争っていた。当然幕府は北朝方であった筒井氏についている。


義教は今まで越智氏に対して撤兵勧告を出していたが一向に収まる気配がない。大きな騒乱にはなっていないものの、京のすぐ近くで争いがあると鎌倉公方に利用されかねない。義教はこれを危惧しているのだ。


以前、義教は討伐の兵を挙げようとしたが、畠山満家の反対によって断念している。故に暫くは不介入方針を示している。だが、現在満家は病床についている。満家が亡くなれば兵を動かすことも可能だろう。


「近々大きな戦が起こりそうです。結果によっては厄介なことになるやもしれませぬ」

満政が答える。これで筒井が負けてしまえば、混乱するのは必至だ。

「うむ、今までは不介入であったが次の戦は支援するとしよう」

近習達が頷く。これで大和への対処が決定した。




「次は銀山についてだ。商人達は如何するつもりであるか」

「はっ、乗り気ではありますが本当に銀が取れるかは半信半疑のようです」

近習の一人が答える。

「無理もない。百聞は一見にしかずと言うからな。石見については海から眺めてみれば分かると言っておけ。利益の分配については採掘してから決める、ともな」

「はっ」

銀山の収益は非常に大きい。今後の幕府財政のことを考えたのだろう、義教が薄く笑う。それを見た近習達が縮こまる。やはり何度見ても慣れるものではないのだ。

「あと、使えそうな商人に石鹸と澄み酒、それから椎茸の作り方を知りたいかと聞いてみよ」

「石鹸に澄み酒、椎茸ですか……。作り方を御存知なので?」

「うむ」

満政の疑問も尤もだ。何故そんなことを知っているのか、どこで知ったのか、聞きたいことは山ほどある。

だが機嫌よく頷く義教を見て、満政は野暮なことは聞くまいと思い、その疑問を口にしなかった

「それと近々遣明船が出るようだな」

近習の一人がそれに答える。

「もう一月程後になるかと」

「これを視察しようと思う。後で準備に取りかかれ」

「はっ」




「最後は鎌倉だ。持氏と上杉安房守憲実、この二人について何かあるか?」

代表して満政がそれに答える。

「鎌倉殿は関東管領と上様の内通を疑っておいでです。そして駿河で何やら動いている様子」

「安房守と持氏との仲は未だ破綻せぬか」

「まだもう暫くかかるかと」

その返答に義教は頷き、目を瞑って思案する。そしておもむろに口を開く。

「富士遊覧についての準備を進めておけ。畠山左衛門督たちは賛成せぬだろうが、仕方ない」

「はっ」

「それと安房守へ再び文をだす。たとえ戦になり、持氏を破ろうとも持氏の一族は誰一人として殺すようなことはしない。だから安心してこちらにつけ、とな」

そう言って義教は硯と筆を準備させる。そして近習の一人が持ってきたそれで文をしたためる。そうしてできた文を近習に渡して関東へと行かせた。



密談が終わり、各々帰ろうとしたとき、ふと義教が何かを思い出したかのように顎に手を当て

「そういえば義昭(ぎしょう)は如何している?」

と独り言のように呟いた。それを聞いた持信が不審がって言う。

「義昭さまでしたら大覚寺におられますぞ。少し前に将軍家のための祈祷をしたばかりではありませんか。何か気になったことでもありますので?」

そう言われて義教は首を振りながら

「いや、なんでもない」

と答えた。近習達はどうしたのかと疑問に思ったが、それについては尋ねることなく部屋を後にした。

そして義教が出て行った後、部屋の灯りは消され、再び闇が広がっていった。





時を同じくして、赤松邸にも同様に薄明かりが灯っていた。

「兄上、一色修理大夫殿からの使いが来ておりますぞ。如何なさいますか?」

そう質問したのは赤松家当主、満祐の弟である赤松伊予守義雅だ。そしてたずねられた満祐は素っ気なく

「追い返せ」

と答える。どうせ上様の事なのだろう、と満祐は思う。ここで会ってしまえば上様に疑われるかもしれない。そんなのは御免だ。

「会うだけ会ってみれば良いのでは?」

だが義雅はそれがわかっていないようだ。満祐は不機嫌そうに吐き捨てる。

「愚かな、上様の目は洛中に張り巡らされておるのだ。ここで会ってみようものなら謀反の疑いをかけられかねん」

満祐の怒気に当てられて怯んだ義雅はしょうがなく使者を追い返す。だが義雅はまだ納得してないようだ。

満祐は一転して穏やかな口調で話しかける。

「そなたの懸念は尤もだ。上様が将軍になってから、次第に我ら守護は肩身が狭くなっていっている。だがな、上様は我らの言葉にもちゃんと耳を傾けてくださる。ならば我らは上様を信じ、幕府に尽くすまでよ」

それを聞いた義雅は不承不承ながらも頷く。


義雅を抑えるためにあんなことを言ったが、義教の権力が日増しに強くなっているのを危惧しているのは満祐も同じなのだ。だが義教と敵対しても赤松家に利益はない。義教は嬉々として赤松家を潰し、弱体化させるだろう。反乱を起こすとすればどうしようもなくなった時。それまでは幕府に尽くすのだと満祐は心に決めている。


一色修理大夫はいつか殺されるかもしれない、満祐はそう思う。ここへ使者を送った事に義教は絶対に気づいているだろう。一色家は4か国の守護、幕府にとっては目障りでしかない。義教がこれを潰すのを躊躇う道理などない。


ここは上様に報告しておこう。身の潔白を示すのに丁度いい。そう思い立った満祐は、日が昇ってからすぐに義教にこの事を伝えるために準備をしようと、部屋を後にした。





後に残された義雅は満祐の後ろ姿を見つめながらため息をつく。

「兄上は何もわかっていない。今は重用されているが

これからどうなるかは分からんと言うのに……。ここは私がなんとかしなければなるまい。赤松の家は潰させんぞ」

そう言って義雅は決意を固めるのだった。



三人称視点ですが、あんまり自信がないです。下手でしたら、言ってください

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