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ユメ見る魔法少女エピソード0 / The Dreamin' Magical Girl  作者: Tomokazu
第一話・夢の世界のお友達
4/10

1-2


 トモエは再びビルの下へと視線を戻した。もう躊躇いはなかった。さあ飛び降りよう――と、トモエは膝にぐっと反動をつけた。その時――、

『ちょっと待って――』

 どこかから声がした。

 背後の気配にはっと振り返ると、見たこともないような小さな生き物が、つぶらな瞳でトモエをじっと見つめていた。

(幻覚……?)

 トモエは思った。目をつむり、首を数回左右に振って、再び目を開ける。以前としてその生き物はそこにいた。

『鶴洲トモエだね』

 その生き物は云った。

「あなた、誰?」

『誰? ……そうだなぁ。“宇宙の意志の権化”とでも呼んでもらおうかな』

 変な名前――とトモエは思った。

「その“宇宙の意志の権化”さんが、私に何の用なの」

『君に頼みたいことがあるんだよ』

「私に頼みたいこと?」

『魔法少女になってほしい』

「……は?」

 トモエはあっけにとられた。あまりに唐突で、突飛な申し出だと思った。

『もっとも、魔法少女という言葉にそれほど意味はない。君たちが親しみやすい言葉を選んだまでだ。でも、“魔法”という言葉に関しては、これほど的確な表現はない』

 トモエは何も応えない。何を言えばいいのかさえ分からなかったのだ。さらにその生き物は続けた。一方的に話を聞かされる状態だ。

「――君は、人智を超えた力を手にし、その力を使って人々の幸せを守るために戦うんだ。これを魔法と呼ばずして何と呼ぶだろう』

「戦うって? 何と?」

 ようやくトモエは言葉を発した。

『この世にはびこる“悪意の化身”とさ』

「――――?」

『まぁ今は分からなくてもいいよ。詳しいことはおいおい分かってくるはずだ。君たちの生きるこの世界のしくみも一緒にね』

「でも、どうして私なの?」

『君にはその素質がある』

「……素質?」

『これも今は分からなくてもいい』

 “宇宙の意志の権化”は、トモエが困惑していることを察したのか、軽くため息をつき、少し親しげな口調になって言った。

『唐突な申し出であることは百も承知さ。でも、僕は君にどうしても魔法少女になってもらいたいんだ。もちろん、ただでとは言わない。何かひとつ願い事を叶えてあげよう』

「――願い事?」

『こんなところにたたずんでいるのは、何か訳があるんじゃないのかい』

「…………!」

 その通りだった。トモエは自殺するためにここに来たのだ。死ぬ覚悟はそれなりにあったつもりだった。でも、もし本当に願い事を叶えてくれるとしたなら、死ぬ必要はないんじゃないか――、そんな風にも思えてくる。

 トモエは考えてみた。自分の願いって何だろう。

(お父さんをあの女から引き離すこと? それとも私を虐げてきた人への報復?)

 そう思ってみたものの、トモエはそれをすぐに否定した。

(ううん、そんなの望んじゃいない。それより、やっぱり自分が幸せになることだ。周囲に溶け込み、みんなと仲良く過ごしていけること、これが一番じゃないかな)

 トモエは“宇宙の意志の権化”に今思った願いを告げようとした。しかし、寸前で言葉を呑み込んだ。なぜなら、直前にした自分自身の心の声に止められたからだ。

(待って。違うよ……)

 心の声は彼女自身にそう呼びかけていた。

私の本当に望むことは、それじゃないよ――。

 トモエは思った。自分が周囲と同じになってしまえば、今度は自分が誰かを見下してしまうようになるかも知れない。自分がされてきたことを今度は自分がしてしまう結果になる。

 そんなのは嫌だ――。

 トモエは思い、そして今度こそ願いを決めた。まっすぐな視線で、“宇宙の意志の権化”に向かって訴えた。

「私、友だちが欲しい。私のように周りから不当に評価され、悲しい思いをしながら、それでも頑張って生きている人ような人が」

 瞬間、トモエの周囲が目がくらむほどの激しい光に包まれた。盲目の光の中、トモエは“宇宙の意志の権化”の声を聞いた。

『君の望みは叶えられた。たった今から、君はこの現実世界とは違う、“ユメのセカイ”に行けるようになる。そこに君の望んでいる友だちはいるはずだ』

 ふいに、ぐらり、という感覚があった。トモエは背中からビルの外へと身体を投げ出していた。

「きゃあああああああ!」

 トモエは思わず叫び声をあげた。彼女の脳裏で“宇宙の意志の権化”の声がする。

『心を解き放つんだ。迷いや躊躇いを捨てて、神秘の世界にその身を任せて!』

 トモエは落ちてゆく恐怖の中で、心を解き放つよう努めた。その時、知らないうちに伸ばしていた手をガッ――とつかまれる感覚があった。落下の感覚がなくなり、トモエは宙に浮いている形となった。見れば、空にスリットのような裂け目ができ、その隙間から一本の腕がにゅっと伸びて、トモエの手をつかんでいる。

 その刹那、トモエの意識はその裂け目の中へと吸い込まれていった。



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