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「人間恐怖症」  作者: 白石幸人
6/11

未来が見えるならロト6を的中させて欲しい件

05


「こんにちは。僕の名前は西野梨人です。漢字をそのまま読んで、みんなにはりじんて呼ばれてます。クラスは三組です。特技は運命をみることです。みんなと一緒に江ノ島に行くことは、ずっと前からわかってました。よろしくお願いします。」

西野はニコニコと人懐っこそうに笑いながら、躊躇することなく、自己紹介を終えた。

最悪だった。クソ虫に引き続いて、嫌いな種類の人間が二人もいるとは。今すぐにでも二人を殴りつけて教室を出て行きたかった。

「あ、ちなみに中川さん。僕は染髪もパーマもしてないよ。白髪で天パーなだけ」

中川と呼ばれた女の子はびくっと反応した。さっき安凪の演説に対して拍手をしていた女の子だ。女の子はさぞ驚いたという顔をしていた。

「す、凄い!なんで考えてたことがわかるの!?」

待て待て、良く考えろ、お前だけが考えてたんじゃなくて、高校であんな頭していたやつがいたら、大体のやつは同じこと考えるだろ。ってか西野がみえるのは人の思考じゃなくて運命って設定だろ。運命って人の思考の集まりだっけ?どんだけお前の頭の中は空っぽなんだ。もっとよく考えろよ。

「ははは、中川さんに髪のことを聞かれるのは運命だからね、知ってたよ」

僕がこの種類の人間が嫌いな理由は一つ。僕は否定されることが嫌いだということである。

この種類の人間は、自分で適当な嘘をつき続けた結果、自分でも何が本当で何が嘘かわからなくなってしまった人間だ。身近な例で例えるならば、「私霊感があって、幽霊がみえるんだよね」って言っちゃう種類の人間と同じである。最初は、自分が他の人と違う特別な人間だと信じたいけれども、けれどもそんな人よりも優れた能力がないやつが、他人がその真偽を確かめようのない能力があるように振舞うことで、特別視されようとする。その結果、本当に自分には霊が見えるように錯覚してしまうのだ。

世界とは案外単純なもので、そうであると思ってみると、そうであるように見えてくる。例えば、同じ山に濃い霧が発生するという事象も、現代ならば寒暖差による飽和水蒸気量云々と説明するし、科学技術が対等する前の江戸時代やもっと昔などならば、竜神様や妖怪などの仕業と説明するだろう。結局のところ、世界をどうみるか、どう解釈するかなんてものに、真理と呼ばれる究極的な正しさなんてものは存在しない。

話を戻すと、霊が見えるという種類の人間は、そういう風に世界を捉えているだけなのだ。だから、霊が見えるという人間事態を否定はしない。けれども、そういった種類の人間の質の悪い点は、そういう風に世界を見ない、現代でいえば科学技術において世界を捉える、所謂一般の人たちと差を意図的に作り出そうとするところである。出発点が、自分が特別でありたいという願望から出発した人間ならば尚更、普通の人間との間に違いを作りたがる。だから、他の人を否定することで、自分を肯定するのだ。「あぁ、あなたには霊がみえないからね」とさも自分の世界の見方が真理であるように振舞いたがる。しかしながら、そういった真理という特別な存在を信じる時点で、それは近代において作り出された世界観を踏襲しているのである。つまるところ、世界に根源という真理を見出す時点で、それはとてもありふれた、手垢塗れの、陳腐な考え方なのである。

そんな陳腐な考え方をした人間に否定されることなど、僕はまっぴらごめんだ。だから、僕は、西野のような種類の人間が嫌いなのである。

「あぁ、それと、僕は運命がみえない人を否定したりはしないよ。それはただ、僕とは世界の見え方が違うだけだからね」

少しビクっとした。それは今自分の考えていたことが西野の口から出てきたということもあるが、それ以上に、名指しをしないまでも、西野がじっと僕のことをみていたからである。

 簡単なことだ。僕のような凡人はいくらでもいるから、僕が考え付くようなことを、西野は他の誰かに言われたことがあるのだろう。そして、一番怪訝な顔していた僕に向って、先手を打ってきたのだ。そう思うと、何だかイライラしなくもないが、僕は何も言わなかった。

「うむ、運命がみえる能力・・。非常にマイノリティで美しいではないか!」

隣でクソ虫が何か言っているが、僕には何も聞こえなかった。聞きたくもなかった。


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