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「人間恐怖症」  作者: 白石幸人
8/11

2chは心の掃き溜めな件

07


そんなこんなで、一ヵ月後。

あれから僕たちは何度かの泥仕合を経て、なんとか「江ノ島」旅行計画を成立させることに成功した。成功した、といっても、無理やり個人個人の願望をただ詰め込んだだけで、それはハンバーグと焼きそばとお寿司とパフェをぶち込んだお弁当みたいに全く整合性のないものであった。

けれども、彼等にとっては少なからず、魅力のあるものであったに違いない。何せ、それがどんなゲテモノ料理であるとはいえ、修学旅行という一大イベントであることには変わりないのだから。

そんな、みんなの涙ぐましい努力の結晶のような修学旅行当日、僕は盛大に寝坊したわけである。

昨日の夜に、「なんだか体調が悪いから、もしも明日時間になっても起きてこなかったら、学校に電話しておいて」と両親に頼んである。両親も好き好んで僕に干渉してくる種類の人間ではなく、寧ろ関わらないことで家族という形を保っている種類の人間であったから、特に突っ込まれることなく了承を得た。

そして、僕は安心して眠りに就き、こうして最高の朝を迎えたわけである。


気が付けば、時刻は午後の二時を回っていた。共働きである両親は、とっくに家を後にしているはずだ。

僕は携帯になんの着信も着ていないことを確認すると(あの四人の誰とも連絡先を交換していないのだから、当たり前っちゃあ当たり前のことであるが)、徐にパソコンを立ち上げた。こんな日は、ゆっくりとアニメを観るに限る。

パソコンの準備ができる間に、洗顔や着替えを済ませ、居間に準備されていた朝食のスープを片手に、パソコンの前に腰を下ろした。

適当に最近のアニメのトレンドを確認しようと、今ではすっかり二番手に甘んじているインデックス型のサーチエンジンのトップに飛ぶ。そして、「アニメ オススメ 2016」と入力しようとしたところで、ふと入力バーの下にならんだニュースが目に入った。


【神奈川県藤沢市江ノ島 市営バス事故で高校生ら七名死傷】


少し、血の気が引いた。

起きたばかりでまだ血の通いきっていない指先が更に冷えていくのを如実に感じながら、僕はゆっくりと、そのニュースの見出しをクリックした。


【十五日午後一時頃、神奈川県藤沢市江ノ島で乗客を乗せたバスが対向車線を走るトラックと正面衝突し、乗っていた二一名のうち十八歳から三十五歳までの高校生を含む六名と乗員一名の合わせて七名が死亡し、全員の身元が確認されました。警察は午後二時すぎから同市が運営するバス運行会社を過失運転致死傷の疑いで捜索しています】


 寝起きに見るには最高に最悪な記事だった。

 しかしながら、これはまだ単なる連想に過ぎない。車の事故なんて、全国で毎日起きているだろうし、ましてや、それに知り合いが遭遇するなんて確率は極めて低い。神奈川県の「江ノ島」、そして乗客の「高校生」というワードから、僕はその可能性を連想してしまっただけだ。

そう自分に言い聞かせつつ、僕はすっかりご無沙汰になった2chの専ブラを立ち上げた。

昔からどんな事故にも目撃者がいたように、最近の事件も例外なく目撃者というものがいるものだ。そんな目撃者の持っている情報というものは、近年の急速なネットワークの普及によって、迅速に非目撃者に共有されるようになっている。ようは、電車内で悪いことをすると、ツイッターに挙げられ、炎上凸されてしまうってことだ。

 その「壁に耳在り障子にメアリーネットワーク」の元祖たる2chは、ライバルの台頭によってその威光が薄れつつはあるが、厳然と存在している。今もその情報量はネットワーク社会のバックグラウンドとして機能している。

 僕が該当板に辿り着くと、検索をかけるまでも無く、目的のスレッドが目に入った。


【バス衝突事故】江ノ島バス衝突、居眠り運転の可能性も [無断転載禁止]


「やめろ、みるな」と頭の中の自分が警告してくる。クソッタレ、そんなことは、わかっている。けれども、今更やめることなんてできなかった。

スレッドをスクロールしていく。大概の書き込みは「またブラック経営か」とか「整備不良か?」とか名無しさんたちの身のない身のないつぶやきにしか過ぎなかったが、僕が探していたものはそんなものではなかった。

 身元が確認されている以上、その情報はどこかに発信されているはずだ。その人の訃報を、死を、つながりをもった人たちに迅速に伝えるために。

 スクロールを続けると、「頭を強く打つって、中身出てるときに使う表現だっけ?」とか「あぁ、また貴重なマ○コが・・・」なんて書き込みが目に入る。やはりここは、チープテイスト・ゴミ虫・アンダーグラウンドなんだなと再確認した。自分とは関係のない人の不幸を啜りながら、わらわらと蠢くゴミ虫以下の存在の溜まり所であることは、変わりないようだ。 

 そんなゴミ虫どものつぶやきをかわしながら、下へ下へと降りていくと、目的の書き込みを見つけた。


【死亡者のFace Book発見

https://ja-jp.facebook.com/nakagawa.mariko】


アドレスの中に、「中川」と読める文字を見つけて、さらに気分が悪くなった。だけども、事実を確認するためにわざわざこんなゴミ虫ランドに足を踏み入れたので、見ないわけにはいかなかった。


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