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義教の野望  作者: ペロリん千代
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山門騒動

三人称、はじめました

1432年(永享三年) 足利義教

今、俺は今回の騒動の元凶の一人である赤松刑部大夫満政から話を聞いている。満政は義持の頃から将軍の近習として働いて来たベテランだ。


俺が将軍となって権力を集中させると次第に幕府の中で重きをなすようになった。中々有能な奴だ。

目の前で小さくなっている満政を睨む。


「して、申し開きはあるか?」


「いえ、ありませぬ」


ふむ、言い訳はなしか。中々素直な奴だ。よく考えれば今回の騒動はこいつの忠誠心をアップさせるいい機会だな。うまく利用しよう。


「ならば自身がなぜ呼ばれたのかよく分かっておろう。今回の事は反省し、大人しく処罰を受けよ」


「……はっ」


悔しそうだな。叡山に対して恨み言でも言ってやりたいんだろう。よし、反省もしているようだしここらで助け船を出してやるか。


「だが、そなたの今までの働きはよく知っている。安心せよ、すぐに呼び戻す」


「ま、真にございますか!」


お、感激してるな。


「叡山は増長し過ぎた。ここらで一度討ち、黙らせるつもりだからな。そのあとならば文句は言えまい」


「上様の御温情、感謝いたします」


いいね、作戦成功だ。これでこいつは俺のために一層働いてくれるだろう。


「うむ、その感謝は言葉ではなくこれからの働きにて示すが良い」


「はっ」





あの話の後、猷秀の罪一等を減じて三人を配流すると叡山に伝えた。叡山は一旦受け入れたように見えたがそれを不服としている。どうせ猷秀を斬首に処するべきだと言ってまた強訴するだろう。すでにその動きはある。まあこれは予想していたことだ。


でも叡山の坊主どもが三井寺を襲撃したのには驚いた。どうやら延暦寺と三井寺は同じ天台宗であるにもかかわらず長年対立していたらしい。そして延暦寺の強訴に三井寺が加わらなかったという理由で叡山の坊主どもが攻めたのだ。


対立していたのに強訴に加わるわけがないだろう。叡山としてはただ攻める口実が欲しかっただけなんだろうな。もはやただの無法者だ。


俺は天台宗同士の争いに興味はないので、三井寺には悪いが無視することにした。敵の敵は味方理論で助けても良かったんだけど、めんどくさいし。


最近は忙しいからな、ブラックバイトもびっくりなほどに。面倒事は見て見ぬふりをするに限る。だからね、三井寺の皆さん、幕府に縋るのはやめてほしい。どうやら俺が叡山を討とうとしたことを耳にしたらしいな。


『延暦寺の坊主を野放しにしておけば、必ずや幕府に災いをもたらすでしょう』だってさ、知ってるよ、そんな事。


まあ叡山はいつか討つつもりだったからいいか。ちょうどまた強訴しようとしているところだし。叡山を潰すついでに恩も売れる。一石二鳥だ。よし、宿老達を召集しよう。





「此度は三井寺のからの要請もあった。、もはや討つのをためらう必要もない。あの無類の徒どもを粉砕してくれよう」


俺がそういうと宿老達が全員苦い顔をした。反対したいけど要請されたんじゃ断りづらいって感じか。相変わらずだな。


まあしょうがない節もある。この時代は神とか仏とかが普通に信じられていた時代だ。叡山を討って仏罰が下るのを恐れているのかもしれない。叡山の坊主もそれを理解している。だからこそあれだけ強気でいるのだ。

愚かなことだ、誰に歯向ったのかわかってないらしいな。


「ですが、時の権力者でさえも叡山を討ったことはないのですぞ」


「別にやりたくないならやらなくて良いぞ。余が奉公衆を率いて討つ」


「なっ!」


みんなびっくりしているな。奉公衆の強さを見るのにもちょうどいい、良い機会だ。考える時間をやろう。俺は部屋を出て行く。





義教が後にした部屋は沈黙で支配されていた。


「……如何しようか」


細川右京大夫持之が声を絞り出す。


「ここで兵を出さねば後で上様と戦うことになるかもしれん」


赤松大膳大夫満祐が言う。その言葉に宿老達が顔を見合わせる。満祐の言うことはもっともだ。ここで兵を出さなければ、義教に警戒されて討伐の兵を向けられる可能性は充分ある。


「だがやはり叡山を討つのには賛成できぬ。もう一度説得に向かった方が良いのではないか」


尚も持之は渋る。神仏に刃を向けるのは躊躇われるのだ。そしてそれは他の宿老達にも当てはまる。そこかしこでどうすべきか話し合う声が聞こえる。だが、何も決まらない。


ここに畠山左衛門督殿がいれば……。


皆の気持ちは同じだった。長年幕府の重鎮だった畠山満家の存在は大きかった。だが今は自邸で療養中だ。もう長くはないだろう。


他に頼りになる人は居ないかと全員の視線が満済に向かう。ここで沈黙を続けていた三宝院満済がようやく口を開く。


「各々がた、ここは兵を出されては?幕府が本気であることを伝えられれば叡山も慎重になる筈」


この一声で全て決まった。やはり満済の存在もまた大きいのだ。


「では某はこれより出兵の準備にかかろう」


山名右衛門督時熙の言葉を皮切りに一人、二人と部屋を出て行く。そして部屋には満祐一人が残った。目を瞑り、何かを考えているのか。


「上様はどこを目指しておるのか……」


その独り言に答える者は何処にもいない。そして満祐はゆっくりと立ち上がり、同じように部屋を後にした。


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