2-1
2
気づけば、トモエはだだっ広い空間に立っていた。
ここはどこだろう――と、トモエは辺りを見回す。空気がきらきらとした色彩を放っていて、とても美しい。
『まっすぐ歩いてきて』
どこからともなく声がした。見ると、足もとに道がある。トモエは声に従って、それを歩いてみた。しばらく行くと、また声がして、方向を指示してくれる。そんなことを何度か繰り返し、進んでいくと、目の前に大きな水のカーテンがあった。
『そのカーテンを引いて』
トモエは声に従い、カーテンに手をかける。ずぶり、と水に手を入れる感覚があった。そのまま腕をなぎ払うと、カーテンは一瞬にして大量の水玉となり、ばしゃばしゃと音を立てて地面に落ち、水しぶきをあげた。けれど、不思議なことに、トモエの身体はまったく濡れないのだ。
水玉がすべて地に落ち、静かになる。トモエは改めて前を見た。すると、そこには大きな庭園が広がっていた。視界の中心に、白いテーブルがあって、ひとりの少年が椅子に座っている。
その少年は、トモエの方を向いて言った。
「こっちへおいでよ」
それは、さっきまで聞こえてきたものと同じ声だった。自分を誘導していたのはこの人だったのか、とトモエは思いながら、少年の方へと歩いてゆく。近くで見ると、トモエより少し年上くらいの男の子だった。
「ようこそ。ここに来るのは、君が初めてだよ」
「あなたは誰?」
トモエは訊いた。
「僕は平沢星夜。この世界の住人さ」
「この世界の住人ってどういうこと? ここはどこなの?」
トモエは質問を重ねた。突然、見ず知らずの場所に来て、混乱するばかりだ。
「それについては、これからじっくり話そうかな。その前に、君の名前を教えてくれないか」
「鶴洲トモエ」
トモエは短く答えた。
「トモエ――だね」
星夜と名乗る少年は、穏やかにほほ笑みながら、手を自分の向かいの席の方へと差し出した。
「とりあえず、座ってよ。紅茶入れてあげる」
星夜は言った。トモエは彼に従い、椅子に座った。星夜はテーブルの上のティーポットからカップに紅茶を入れて、トモエに差し出した。カップを手に取り、一口飲んでみる。かぐわしい香りと、味わいが広がる。けれど、不思議なことに、飲み込むとそれと突然、すぅっ――と消えていった。お腹に入ったという感覚も覚えない。
「僕も君のことを色々聞きたいな」
「色々って?」
「君がここに来るのが初めてなように、僕も君に会うのは初めてだ。だから、君のこと、色々知りたい」
「分かった。でも先に、あなたの方から話してね」
改めて彼を見る。整った顔立ちと、穏やかそうな表情が印象的だ。少なくとも、悪い人ではないように見える。
トモエは思った。
(もしかして、この人が私の友達になってくれる人なのかも――)