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「人間恐怖症」  作者: 白石幸人
2/11

とりあえず、寝坊してみた件

01


人は皆、中学生になれば小学生の頃は良かったなと言う。そして、高校生になれば中学生の頃は、大学生になれば高校生の頃は、社会人になれば大学生の頃は、退職すれば現役の頃は良かったな、と言う。もちろん何事にも例外というものは存在するので、「生まれてこの方、良かったと思える時期なんてありません」なんてひねくれた人もいることだろう。しかしながら、それでも、多くの人が、過ぎ去った過去を良かったと懐古するということは、多くの人間にとって、今の自分が過去の自分を羨むように、今日という今の自分が過ごしている時間は、明日の未来の自分が羨む時間であることを示している。つまるところ、人間にとって「今」という時間ほど、大切な時間はないということである。

現在高校三年生である僕にとっても、この高校生としての時間は、ほどなく現れるであろう、大学生としての僕が羨む時間であるのかもしれない。

けれども、敢えて僕は、今まで長々と、助長になりながらも、それっぽく形作った屁理屈を自らぶち壊し、声を大にして叫びたい。「高校生なんてつまらない。さっさと終わってくれ」と。


繰り返して言っておくならば、現在、僕は都内の市立高校に通って三年目になる高校生である。加えて言っておくならば、僕は街中で見ず知らずの人からお茶に誘われるほどイケメンではないし、実はインターハイチャンピオンだったりするわけでもない。

けれども、白状してしまうならば、僕にはちょっとした能力がある。僕は、一度「みた」ものを忘れないのだ。

人はそれを「絶対暗記能力」だなんて、天才の象徴として崇めたりもするけれども、僕のは、そんなご大層なものではない。

 僕の能力を聞いて、「えーじゃあテストとか楽勝じゃん。ズルじゃん」とか言ったりするやつがよくいる。だが、それは間違いだ。僕も他の人と同様にちゃんと勉強をしなければならない。例えば、何でも持ち込み可能の試験があったとして、何を持ち込んだとして、問題を解くために必要な知識は何か、その知識はどこに書いてあるのか、その知識をどうやって使ったらいいのか、までしっかりと理解しなければ問題は解けない。

「絶対記憶能力」を持つ人が天才と呼ばれるのは、その人たちの多くが、その膨大な量の記憶というデータの演繹と帰納を繰り返してありあまるほどの高い思考力を持ち合わせているからである。僕にはそれがない。HDDが100テラバイトで、CPUがセルロンのゴミパソコンみたいなものだ。

 それに、加えて言っておくならば、確かに僕の頭には、今までにみてきたものが全て忘れられることなく保存されている。けれども、逆に言うとそれは、今までにみた、忘れたいと思うような出来事を、知識を、感覚を、全て忘れることができていないということなのである。


なんて、少しセンチメンタルを気取ってみたけれども、つまるところ、僕はどこにでもいる高校生であるということである。そんな平々凡々とした高校生である僕が、今何をしているかといえば、これまた平々凡々と、今日から始まった修学旅行のパンフレットと眺めながら、自分の部屋でテレビを観ているだけである。

 少し違和感を覚えるかもしれないが、今日から始まった、と言う表現は、決して間違いではない。現に、一ヶ月の準備期間をもってして周到に計画された、高校生活を鮮やかに彩るであろう一大イベントは、今日という日に予定を変更することなく、厳然と実施されている。だから、始まった、という表現は正しい。

 そこで、何が正しくないかといえば、そんな、皆が待ちに待ったイベントが実施されている中、僕が自室でテレビを観ていることだろうか。もちろん、実は修学旅行の目的地が僕の家で、僕は皆が到着するのを待っているなんてファンタスティックなオチは存在しないし、あってはならない。

つまるところ、何が正しくて、何が正しくないかというと、そんなことはわからない。ただ一つだけわかっていることは、僕は寄りにも寄って、修学旅行当日に盛大に寝坊したということである。



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