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愚かを殺しときに  作者: あー
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1話





・超能力者………通称『サイキッカー』。超能力(サイキック)という、通常の人間には出来ない事を実現できる力を持つ者達。

世界の全人口の約0.1%が超能力(サイキック)を持つ人間とされている。これは後天性、先天性関係ない記録である。

通常の人間が発現する確率は1%。精神的なショックで発現する事もないとは言えない。






少年は空を見上げる。夜の色に支配された空は、満天の星空によって装飾されている。


その下。少年の足元には、元は人間だったであろう物体が転がっていた。


それは荒野の景色。少年の膝から下にあったのは、同じように原型をとどめない物体達。

それひとつひとつに紅い血で彩られ、彼岸花のように見えた。


空に天の川があるのなら、こちらは三途の川なのだろう。


少年はふと思い、空へと目をやったのだった。








「………………♪」


窓辺の席に腰掛け、音楽を聞いている青年。机の下から伸びているイヤホンで、不良生徒のようにも見えてくる。

が、今は休み時間。生徒達の憩いの一時である。

彼は一人、ポツンと音楽を聴いていた。


「……………♪」


ガスッ


そんな彼の頭に、紙くずがぶつけられた。そのくずのなかにはパンの袋と、いつも通りの辛辣な言葉が並べられていた。


「……………………」


彼はそれを一瞥し、机の上にそっと置いた。


決してブスではない。成績も偏差値65ある学校の10位以内には入る。運動神経もある。


そんな彼がいじめられた原因。


7月の始めに転校してきて、何も話さず、ただ音楽を聴くだけ。

話しに来た人たちもいた。

それらに、ただただ相づちを打っていた。

ついには『嘘つき』のレッテルもはられた。



そして、誰も近寄らなくなった。

代わりに紙くずが毎日といっていいほど飛んでくる。



それをただ、ただ受けて、今日も音楽を聴く。





翌日の今日。朝から彼のもとへ歩いていったのは、学年で一番怖いとされる不良たちである。その目的は青年を罵るためにあった。あわよくば日常の鬱憤を晴らそうとも思っていた。しかし、


「……………」


…………今日は少し違った。青年の顔や雰囲気がだ。


彼の顔にいつも存在していた笑顔がない。虚空を見つめ、にこやかな笑顔でいつも音楽を聴いていた彼の顔。


今日はなかったのだ。


代わりに、その目にははっきりとした何かを宿していた。


普通の人間では近づけない何かが。



その突如、廊下に紅い花が咲き誇った。数秒遅れて女子生徒の悲鳴が上がる。


廊下を歩いていた生徒が、ごく自然な流れで手が折れ、足が逆に曲がり、首が180度反対に回った。その後胴体が右に捻曲がり、腰がプレスされたように押し潰された。



「………………ん」


彼は立ち上がり、阿鼻叫喚の中を進む。

逃げる生徒の逆へと歩いていく。


「…………うん」


着いたのは『技術室』。物造りを主としている生徒達が来る教室。


引き戸を引いて、中へと入っていく。


「………っ!」


中はカーテンを閉めきられ、電気もつけず、クーラーは着いてるはずもなく蒸し暑いサウナに変わっていた。


「なやはやまから?」


日本語ではあるが日本語になっていない言葉を並べる物体。


………鏡霊(きょうれい)。通称『ペルソナ』。

人が作り出した、この世に居てはいけないモノ。

その人の負の思いが鏡のように写され、実態として顕現する。それがペルソナ。


「……………貴方は、貴方じゃないことはわかっていますか?」

「……っ」


彼の問に動揺を示したペルソナ。心も写してしまうペルソナは、記憶でさえも写してしまう。

ペルソナなのにペルソナではないと言い張るということもあり得ない話ではない。


「………わかってるのなら話は早いね。じゃ死のう?」

「のはかすにちまら!」


拒絶の意を示すペルソナ。幼児のような拙い手を青年に伸ばす。


「……………。」


ザッ…と足に力をいれ、前方へ弾ける。圧倒的瞬発力を生み出した青年の姿はペルソナでさえも視認出来なかった。

そして、痛烈な前蹴りがペルソナの腹部に炸裂する。


「ギァ?!」


ペルソナの不定形な体がへこむ。数秒間その状態を保ち 、突然勢いを思い出したかのように後ろへと吹き飛んだ。


窓が壊れて外へと落ちていった。


「…………」


気配を察知し、部屋から勢いよく出る。

まだ終わってなんかいない。


――――――!!


部屋が捻れていく。軋む音や壊れる音を鳴らしながら右周りに捻れいった。


「本気なのかな。」


青年は外へ行くため駆け出した。




全校生徒が外へと出ていく。避難訓練ではない、本当の異常事態に生徒達は我先にと外へと飛び出していく。


訓練なんてものは全く功を成さなかった。



パリン。



三階の教室の窓が割れた。その音に気づく人間は少なかった。そして、気づいた生徒達の目には不定形のモンスターが落下している景色が映し出されていた。






「うわ…外に避難してるか」


青年は困ったようにグラウンドをみやる。力を見られるのはとてもじゃないが悪い。

しかしながら放っておくと死人が出る。既に数十人が死んでいるのは確認した。全員死亡も時間の問題である。


『あいつら』が来てくれればこんな考えなくても良いんだけど。


「…………噂をすればなんとやら……」


『対象確認!総員戦闘準備!第二班は避難した人間の守護に当たれ!』

『『『はっ!』』』


なんとも軍人のような真似事をしている空飛ぶ集団。それはペルソナに対抗できる唯一の存在『超能力者』で構成された戦闘部隊『第五部隊』、通称『SAI』だ。


『サイコキネシス用意………撃て!』


隊長らしき人間の前に並んだ五人の人間。そいつらは手を前にだして、まだ動けるらしいペルソナへと間接的衝撃を与えた。


バァン!バァン!バァン………と立て続けに鳴り響く破裂音。サイコキネシスは空間を歪ませ、すると自然に起こる元に戻ろうとする力、それで衝撃を与える。

その戻る音が、とても破裂音に似ているのだ。


外野が「やれ!」や「がんばれ」と応援する。少し希望が見えたらしい。目は輝きを取り戻していた。


「ギヤァァァァア!!!」


ダメージを負って苦しむペルソナ。それでも死にはしない。

サイコキネシスは武器で言うとハンマーに近い。斬れもせず、貫くことも出来ず。衝撃をぶつけるだけの力だ。


慣れてくれば貫通、切断も可能になってくるのだろうが、青年の知る限りそんなことができる奴は数人程度だ。あいつらにできるとは思えない。


「かしなやらたあぉさまはらかやまさたばふたやにっ!!!!!!」


やられたらやり返す。どの生命にもその感情があると思う。つまりはペルソナの反撃の始まりだった。


ギチチチチチッ………


空間がねじ切れるぐらいに捻れる。そこの空間だけ景色が反転し、また同じ景色へと戻る。それが何度か繰り返されていった。


「………これはヤバイ」


ぐるぐると渦巻く空間。もはや景色は見えず、黒い渦巻いた線しか見えない。空間を捻りに捻った結果だ。触れば巻き込まれて渦のような形の肉塊、放たれればその方向にミキサーのような空間が襲う。細切れにされるのである。


「……あいつらダメかも」


『シールド展開!!』


前方に青白い壁が発生する。彼らにしたら頼れる防壁なのだろう。青年から見れば薄いなぁと思うが。


「『し』なやら、『ね』はゎあかわ」


殺意のこもった念。そう、青年には聞こえたのだった。


捻りに捻った空間が螺旋を描き、壁へと射出される。衝突、と同時に壁が瓦解した。


『な』


ゴォァァァァァ!!!!


竜巻のような猛威が部隊に襲いかかり。



過ぎ去るあとは、なにも残ってはいなかった。



「…………いゃぁぁぁぁぁぁぁぉぁあ!!!!」


戦える人がいる、それだけが心の頼りだった人たち。それが死んで、場は阿鼻叫喚となる。


護衛の超能力者達もドサッと膝をついたり、ヘルメットで見えないが絶望した顔でペルソナを見ているのだろう。


彼らにはペルソナはどのように見えるのだろうか。


悪神?邪神?それとも他の何か?


……多分違う。

目の前にあるものは災害ならぬ『災厄』。

その四文字で表される生物は、非情なまでの力を持つ。


翼を生やし、この場所への終焉を迎えようとする。その手を下さす者を止められるものは居ないと全員が思っていた。




「……『火殺姫(ひあやひめ)』。」


その言葉で火が青年の右手に灯る。灯った火は長く伸びて、一本の槍の形を成した炎となる。


それがいつのまにか数十本を越えて生成されていた。


「……今日のお天気は」


青年は槍を空中存在するペルソナへと向ける。


「小雨程度の槍が降り注ぎますが」


全五十本は越えると思われる槍が射出される。さながら赤い彗星のようだった。


「雲を払う爆裂が起き」


ペルソナへと槍が吸い込まれるように飛んで行き……




「『晴れ』となるでしょう。」





―――――――――――――。





爆発。そして火柱が上がる。ペルソナであろう叫びが聞こえた。


雲へと届き、衝撃が走った。


雲を払い………眩しいほどの晴れだった。





………青年は教室へと戻り、帰る準備をする。数十人の死体があるなかで授業をするなんて学校も考えないだろうから。








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