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「早速、会ってしまったんだね」
トモエの話を聞いて、星夜はそう言った。
「会ってしまった――って、どういうこと? 私の見たあの人は、一体何者なの?」
「彼も僕自身さ、まぎれもなく」
「どういうことなの?」
星夜の言葉が、トモエには理解できなかった。分かるのは、どうやら星夜という人間はふたりいるらしい、ということだ。けれど、もちろんその意味を知る由もない。
「もっと、僕のことについて、詳しく話さなければいけないかな」
星夜は話し始めた。
「なぜ、僕がこの“真実の深淵”にたったひとりでいるか分かるかい」
トモエは無言で首を横に振った。
「それはね、僕の生まれながらの性質のせいなんだ。ユメのセカイは人々の思考や感情で構成された世界で、一部の人間は自らの精神をそこに投影できる、という話はこないだ話したろう」
「うん」
トモエはうなずく。初めてこの世界を訪れた時に、聞いた話だった。
「その能力は、その人が生まれながらにもつ、いわば才能なんだ。でも、その力にも個人差はある。ほら、勉強やスポーツでも、得意な人や不得意な人がいるだろう。それと同じさ。この世界に入り込む力も、人によって違う。力の強い人は眠っている間、この世界を自由に動き回ることもできるし、弱い人はこの世界に入り込む頻度も低く、普通の夢との区別がつかず、入り込んだことにさえ気づかないということもある」
「星夜はどうなの?」
「――僕は、その力がとてつもなく強いんだ。他の人たちと比べられないくらいに。だから、僕はこの世に生を受けた時から、頻繁にこの世界とあちらの世界を行き来することになった。その果てに、僕の精神は肉体から完全に遊離し、ユメのセカイの中でももっともディープなこの空間に閉じ込められてしまった」
「そんなことって……」
「何度もボールを壁に向かって投げていたら、手元が狂ってボールがあさっての方向に行ってしまうこともあるだろう。それと似たようなことさ」
星夜の例えは、トモエにとって分かるような分からないような――といった感じだった。ただ分かったことは、星夜は肉体と精神が現実世界とユメのセカイというふたつの世界に分離したままであるということ、そして精神はこの真実の深淵から出られなくなってしまったということ。つまり、星夜はこれまで、ずっとこの空間にひとりだったということだ。
「……星夜は、それでいいの?」
トモエは訊いた。
「え?」
「星夜は、この世界から出ることができないんだよね。ずっと今までひとりだったんだよね。寂しくなかったの?」
「トモエ……」
「そんなわけないよね。私だったらきっと耐えられないよ。それなのに、どうしてそんな平気な顔していられるの?」
まくしたてるように言うトモエの顔は、とても悲しげだった。星夜の境遇を、まるで自分自身のことのように感じているようだ。
「ありがとう。そう言ってくれて、とても嬉しいよ」
星夜は穏やかに言った。
「星夜――」
「でもね、僕はこれが僕のさだめだって、もう受け入れているんだ。外には出られないけれど、この場所から外の世界を見たり感じたりすることはできるしね。それに、君が来てくれた――それだけでも十分だよ」
「星夜」
トモエは星夜の名を呼んだ。
「うん?」
「私が、ずっと、星夜の友達でいてあげるからね」
「ありがとう」
星夜はにこりとした笑顔を浮かべた。トモエも目を細めた。まぶたのすきまから、涙がこぼれて、頬を筋となって流れた。