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「人間恐怖症」  作者: 白石幸人
3/11

修学旅行不可避な件

02


「高校の修学旅行が江ノ島ってありえなくない?」

高校生として、至極真っ当な意見である。仮に高校生でなかったとしても、誰もがうなずく主張ではないだろうか。

先も述べたように、読んで字の如く修学旅行というイベントは、高校生活の終わりを彩る、華やかな物であるべきである。然るに、当然、修学旅行で訪れる土地というものは、その人にとって特別な場所であるべきである。

例えば、京都や奈良という場所は修学旅行としては定番であるが、それは京都や奈良という土地が関西を代表する名所を有するものであり、尚且つ、それが関東にある学校に通う生徒にとって、珍しいものであるからである。

もちろん、僕たちの学校が極端に貧乏で、江ノ島でしか修学旅行が成立しないといった特別な事情があるわけではない。むしろ、学校側からは、修学旅行先として、ちゃんと五つの選択肢が提示されていた。「アメリカ」「中国」「北海道」「沖縄」「江ノ島」の五つである。

 杜撰過ぎるにもほどがある。グローバル化は叫ばれて久しいこの世流に逆らうことなく、しっかりと海外の地を押さえたことは評価したい。日本の北端と南端も、その多くが関東から出たことない我々にとっては、特別な場所たりえるだろう。けれども、江ノ島とは何事か。東京に十八年も住んでいれば、江ノ島なんて一回は訪れたことがあるだろうし、仮になかったとしても、行こうと思えばいつでも行ける距離である。つまり、僕たちにとって、江ノ島という場所は、全然特別ではないのである。


そんなわけで、「江ノ島」という選択肢は、最高に不人気だった。一学年で二百人いる生徒の中で「江ノ島」を選んだのは、たった五人だけである。いや、この場合に限っていえば、五人もいたと言えるのかもしれないけれど。

かく言う僕も、そんな高校生活の一大イベントを敢えて棒に振る、最高に不人気な選択肢を選んだキチガイの内の一人である。理由は至極簡単で、僕は修学旅行なんてものを、これっぽちも楽しみにしていないからだ。

 まず第一に、僕には、誰かと一緒に旅行に行くなんて、何が楽しいのかわからない。誤解を恐れずに言わせてもらうならば、旅行とは、消耗した自分の精神の保養のために行くものだ。それを、高々何年か同じ枠組み居ただけの、名前と部活くらいしか知らない、見ず知らずと言っても過言ではない、赤の他人と行動を共にするなんて、気が休まるはずがない。むしろ、気を張りすぎて、疲弊するに決まっている。そんな、目的と結果が背反するような、非合理的な行事が楽しいはずがない。だから、僕は修学旅行に行きたくない。

 第二に、修学旅行にはお金がかかる。ひどく当たり前のことを言うようだけれども、いくら学校行事であるとはいえ、修学旅行ほど大規模なものとなると、それなりのお金がかかるものだ。しかも、その額は普通に生活している分には、そう簡単に請求されることのないものである。もちろん、一介の学生にしか過ぎない僕は、学費を含めて、もろもろの生活に必要なお金を両親に負担してもらっているわけだけれども、いくら血の繋がった家族だからといって、そんな楽しくもない、苦痛しか得られないし残らない、わけのわからない行事なんかにお金を使って欲しくない。それはせっかく両親が齷齪働いて稼いだお金を、手放しに溝に捨てるようなものだ。だから、僕は修学旅行には行きたくない。

 第三に、僕はもう既に、江ノ島を訪れたことがある。これは、「だったら江ノ島以外に行けばいいじゃない」とか反論されそうだけれども、他の選択肢に比べて滞在日数や、かかる経費など、上記二点の理由を絡めて考えるならば、僕にとって他の選択肢を選ぶことなんてありえない。だから、この「江ノ島」という選択肢しか選べないけれども、しかし同時に、その選択肢が「江ノ島」である時点で、それは修学旅行としての意味がなくなる。だから、僕は修学旅行に行きたくない。

 けれども、いくら理由を並べたところで、修学旅行を堂々と欠席するわけには行かない。行く前から「僕、修学旅行なんて興味ないんで」なんて中二病も真っ青な切れ味鋭い言葉を吐きたいけれども、生憎、先生や両親の前では優等生である僕に、そんなことはできない。だから、もしも休んだとしても、先生や両親が「まぁ、江ノ島だしなぁ」と考えることを妥協してくれるような選択肢を選んだのだ。

つまり、僕は最初から、修学旅行になんて行く気はなかったのである。



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