2話
状況的に成り立ってないようなおかしい部分があれば、コメントでお願いします。
帰り道をまっすぐ帰る青年。特に寄り道はせず、家で待つ知古のことを思いながら歩を進めていた。
青年の高校は休校となり、全校生徒が帰宅となった。
その原因はペルソナの出現。死者29名と比較的少なめではあるけども、死体が残る学校で授業をするというのは環境的に精神的にモラル的におかしいところばっかりなので…という理由により休校。
「……………」
今回のペルソナを出現させた生徒は三年の西川竜二。剣道部所属、腕はたつけどもインターハイでは予選落ち。先週行われた最後の大会で高校剣道は終わっている。
大方悔しさからの鏡霊変化。自分の命なげうってまでなにをしたかったのだろう。青年は腑に落ちないでいた。
杖、剣、硬貨、杯からなる小ペルソナ。今回のは確定的に剣だろう。攻撃方法も念力のような単純なものだったが、攻撃は強力だったと青年は思う。10番目位の強さだろう。
青年は足を止めて、左に向く。自宅へ到着したのだ。
玄関の扉を開け、
「ただいま」
と声をかける。お返事に
『お帰りぃ!』
と頭に響いた声。この家唯一の家族だ。青年は靴を脱ぎ、リビングへと向かった。
「チコ姉、夕飯できてる?」
『出来てるよぉ。今日は鍋だ!』
「四日連続だね。ちなみになに鍋?」
『キムチ!』
「四日連続だね…………味も?!」
会話を繰り広げるのは黒髪の少女。名前を谷川知古という。あだ名はチコ姉。
背中まで伸ばした髪は艶やかな輝きを放ち、黒真珠のごとく美しい黒目は少しつり目で子猫のようだ。
容姿端麗。その四文字を体現したかのような彼女は、誰がどうみても美少女と思える姿の持ち主だ。
しかし、喋ることができない。生まれつき声帯に異常があった知古は、それを切除し声が出ないのだ。
しかし意志疎通は可能。彼女のテレパシー能力により会話はできる。
『侮ることなかれ!今日はお裾分けで頂いた特上豚肉を鍋に使うぞぉ!』
「鍋に使うなら焼いた方が上手いだろ!」
『分かってないようだね、祐司。キムチ鍋に特上肉をしゃぶしゃb』
「じゃ焼くよー」
『ああああああああ!!』
谷川祐司。異能者とは思えない平凡な日常だ。
□□□
夕食を終えた祐司は、ソファーで寝転びながら暇をもて余していた。高校からはこれといった宿題はでてないし、一般家庭にはあるものであるテレビもない。
できることと言えば能力の練習ぐらいだが、こんな住宅街で出来ることは少ない。むやみやたらに使って良い力でもない。見つからないよう普通の人間のように暮らすことが、超能力者達の社会への溶け込み方だ。
ピコン。
机に置いてあるケータイがメールの着信を伝える。わざわざ取りに行くのもめんどくさいので念力で引き寄せる。
「…………チコ姉ー」
『んー?』
「しばらく学校休みだから、どこか行く?」
『おー行く行く!』
ケータイの画面に映し出されたメールの内容。学校が明日から一週間の臨時休学になったというものだった。
「今日は……6月の10日か。」
『どれどれ……そしたら17まで暇なんだよね?行きたいとこあるんだけど…良い?』
家事を終わらせた知古はとことこと歩いてきた。ソファーに手をかけ、顔を祐司に向ける。
身長が中学二年生の頃から伸びてない体は、超能力発現による副作用。その歳は20歳(美女ならぬ美少女)だというのに、周りからは兄妹としてみられる。
因みに知古は、ちゃんと会社に勤めており経理関係のお仕事である。仕事場では『経理課の小鬼』と恐れられ、伸ばしに伸ばしたその実績で経理課を牛耳ったらしい。。。
「いいけど、どこ?」
『デパート!今度友達の家で新入社員パーティーするから、ケーキと料理の材料の買い出し頼まれてて……荷物もちお願い!』
「ストレートだね。良いよ。でも、残りの六日間どうすれば良いかなぁ……」
………そのときに考えれば良いかなと考えるのを止めた。明日にチコの買い出しを手伝うようにし、することもないから祐司は自室へ行き寝た。
□□□
「…………さてと、姫はなんでいつも俺を呼び出すのかなぁ?」
「良いじゃないの。寝てるときは私暇なんだし。」
意識がないはずの夢の中で、祐司とその対面に浮いている赤い少女が喋っていた。祐司としては静かに寝てていたいところだが、この少女が許さないらしい。
その姿は朱と白しかない十二単のような着物を着た赤髪の少女。髪は地面に着くほどの長さ、地面には足がついておらず浮いていることがわかる。
「あなたが起きてるときでも私は喋っていたいけれど…」
「やめてね。ボソボソ喋ってたら今のいじめがもっと酷くなるから。」
「力を見せつければ良いじゃない。私は貴方なんだから、自由に使って良いのよ?」
そう言いながら、彼女の周りに火が灯り始める。生きてるように跳ねたりくるくる回っていたり、火の玉同士が鬼ごっこしていたり。
祐司の体に宿すは『火殺姫』と呼ばれる少女の異能。その火は少女の名前からあるように、必ず『殺』めると言われる程の力を持つ。
実際、彼女の前に現れる敵のなかで生き残ったものはいない。とどのつまり祐司はペルソナ相手に負けたことがないのだ。
「……人に見せつける力じゃないよ」
「真面目ねぇ。まぁ貴方の言うとおりにしますけど。」
こんな感じでほぼ毎日の睡眠時間は火殺姫と会話をしている。生活には支障はないが、寝起きに疲労感が残る。祐司はため息をついた。
□□□
世界に超能力者は存在しても、異能を持つ能力者はほとんどいない。世界に存在する『異能の意識』が主を選ぶからだ。
『火殺姫』
『水生帝』
『雷乱兵』
『土城楯』
『然槍士』
代表格であるこの五つの異能の意。他にもいくつか存在は確認しているが見つかっていない。もちろん名前も不明だ。
「姫は他の異能達にあったことない?」
「もう何百回も答えたわよね?あってないわ。」
「だよねぇ……ごめんね。」
「良いのよ。決まりでしょ?」
超能力者は少ない。故に言葉による発言力がなく、過去に人間と同等というあつかいをされず、人間の権利を剥奪された。
それをよく思わなかった一部の人間が力を合わせ、ちょうどよくペルソナという兵器の効かない生物も現れ、紆余曲折して形として成したのが『総合超能力省』なのである。この省に超能力部隊が存在するのだ。
この省のお陰で超能力者は、人間と同じ権利と引き換えにペルソナと戦うことで現代社会で生活できるようになった。
今ではこの省の代表『杉山はじめ』は絶大な支持を得ている。
チマチマと発現していく超能力者達も、この機関へ申請すれば大丈夫という風習のようなものが定着して、現在日本では約1万人が超能力者と言われている。
少し外れたが、現代社会で生きていくためのお金や日用品、仕事の斡旋などの手当てを貰うには、次に一度の情報提供が必須である。
噛み砕けば、大ペルソナに対抗するための強力な力を持つ意思体、『異能の意』の捜索だ。祐司は異能である火殺姫に他の異能について何か知っていることはないか訊ねること124回。
「まぁ、いつも通りだねぇ。」
力の余波を感じるとか、フラグ的なもので見つかるわけでもない。そもそも祐司が起きてるときは異能は寝ているのと同じなのだから、力を感じるもくそもないのである。
つまりはなにも知らない。
「収穫はなし。起きたら書こう。」
なら祐司が気配を探れば良いと思うが、超能力者であろうともとはと返せば人間。人間のスペックが一般人なら気配を察知する事なんてできるはずがない。戦闘であれば場数を踏めばなんとかなるものではあるが……国の高性能レーダーにも反応しない異能の意を人間が察知する事なんて不可能なことだ。
「7日後か……」
ふと、頭の中で携帯に映し出されたカレンダーを思い出す。7日後は休校が終わって学校が始まる日、18日だ。そして国から支給された大ペルソナ出現確率と日が書かれた書類。
「18日から95%だったはず」
「それは『しゅつげんかくりつ』というものね?人間の計算って当たるの?」
「当たるも当たらないも確率だし…そうなるかもしれない確率が高いってだけだよ」
大ペルソナ襲来までのタイムリミットが迫っていた。