最終話
最終話です。いつも通り、文章的に・状況的におかしいところがあればコメントで。
スガガガガガッ!
ダァン!ダァン!
銃弾の雨霰。穿たれる地面。徐々にショッピングモールが跡形もなく粉砕されていく様は、さながら世界が荒廃したような終末感がある。
「……ちぃ!」
とっさに物陰にかくれる祐司。跳弾による不規則攻撃は避けるのが難しい。かといって、持っている高周波ブレードで弾き返せるぐらいの簡単な弾筋でもなく。
体に傷を負うこととなった祐司は、一度退避しているのである。
今このときも、獲物をさがして戦車は行進と弾丸を止めない。
「あ………うあ…………」
微かに聞こえたうめき声。発砲音に紛れて聞こえたその声を祐司は聞き逃さなかった。
その方向に顔を向けると、生きているのが奇跡と言えるほどの怪我を負った人間がいた。下半身がないのである。
そして無慈悲にも人間に向かっていく機械兵。その銃口はきっちり頭を狙っていた。
(やめろ………やめろぉぉっ!!)
パパパパパパパパパン!!
命は散った。
「………………っ」
自身の不甲斐なさに苛立ちを隠せなかった。
「らぁ!!」
痛みを無視して弾かれたように駆け、刃を振り抜く。機械兵を殺し、そのままの勢いで戦車へと肉薄する。
表面を傷つけ、キャタピラ部分に突き立て、こちらに向かれる前に回り込む。そして繰り返す。
「うああああああ!!!」
型なんて崩れた。がむしゃらに、ただ目の前の敵を殺したくて。その手の刃を振るう。『死ね、死ね、死ね』と心で呪いながら。
落ち着きがなくなったやつから死んでいく……それは自分が一番知っていそうで知ってなかった言葉だったのかも知れない。
「だあああああああああっ!!!」
命も燃やしてなお特攻する。自分の命を削りながら動く祐司は、一種の蒸気機関車のようだ。燃料がつきれば動かなくなるのである。
……戦車が顔もないのに笑う。それを見たものはいない。
□□□
「発見しました!数百メートル先に大型の自立型機械兵!恐らくは大ペルソナと思われます!」
「よくやった!準備を整え次第攻撃を開始する!」
第一部隊のメンバーも大ペルソナへと近づいていた。勝俊はこれから戦う『戦車』の強さ、そして他の敵勢力の規模などに頭を悩ませているのだが。
「……戦車と3つの大きなエネルギーの波か。異能者が戦っているのは確かなんだが………んー……」
「隊長。どうされました?」
「……いや、なんでもない。」
敵対しなければ大丈夫。異能者との戦闘は可能な限り避けたい。そもそも戦う理由がないのだ。戦車を倒すという同じ目的を提示して協力できたなら……と考えに考えを巡らせるのだった。
□□□
「はぁはぁ…………っ…はぁ」
そろそろ限界だ。これ以上の戦闘は祐司の体を壊しかねない。すでに棚が立ち並ぶ通路などはなくなり、ただの瓦礫が散らばった広場になっていた。
所々に飛び散っている血痕。人間が昏倒するぐらいの血液は流れ出ている。それでも立っていられるのは気力以外の何者でもない。
「………がっ………」
頭が真っ白。耳も遠くなって音がくぐすもって聞こえる。正面から受けた衝撃で後ろに浮き飛ばされた。
「……………」
壁にぶち当たり、ガクンと崩れ落ちる。腹は紅く染まってドクドクと血をだし続ける。痛みはない。既に痛みや感覚が分からないほどに身体を消耗していた。
意識がもうろうとするなか、影が近づいてくる。明らかに人間の影ではないそれにせめて抗おうと睨み付ける。
無慈悲にも向けられる銃口。これを受けたら間違いなく死ぬ。数々の戦いで繋いだ連勝が途切れると同時に死ぬ。祐司という存在がここで潰える。家族に会うこともなく消える。姉を一人にして先に旅立つ。世話になった人達に恩も返せず亡く。
目から、血が混ざった涙がこぼれ落ちていった。
□□□
数分後。レーダーの反応が消失した。勝俊は異能者がやってくれたと微笑む。正直自分達で倒せるのか不安だったのだ。ほっとするのも無理はない。
「隊長!大ペルソナ発見しまし………え」
先行していた一人の隊員が目にした光景。とたん失禁する。
「お、おい!なにしてんだ!!」
あとからついてきた隊員もその方向に向く。
……『終末世界』。
そこの空間だけ世界が終わったような終末感が、場を支配していた。
瓦礫のしたに撒き散らされた肉片や内臓。鉄の臭いと混じって糞尿の臭いも漂う。紅の絵の具で塗りつぶされたような真っ赤な地面に広がるは死体の山々山々山々山々山々山々山々山々山々山々山々山々山……………。
高く積み上がった人間の死体は、狂信じみた何かを感じさせる。
そして、殺されていた大ペルソナ。死体の山に身を預けるように事切れていた。
「…………うっ!」
勝俊も直視したとたん目を反らす。
あれは見ていけない。………しかし見ないといけない。向き合わなければいけない。いきたかったであろう人たちのために。
死亡者・約453名
負傷者・約1526名
重要人物死亡者・谷川祐司…死因・銃撃による大量出血。
調べた所、このあたり近辺にいた機械兵達を1つ残らず壊したのは谷川祐司だった。右手に握っていた高周波ブレードによる一撃必殺立ったのは一目瞭然。勝俊のように一刀両断していたのだ。
肝心の大ペルソナの死因だが、後頭部らしき部位に巨大な刃が突き刺さって死んだと鑑識が言っていた。
祐司の武器ではそんな大きな傷を残すことはできない。分厚い何かが刺さっていたのだ。ペルソナの装甲さえも貫く巨大な何かが。
捜査も一段落したところでショッピングモールの外に出る。あんな鉄と糞尿の臭いのなか長時間いるのは無理があった。
既に警察や救急、他の超能力部隊も到着しており悪い意味でガヤガヤしていた。
そのなかでポツンと、虚空を見つめている少女がいた。正気じゃないことは確かである。目の奥が暗い。
谷川知古。正式名称『mark1』。作られた子供である。
その弟に当たる『mark2』こと、谷川祐司も作られた子供。
『対 鏡霊用生命兵器』として作られたこの二人は、殺すために作られた生命兵器の試作品。二人で1つ。片方が指揮を執り、片方が忠実に戦う。
この社会は実態……自分達が死にたくないだけで、超能力省という建前省を作り、非人道的なクローンを量産して戦わせている。腐っている。日本が、世界が。
もちろんクローンということは元となった人物がいる。その二人は全く関係のない赤の他人。面識もない。
自分とそっくりのクローンを見たその二人は『ウケるーw』と笑い飛ばしていたのを、勝俊は覚えている。
「……………くそっ。」
何が超能力省だ。クローンを作って、使い潰しながら大ペルソナと対抗している。作られたとはいえ一人の人間として扱ってもらえない彼らに表現しきれないほどの悲しい思いを抱く。
さらに、異能に気に入られ最強の生命兵器にするために、ありとあらゆる化学物質を融合させている。ここで死ななくても、あと数年もすれば自然に体が壊れ始めていた。
すでに異能者のデータはとれており、それをもとにして新しいクローンを作り、量産し戦わせる。その一つ一つの思いも知らずに。知ろうともせず、無視して。
………あまりにも酷すぎる。日本はいつからこんなに捻曲がっていたのだろうか。
「……………」
まだ虚空を見つめ続けている知古。端から見れば家族が死んで呆然としているようにも見えるが……死んでいる。
二人で1つのmark1、2は、情報と命を共有している。別々にしなかったのはコストを押さえるため。社会の屑さがみてとれる。命すらも自由にしてもらえない。
片方が死ねば心臓部となるコアが停止し、互いのラインが切れて動作不能となる。その数十分後に生命活動を終了する。
つまりは祐司が死んで数時間たった今、既に二人は息を引き取っている。座っているが、ちょっと押すだけで倒れるだろう。
ふと、空を見上げた。快晴。昨日まで雨が降っていたとは思えないほどの天気。
この空のどこかに神がいるなら……と、勝俊は思う。しかしいたとしてもそれに願うことは、心が許さないだろう。 母も許さないに違いない。
全ての人間の愚かさから生まれた、この欲にまみれた世界。はっきり言って大ペルソナに滅ぼされても仕方がないと思う。世界を正すためにペルソナは生まれてきたのではないか?と勝俊は日々頭を回転させながら考えに考えている。
『人間』という0番目の大ペルソナ……『愚者』を殺し尽くすためにペルソナは出てきたんじゃないかとも考えてしまうのだ。
いつかの時、『愚かが殺しつくされたとき』に、世界はどんな景色を見せるのだろう……。
一人、天を見上げて、そう思ったのだった。
短い間でしたが、ありがとうございました。ものすごい短編でしたので、頑張ったかどうかはわかりかねますね(T_T)
自分なりに頑張って書ききったので嬉しいかぎりです。
こんな短い小説を読んでいただいて感謝なのですが、面白かったでしょうか?自分的には読んでくれるのかな…とか思ってたりして、少し不安でした。
ですが、コメントで『面白かったです!』って来たときは本当に嬉しかったです。ありがとうございました。本当に!
名残惜しいですけど、これで終わりとさせていただきます。ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございました。心より感謝申し上げます<(_ _*)>