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「はっ」
気がつくと、トモエは歩道の上に立っていた。
振り返ると、病院の入口が見えた。
(私、何してたんだろう。たしか、病院の屋上から飛び降りようとして、そしたら変な生き物に呼び止められて、それから――)
トモエは屋上を見上げながら、これまで起こったことを思い出してみた。もしかして、夢だったのかな――という考えが頭をもたげた。まるで夢のように現実味の薄い体験だったことは確かだった。
けれど――、とトモエは思う。夢ではなく、本当にあったことであって欲しい――と願う。トモエの中で、あの場所での経験は、それだけきらきらと輝いていた。
そう、それは、まるで夢のように――。
(そうだ。きっと夢なんかじゃない。私は出逢えたんだ、かけがえのない友達に――)
トモエはそう思い、歩き出そうとした。その時――、
どかっ!
誰かにぶつかった。
「あっ、ごめんなさい……!」
とっさに謝り、ぶつかった人を見て、トモエは驚いた。
そこにいたのは、先ほどユメのセカイで出逢った少年――平沢星夜と同じ顔をした少年だった。けれど、まるっきり雰囲気が異なる。あちらの世界で出逢った星夜は、表情は柔らかで、まっすぐな目でトモエを見ていた。しかし、目の前の少年は、表情は乏しく、心なしか顔がこわばって見える上、トモエを見てはいても認識しているかすら怪しい。
「こちらこそごめんなさいね」
少年を連れた母親と思しき女性が、抑揚のない声で言った。そのまま少年の手を引き、病院の方へと歩いてゆく。
(なぜあの子、星夜と同じ顔を……)
病院に入ってゆく母子の背中を眺めながら、トモエは思った。
疑問に対する答えを見つける術もないままに、母子は入口の自動ドアの中へと吸い込まれてゆく。少年の姿が見えなくなっても、トモエはしばらく茫然とその方を眺めていた。
(――一体どういうことなの?)